膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

巨細胞性動脈炎の治療失敗予測因子

" Treatment failure in giant cell arteritis"
Ann Rheum Dis. 2021;annrheumdis-2021-220347.
 
巨細胞性動脈炎(Giant cell arteritis: GCA)は糖質コルチコイド(GC、以下ステロイドと表記)単剤治療では再発しやすく、IL-6阻害薬Tocilizumab(TCZ)を併用することによって再発リスク・GC累積投与量を減らすことができる。ただ、TCZ併用しても再発するリスクは25-30%程度ある(Arthritis Res Ther 2021;23:8.)
ステロイド+TCZ併用療法、ステロイド単独療法を行っているGCA患者における治療失敗予測因子はなにか?
 
結論:ステロイド単剤治療はTCZ併用と比較して再発しやすい。ステロイド単剤治療の場合、女性は男性よりも再発しやすい。

方法:

  • 巨細胞性動脈炎に対するTCZの臨床試験(GiACTA trial, N Engl J Med. 2017;377(4):317-328.)の事後解析で250人が対象
    • トシリズマブ毎週投与+プレドニゾン(PDN、PSL)26週間漸減投与を受けた患者(100人)
    • トシリズマブ隔週投与+PSL26週間漸減投与を受けた患者(49人)
    • プラセボ+PSL26週間漸減投与(50人)
    • プラセボ+PSL52週間漸減投与(51人)
  • 52週まで寛解GCA症状/徴候なし、血沈上昇なし)を維持した患者を解析
  • 治療失敗…12週までに寛解を達成できない、または12-52週の間に再発として定義
  • その他多変量解析として、患者特徴、疾患・治療関連要因、患者報告結果(PRO)を解析
    • ※PROはFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy–Fatigue scoreといったスコアで算定
 

結果:

  • 250人(149人:TCZ+PSL投与群、101人:プラセボ+PSL投与群)がIntension to Treat対象→治療失敗以外の理由で治療終了した26人を除いた224人(130人:TCZ+PSL投与群、94人:プラセボ+PSL投与群)を解析
    • ベースラインで差はない
  • TCZ+PSL(TCZ/PDN)群はプラセボ+PSL(PBO/TDN)よりも治療失敗が少なかった(OR 0.2、95%CI 0.1~0.3、p<0.0001)
    • TCZ+PSL群は66.2%、プラセボ+PSL群は28.7%で寛解維持できた
    • 交絡因子を調整→治療失敗リスクが約5倍減少する
  • 治療失敗リスク
    • 全体では、ステロイド単剤治療が治療失敗リスク
    • TCZ+ステロイド群では、ベースラインでのPDN投与量が少ない(30mg/day以下)こと、ベースラインでのPROが悪いことが治療失敗リスク。性差なし。
    • プラセボステロイド群では女性が治療失敗リスク(OR 5.2、95%CI 1.6~17.2、p=0.007)
    • 年齢・人種・BMIは治療失敗リスクとの関連なし
 

Discussion

  • GCAは疾患活動性を見るためのバイオマーカーがないため、治療失敗の予測は大きな課題である
  • その結果、ステロイド単独治療、ステロイド単独治療群での女性、TCZ併用群でのステロイド初期投与量が少ないこと・PROが悪いことが治療失敗予測因子として挙げられた
    • ステロイド単独治療群で、女性の方が治療失敗しやすい理由は不明
    • TCZ併用は再発リスクを大きく減らす
    • TCZ併用群でステロイド初期投与量が多いと再発が少ない→低用量ステロイドになるまでの時間が長くなり、TCZのダウンストリーム効果が十分に発揮されるから?
    • 逆にステロイド単独治療群では、初期用量と再発リスクとの関連なし→再発リスクは、漸減期間よりも特定の期間でのステロイド用量によって決まっている?
  • limitation
    • 臨床研究の事後分析に過ぎない
    • 元々ランダム化されたグループとは異なる2群に分けた→何らかのバイアスがかかっている可能性はある
    • IL-6等のマーカーを測定できておらず、PROとの関係性は不明
    • 元々ステロイドを使用されていた患者が大半

結論

  • GCA における治療失敗の最も強い危険因子は、ステロイド単独治療、ステロイド単剤治療における女性の性別であった
  • TCZ併用群では開始プレドニゾンの投与量が少ない・PROが低下していることが治療失敗の危険因子
 

感想

  • GiACTAでも示されたとおり、TCZ併用によって治療失敗が減っている
  • ステロイド単剤治療の場合、女性が治療失敗しやすいというのは面白い事実だが、理由が不明なのは気になる(本文ではホルモンとかのせいではないかと考察されていたが、しっくりとはこない)
  • TCZ併用群では開始プレドニゾンの投与量が少ないと失敗しやすいというのも、実臨床とあっている気がする。やはり急性期はステロイドでしっかり抑える→その後はTCZで抑える、という根拠にもなると思う。