膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

85歳以上の高齢者の巨細胞性動脈炎をどう治療すべきか?

Semin Arthritis Rheum. 2019;49(2):288-295.
巨細胞性動脈炎(GCA)患者コホートで85歳以上のGCA発生頻度・特徴・臨床転機を見てみた研究
 
大血管炎は巨細胞性動脈炎・高安動脈炎の2つがあり、巨細胞性動脈炎は高齢者・高安動脈炎は若年者に発症する。
放置すると不可逆的な虚血症状が発生するため、治療を早期に行うことが推奨される。
ただ超高齢者へのGCA治療には様々な問題がある
  1. 治療が高用量ステロイド中心となる→GCAによる死亡リスクと薬剤有害事象による死亡リスクを天秤にかけなければならない
  2. 画像フォロー/再発判定が難しく、通院頻度・検査頻度も多くなる
  3. 本人の自覚症状が乏しい場合が多く、治療意欲が乏しいことが多い
  4. 側頭動脈炎(Cranial GCA)の場合失明リスクがあるため治療メリットが説明しやすいが、大血管型巨細胞性動脈炎(Large vessel-GCA: LV-GCA)の場合治療メリット(虚血イベント低下)を患者が感じにくい
 
実臨床データを用いて85歳以上のGCAの特徴を調査
超高齢者におけるGCAは若年者と比較して、視力喪失等の重症虚血合併症・早期死亡リスクが高いが、主な死因は感染症GCAのないコントロール群と比較して生存率はむしろ高い

 

【Method】
Patient:ACR1990年基準を満たしたGCA患者→85歳以上/未満で分類

  • 2つの大学病院のデータベースから収集
  • 生検陰性例の場合、ACR基準が3つ以上該当+PET−CTで大血管炎所見あり or. 他の鑑別疾患がない場合該当とした
収集データ:人口統計情報、診断日、臨床的特徴(症状・PMR合併有無など)、炎症反応などの検査データ、側頭動脈生検初見、PSL開始投与量、PSL減量中の再発回数、免疫抑制剤使用、治療期間、合併症
  • 再発定義…GCAに対して投薬を増やす必要のある臨床的症状・炎症データの悪化の出現
  • ステロイド依存性定義…6か月時点でPSL<20mg、12ヶ月時点でPSL<10mg、2年時点でPSL<7.5mg担っていない場合
  • 治療内容…基本的には標準化された方法:PSL0.6-0.8mg/kg/dで開始→症状消失・CRP<5mg/Lになるまで投与→4−6週間でPSL0.35mg/kg/dまで減量。再発等お問題があった場合MTX・TCZなどを併用する
 
【Result】
865名のGCA患者のうち、87名(10%)が85歳以上
  • 85歳以上の患者で多い特徴…併存疾患、元々の心血管リスク、永続的な視力喪失、重症虚血合併症(心血管/脳/視力喪失)、感染症合併、死亡率
  • 85歳以上の患者で少ない特徴…PMR合併、診断の遅れ、発熱、再発・ステロイド依存性
 
◎死亡率
85歳以上の場合、治療中の死亡率は3倍・2年死亡率は66%
  • コホート全体の1年死亡率増加に関与する要因…85歳以上のみ
  • GCAそのものが死因になった例は1例のみ。多い死因は、感染症・心血管・悪性腫瘍・寝たきり。
  • 動脈瘤破裂等の合併症は観察されず
  • 85歳以上のGCA患者は、フランス人集団の性・年齢をマッチさせたコントロール群と比較して、長期にわたって有意に長生きしていた
 
【Discussion】
  • 85歳以上のGCAは失明リスクが高く、死亡率も高い。一方で再発は少ない
  • 一方で治療に伴う感染症合併等のリスクは高く、大動脈の長期合併症は観察されなかった
  • →超高齢者におけるGCAの初期治療の強化意義は乏しい可能性がある
 
【感想】
85歳以上の平均余命を考えると、ステロイド等の治療をしっかりやることは相当にためらわれるが、その印象を裏付けるようなデータ。
  • 85歳以上では視力低下リスクが高いため、Cranial-GCAの場合視力低下と治療有害事象を天秤にかけてステロイドパルス・高用量ステロイドを行う意義自体はあると思われる
  • ただその後の治療に関しては、再発リスク覚悟で早々にステロイド漸減を行ったほうがいいように思える
  • LV-GCAの場合はさらに微妙で、大血管狭窄/破裂等のリスクが出てくる頃には他の原因で寿命を迎える形になりそうで、治療するかどうかは患者の価値観等との相談が良いように思える
  • 今後平均寿命が100歳になるのなら別の話だが、Cranial-GCAの場合はステロイドを初めだけ高用量→早期漸減、LV-GCAの場合は本当に治療するのかどうかをしっかり相談し、治療するにしてもステロイド少量-中用量でやってみることも正当化されると思われる。
  • ステロイド漸減のためのTocilizumab併用も注意すれば、高齢者でも有効と思われる(Arthritis Res Ther. 2021;23(1):143.)。有害事象も多いため、積極的に使うべきなのかは不明だが…

 

参考:

 

ctd-gim.hatenablog.com

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