膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

凍結肩(Frozen shoulder)

Nat Rev Dis Primers. 2022;8(1):59.
 
凍結肩(Frozen shoulder: FS)は癒着性肩関節包炎・四十肩/五十肩と呼ばれ、非常にコモンな肩の症状である。
関節リウマチの治療していても肩の症状が残ることは非常に多く、凍結肩としての治療を実施すると著明に改善する事が多い。
とても良いレビューだったのでかいつまんでまとめてみた。
 

【ポイント】

  • 凍結肩(Frozen shoulder)は「関節包の慢性線維化」によって起こる
  • リスクは多種多様で、糖尿病と言った全身性疾患もリスク
  • 炎症期・拘縮期に別れ、病態・治療も異なる
  • 病態にはGrowth Factor, サイトカイン(IL-17A)などが複雑に絡み合い、炎症から線維化を起こす
  • 診断基準はなく、基本的には病歴・身体所見(ROM制限など)から臨床診断を行う
  • 確立した治療法はなく、薬物・理学療法の他注射・外科的治療などがある

【凍結肩とは?】

  • 凍結肩(Frozen shoulder: FS)は癒着性肩関節包炎・四十肩/五十肩と呼ばれ、非常にコモンな肩の症状である
  • 障害有病率は一般人口の2-5%で、50−60代での発症が多い
  • リスク因子…多種多様
表:凍結肩のリスク因子

 

【病態】

  • 関節包の慢性線維化」が病態の中心
    • 肩関節包の繊維増殖性組織の線維化・滑膜増生→関節容量の減少・関節包の硬化→運動制限・疼痛
  • Stage…3段階に分かれる

  • 炎症メカニズム…いくつかのメカニズムが関与している
    • 軟部組織の免疫細胞・メディエーターによる組織の恒常性維持の破綻?
    • Pro-infkammatory cytokine…TGFβ・IL-17A・IL-33、AGEs
    • 炎症に伴う血管増生
    • 膠原線維の変化
    • 代謝因子(高血糖高脂血症など)
  • 大雑把には以下の通り
    1. 全身疾患(代謝状態の変化など)・外的リスク因子(外傷・手術後など)・内的リスク因子(腱板病変など)に伴って炎症性・線維性環境を惹起する
    2. この結果Substance P, Growth factor, サイトカイン(IL-1、IL-6、HMGB1、IL-17Aなど)が産生される
    3. この結果、線維芽細胞の活性化・増殖、生のフィードバックを促進し、さらなるGrowth factor, サイトカインの産生がおこる
    4. サイトカインによるT細胞活性化・IL-17Aの産生誘導の結果、マクロファージ・B細胞・樹状細胞画像化する
    5. これらすべての因子が機械的ストレス・マトリックスのターンオーバーの不均衡とともに、線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化を誘発し、組織の線維化・収縮を起こす
 

【診断】

  • 定まった診断基準はない
  • 疼痛部位は肩・肩甲骨・胸部・上腕等広範囲で、肘関節より上の範囲に放散する
  • 突然発症/予期せぬ動きでの肩疼痛、可動/受動運動の制限(ROM制限)が特徴的だが非特異的
    • 肩峰下病変は受動運動制限があることが多く、鑑別に役立つ
図:凍結肩の診断アルゴリズム

  • 頚椎評価も必要…頚椎病変による神経根症状評価も必要
  • 肩峰下病変(ローテーターカフ病変・肩峰下滑液包炎)と凍結肩の鑑別が困難な場合、局所麻酔投与によるinjection testも有効
    • 肩峰下への局所麻酔薬(1-2cc)注射を行い、疼痛が改善するかをみる(エコーガイド下有無どちらでも良い)
    • 凍結肩の場合疼痛・運動制限が残存するが、肩峰下病変の場合改善することが多い
 

◎ROM制限

  • ROM制限の評価が重要だが、患者が疼痛/恐怖から自己制限している可能性があるため注意
  • 特に外旋制限有無が重要だが、立位で制限があっても仰臥位/側臥位で評価する必要がある
  • 凍結肩は関節包病変であり、動作の途中部分での等尺性筋力検査をしてもほぼ疼痛は誘発されない
表:肩関節のROM

※個人的には外転制限(インピンジメント有無)・外旋制限は最低限見ている

 

◎画像診断

補助的に用いる。最も大事なのは問診・身体診察
  • X線写真は正常なことが多く、必須ではない
  • MRI…関節包と烏口上腕靭帯の肥厚が見られることがある
    • 軟部腫瘍による二次性凍結肩の除外に役立つ
  • 超音波検査…
    • 初期病変…関節包と烏口上腕靭帯の肥厚
    • その他…上腕二頭筋長頭腱浮腫、パワードップラー陽性
    • 動的エコー…外転中の肩峰下棘上筋腱の運動制限
 

【治療】

確立したマネジメントはない
治療選択肢は多彩…理学療法薬物療法ステロイド注射、外科手術など
重要なのは、症状の軽減(疼痛緩和・可動域/機能の回復)である
表:stageごとの治療アプローチ

  • 患者教育…凍結肩の経過について説明する
    • 炎症→拘縮であることを説明
    • 疼痛が強い時期では無理がないレベルで動かす
    • 適切なセルフエクササイズが必要
  • 理学療法…炎症期・拘縮期両方で有効
    • NSAIDs…ROM改善に効果はない
    • ステロイド…長期的な鎮痛効果は乏しく、治療中止後のリバウンドに注意
  • 関節内ステロイド注射
    • 炎症期には有用だが、長期的な効果はあまりない
    • 低頻度だが副作用もある…血管壊死、感染症、筋合併症、疼痛の増加、糖尿病の悪化
  • その他…Hydrodilation therapy、Collagenase clostridium histolyticum (CCH)など
    • Hydrodilation therapy:関節内に大量の生理食塩水を注射し、関節包を拡張させる治療
      • ステロイドを併用しても良い
      • 短期的な疼痛緩和・ROM改善に優れており、長期に持続する
      • 投与量は報告で様々…6-10mlで十分?(Pain Pract. 2020;20(8):948-949.)
      • 注射の方法は後方アプローチ(背面から肩甲上腕関節を狙う方法)・前方アプローチ(前面から烏口上腕靱帯-上腕二頭筋長頭腱間を狙う方法)の2つがあるが、前方アプローチのほうが効果的という報告もある(Clin Rheumatol. 2020;39(12):3805-3814.)
表:肩関節へのHydrodilation therapy(一例)

※あくまでも一例。座位で行うことも可能。
 
  • 外科的治療…上記で改善が乏しい場合に考慮する
    • 麻酔下マニピュレーション(MUA)…局所麻酔(神経ブロックなど)実施後、肩甲上腕関節のROM方向すべてに受動的ストレッチを加える
    • 関節鏡下関節包リリース(ACR)…関節鏡下で異常な関節包を除去/切除する
 

【感想】

  • RA患者だろうとなんだろうと凍結肩が起こることは非常に多く、かなり厄介な問題である。
  • 自分としては、肩関節痛患者に以下の所見がある時に「凍結肩かも」と思って治療することが多い
    1. 関節炎患者の場合、関節炎が落ち着いている
    2. ROM障害が出ている…特に外転・外転制限 or 背中側で手を組めない
    3. 局所的な所見が乏しい(肩峰下滑液包炎等の病変がない)
    4. (+画像所見に乏しい)
  • 上記があった場合、診断的な治療として肩関節へのHydrodilation therapyを行い、改善有無確認を見て考えることが多い。本文献的にそんなに間違ったやり方ではないかな、と思っている
    • 日本では生理食塩水のみの注射は現状保険適応外なので注意
  • 特に重要なのは患者教育と自主的な運動なので、そこの指導は多職種で行うべきだろう。