膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

Rituximab投与中のリウマチ性疾患患者へのエバシェルド

2022年現在Covid-19流行から2年以上がたち、ワクチンを中心として様々な対策が取られている。一方でRituximabによるB細胞枯渇療法を受けている患者はワクチンの恩恵を受けにくく、Covid-19重症リスクも高い。最近発症抑制目的でのモノクローナル抗体としてエバシェルドが使用されつつあるが、RTX投与中のリウマチ性疾患患者への適応についてはよくわかっていない。
エバシェルドについての基礎知識をまとめつつ、適応とすべきか考えてみた。現状データがないに等しく、よくわからないというのが正直なところ。
(2022年10月時点でのデータです)

エバシェルド基礎知識まとめ】

Rituximab(RTX)投与中患者におけるCovid-19ワクチンは、健常者と比較して効果が落ちるということがわかっている。
一方でRituximab投与中患者のCovid-19重症化リスクも高いことがわかっている。(Lancet Rheumatol. 2022 Mar;4(3):e154-e155. など)
このため、ワクチン以外での防御策を考える必要がある。
長時間作用型モノクローナル抗体tixagevimab/cilgavimab(エバシェルド®, Evusheld)の発症抑制目的での投与が日本でも認可され、化学療法中の血液疾患患者を中心として投与が始まっている。
 
Rituximab投与を受けているリウマチ性疾患患者への投与に関しても日本リウマチ学会から10/26に通知が出た。
 
エバシェルド®投与方法
  • 発症抑制目的の場合、成人には300mg(tixagevimab150mg/cilgavimab150mg)を筋肉内注射
  • 流行状況に応じて600mgも可能
 
◎投与対象
  • 抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者
  • B 細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから 1 年以内の患者
  • ブルトンチロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者
  • キメラ抗原受容体 T 細胞レシピエント
  • 慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用し ている造血細胞移植後のレシピエント
  • 積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者 ・肺移植レシピエント ・固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから 1 年以内の患者
  • 急性拒絶反応で T 細胞又は B 細胞枯渇剤による治療を最近受けた固形臓器移植レ シピエント
  • CD4T リンパ球細胞数が 50 cells/μL 未満の未治療の HIV 患者
ということで、RTX投与を行っているリウマチ性疾患患者には実施可能
 
  • 薬剤費は無償、受診料・手技料は自己負担(Q4)
  • 薬剤配分を希望した医療機関でのみ実施(Q4)
  • かかりつけ患者でなくても実施可能(Q5)
  • オミクロン変異株への有効性は不明(Q12)
  • ワクチンとの間隔は気にする必要はない(Q13)
 

エバシェルドの有効性に関しての元論文】

N Engl J Med. 2022;386(23):2188-2200.が最大規模の臨床試験であり、紹介する。ただし、論文の患者群と実臨床で悩む患者群はかけ離れていることに注意。
多施設共同二重盲検並行群無作為化プラセボ対照試験(2020年11月21日〜2021年3月22日に実施)
Clinical Question: ワクチン接種への反応不良リスクの高い成人への AZD7442(tixagevimab/cilgavimab)単回投与は、Covid-19感染リスクを減少させるか?
Short Answer: 症候性Covid-19リスクを減少させる(中央値6ヶ月フォローでRR82.8%減 (95% CI 65.8 - 91.4))
 

①Method

P(患者):Covid-19ワクチンへの反応不良リスクのある患者(5,973 人)
  • 反応不良リスク…60歳以上、肥満、免疫不全状態、有害事象は無いがワクチンは受けられない、うっ血性心不全COPD、慢性腎疾患、慢性肝臓疾患
  • ワクチン未接種・Covid-19未感染の患者が対象
    • スクリーニング時にSARS-CoV-2血清検査が陰性が必要
    • 除外対象…SARS-CoV-2感染の既往、スクリーニング時のSARS-CoV-2陽性、SARS-CoV-2感染予防のためのワクチン・バイオ製剤、投薬成分に対するアレルギー
I(AZD7442群): AZD7442 300mg(tixagevimab150mg/cilgavimab150mg)単回投与
C(プラセボ群):生理食塩水投与
  • 投与群とプラセボ群は2:1で割付け(3460人, 1737人)
O(Outcome):有害事象の発生率、症候性Covid-19発生率(Primary)
  • 症候性Covid-19…事前に規定された症状+症状出現の5日前から10日後までのRT-PCRの陽性
 

②結果

◎患者ベースデータ

  • 平均年齢53.5歳、白人が7割(アジア3.3%)、平均BMI29.6
  • 免疫抑制療法を受けている患者は3.3%と非常に少ない
◎安全性
AZD7442群・プラセボ群共に特に差なし
  • AZD7442群で35.3%、プラセボ群で34.2%に有害事象発生
  • 大半は軽度〜中等度の有害事象で、最多は注射部位反応(AZD7442群で2.4%、プラセボ群で2.1%)
  • 両群合わせて8人死亡例が出たが、すべて薬物と無関係と評価(4人が違法薬物過剰摂取・1名心筋梗塞・1名腎不全)
 
◎効果
症候性Covid-19発生率は、プラセボ群よりもAZD7442 群で有意に低かった
    • 一次分析のデータカットオフ日での解析…相対リスク76.7%減少( 95%CI 46.0-90.0; P<0.001)
      • 重症Covid-19…AZD7442群には1例も発生せず、プラセボ群では1731人中1人(0.1%)で発生
    • 中央値6ヶ月間の追跡データ解析…相対リスク82.8%減少(95%CI, 65.8~91.4)
  • PCR検査陽性になった場合も、症状出現までの時間はAZD7442群でプラセボ群よりも長かった(HR0.17;95%CI 0.08-0.33)
  • 投与6ヶ月後も、AZD7442群ではのAZD7442血中濃度は高いまま
    • SARS-CoV-2中和抗体濃度に換算した場合、Covid-19感染後の回復期の血中濃度よりも高い
 

③まとめと感想

  • Evusheld投与によって、症候性Covid-19リスクを減少させる(6ヶ月時点で相対リスク82.8%減)
  • ただし対象は、基礎疾患持ちといっても肥満,高血圧等が中心・ワクチン未接種の白人が中心
  • ワクチン接種後の免疫抑制療法中の患者に対しての効果は未知数
  • ただし、RTX投与によっては得られにくいSARS-CoV-2中和抗体がEvusheld投与によって得られそうというのは魅力的かもしれない
 

【RTX使用中リウマチ性疾患患者へのエバシェルド使用報告】

ワクチン接種後の免疫抑制療法中の患者に関しての投与報告を2つ紹介

①RTX投与中ANCA関連血管炎患者21人への投与

(Kidney Int Rep. 2022;10.1016/j.ekir.2022.08.019.)
21人へEvusheld投与→3人(15%)がCovid-19感染
  • 全員ANCA関連血管炎
  • 全員がワクチン接種後(20人がブースター接種、1人が2回接種)
  • 20人が高用量600mg(300/300mg)・1人が低用量300mg(150/150mg)投与
    • 低用量患者はエバシェルド®投与122日後にSARS-CoV-2感染
  • 平均フォローアップ期間124日
  • 感染者は軽症、RTX投与は継続可能
 

②RTX投与中リウマチ性疾患患者43人への投与

(J Clin Rheumatol. 2022;10.1097/RHU.0000000000001907.)
43人へEvusheld投与→1人(4.3%)がCovid-19感染
  • 平均年齢 59 歳、女性 70%
  • 大半 (81%)がmCOVID-19ワクチンを 3 回接種
  • 内訳…関節リウマチ (49%)、ANCA関連血管炎 (30%)、その他の血管炎 (9%)、シェーグレン症候群 (5%)、全身性エリテマトーデス (2%)
  • 感染者は軽症
  • 平均フォローアップ期間100日
 
ということで小規模な報告しかなく、発症抑制・重症化予防につながっているかどうかは正直良くわからない。Covid-19予防に関する臨床試験全てに言えることだが、発症抑制・重症化予防・死亡率低下等のハードアウトカムをきれいに出せる臨床試験を作ることそのものが難しいので、仕方がないことではある。
 

【RTX投与中のリウマチ性疾患患者にエバシェルドを投与すべきか?】

データがあまりにも限られており、出てきても現状に即していない可能性が高い。学会側が推奨を出してほしい。
個人的には、絶対やったほうがいいとも言えないし、やる意味がないとも言えないと思う。異論はあって然るべき。
 
状況によっては積極的におすすめするとは思う。対象となりそうな患者群を挙げてみる。(※個人の意見です)
  • ワクチン接種がない状態でRTX投与が始まった
  • 今後のワクチン接種が何かしらの理由で難しい
  • Covid-19に罹患したときの重症化・死亡リスクが非常に高い…高齢、ステロイド量が多い、間質性肺炎合併など
上記の場合に関して、患者に情報提供した上で推奨してみてもいいと思う。
 
ただし以下には注意
  • ワクチンの代用となるものではない
  • NEJMの元論文の患者群と実臨床で悩む患者群はかけ離れている
  • 免疫抑制療法中の患者への投与データは非常に限られている
  • 変異株への有効性は不明で、今後の疫学状況的に大きく左右される