膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

巨細胞性動脈炎(GCA)・高安動脈炎(TAK)ACRガイドライン2021

Arthritis Rheumatol. 2021;10.1002/art.41774.
 
大血管炎の巨細胞性動脈炎(GCA)・高安動脈炎(TAK)に対してのACR(アメリカリウマチ学会)の2021年最新ガイドライン
 
GCA治療推奨

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TAK治療推奨

GCAの検査への推奨

推奨・声明
GCAが疑われる患者への初回の側頭動脈生検は、両側よりも片側の生検を条件付きで推奨
GCAが疑われる患者への側頭動脈生検は、短区間(1cm未満)よりも長区間(1cm以上)を推奨する
GCAが疑われる患者には、生検を2週間以上待つよりも、経口ステロイド開始から2週間以内に側頭動脈生検を行うことを推奨する
GCAが疑われる患者には、GCAの確定診断のために、側頭動脈エコー検査よりも側頭動脈生検を条件付きで推奨
GCAが疑われる患者には、GCAの確定診断のために、頭蓋動脈MRIよりも側頭動脈エコー検査を条件付きで推奨
GCAが疑われるが側頭動脈生検が陰性の患者には、確定診断のため臨床評価のみよりも、大血管の非侵襲的血管画像検査を条件付きで推奨
FED-PET、CT/MRI血管造影など
非常に低い〜低
GCAと新規診断された患者には、大血管病変評価のために非侵襲的血管画像検査を行うことを条件付きで推奨
非常に低い
  • 生検をかなり重視した推奨で結構驚いた。このあたりはEULARとの違いだろうか
 

GCAの治療への推奨

推奨・声明
医学的管理
頭蓋虚血症状がないGCAと新規診断された患者には、ステロイドパルスよりも高用量経口ステロイドによる治療を開始することを条件付きで推奨
非常に低い〜低
視力喪失リスクのあるGCAと新規診断された患者には、高用量経口ステロイドよりもステロイドパルスでの治療開始を条件付きで推奨
非常に低い
GCAと新規診断された患者には、ステロイド隔日内服よりもステロイド連日内服を条件付きで推奨
…ただし、隔日内服の有効性を示す論文もある(Ann Intern Med. 1975;82(5):613-618.)
GCAと新規診断された患者には、中用量ステロイドよりも高用量ステロイドによる治療開始を条件付きで推奨
非常に低い〜低
GCAと新規診断された患者には、経口ステロイド単剤での治療よりもTCZ+経口ステロイド併用を条件付きで推奨
低〜高
頭蓋外大血管の活動性があるGCA患者(※いわゆる"extra-cranial GCA")には、経口ステロイド単剤での治療よりもステロイド免疫抑制剤+経口ステロイド併用を条件付きで推奨
…MTXなど
非常に低い〜低
GCAに対するステロイド治療の最適期間は十分に確立していないため、患者の価値観・好みによって決定するべき
低〜中
GCAと新規診断された患者には、GCAの治療としてスタチンを使用しないことを条件付きで推奨
非常に低い
椎骨動脈・頚動脈の重大または血流を阻害しうる病変のあるGCA患者には、アスピリンを投与することを条件付きで推奨
非常に低い〜中
中用量〜高用量のステロイド投与中に疾患再発を起こしたGCA患者には、非ステロイド免疫抑制剤を追加することを推奨する
頭蓋虚血症状を伴う疾患再発を起こしたGCA患者には、ステロイド単独の投与量を増やすよりも、非ステロイド免疫抑制剤を追加+ステロイド投与量を増やすことを条件付きで推奨
※PMR症状の再発はステロイド増量で対応可能
ステロイド投与中に頭蓋症状を伴う疾患再発を起こしたGCA患者には、MTX追加+ステロイド増量よりも、TCZ追加+ステロイド増量を条件付きで推奨
外科的介入
GCAに関して外科的介入を必要とする患者の場合、介入の種類・タイミングは、血管外科医・リウマチ専門医の間で共同決定しなければならない
免疫抑制療法を受けているが四肢/臓器虚血症状の悪化徴候がある重症GCA患者には、免疫抑制療法の強化+外科的介入よりも免疫抑制療法の強化を条件付きで推奨
※破裂リスクの高い大動脈瘤等は例外
非常に低い〜低
血管外科的介入を受けるGCA患者に対しては、活動性疾患がある場合には手術前後の期間に大量のステロイドを使用することを条件付きで推奨
非常に低い
臨床経過・検査モニタリング
明らかに臨床的緩解期にあるGCA患者には、臨床的モニタリングを行わないよりも長期的に臨床的モニタリングを行うことを強く推奨する
非常に低い〜低
炎症マーカー値のみ上昇しているGCA患者には、免疫抑制療法強化よりも経過観察・モニタリングを行うことを条件付きで推奨
※炎症上昇は非特異的である可能性がある
非常に低い
✝:文献レビューは実施されず、入手可能文献と専門家意見から形成
‡:特定のPICOに基づいていなかった
感想
  • GiACTA(N Engl J Med 2017;377:317-28)の結果が色濃く反映され、TCZの併用を積極推奨している
  • 炎症反応上昇のみであれば経過観察することを推奨しているが、実臨床的には画像評価等で残存病変・再発がないかどうか確認しに行く気がする
  • extra-cranial GCAへの治療はMTX+ステロイドとならざるを得ない。TCZについての言及は今後出てくるのだろうか?
 

③高安動脈炎の治療に関する推奨/声明

推奨・声明
医学的管理
免疫抑制療法を受けていない高活動性重症TAK患者には、ステロイドパルス治療後の高用量経口ステロイドよりも、高用量経口ステロイドで治療を開始することを条件付きで推奨
※パルスは致死的・臓器不全リスクのある場合に検討
非常に低い
高活動性重症の新規TAK患者には、低用量ステロイドよりも高用量ステロイドでの治療開始を条件付きで推奨
※非重症患者では低用量ステロイドが考慮される可能性あり
非常に低い〜低
ステロイドを6-12ヶ月以上投与しつつ寛解を達成したTAK患者には、寛解維持としての低用量ステロイドでの長期治療よりもステロイド漸減を条件付きで推奨
※再発を繰り返す場合は長期間継続する場合あり
非常に低い
活動性のあるTAK患者には、ステロイド単剤治療よりも非ステロイド免疫抑制剤ステロイドの併用を条件付きで推奨
…MTX、TNFi、AZAなど
活動性のあるTAK患者には、初期治療としてTCZよりも他の非ステロイド免疫抑制剤の使用を条件付きで推奨
非常に低い〜低
ステロイド単剤治療に対して抵抗性の患者には、TCZ有効性をよりもTNFiの追加を条件付きで推奨
※TNFiが禁忌の場合は、TCZ考慮がされる可能性あり
非常に低い
炎症所見がなくても、画像上以前特定された血管病変が無症候性に進行しているTAK患者には、免疫抑制剤の増量・変更よりも現在の治療継続を条件付きで推奨
側副血行路は時間の経過とともに頻繁に発生する→介入は必ずしも必要ではない。ただし病変の場所・範囲を考慮し、重大病変がある場合には免疫抑制剤の強化が正当化される
非常に低い
活動性のあるTAKがあり、頭蓋/椎骨脳底動脈への重大秒編がある患者には、アスピリンまたは他の抗血小板療法を追加することを条件付きで推奨
外科的介入
外科的介入を必要とする患者の場合、介入の種類・タイミングは、血管外科医・リウマチ専門医の間で共同決定しなければならない
進行中の活動性病変所見がないが、持続的な四肢跛行のあるTAK患者には、外科的介入を条件付きで推奨
非常に低い〜低
免疫抑制療法を受けているが四肢/臓器虚血症状の悪化徴候がある重症TAK患者には、免疫抑制療法の強化+外科的介入よりも免疫抑制療法の強化を条件付きで推奨
非常に低い
腎血管性高血圧症・腎動脈狭窄症のある患者には、外科的介入よりも医学的管理を条件付きで推奨
非常に低い〜低
頭蓋/頚部血管の狭窄はあるが臨床症状のないTAK患者には、外科的介入よりも医学的管理を条件付きで推奨
非常に低い〜低
四肢/臓器虚血症状の悪化徴候がある重症TAK患者には、外科的介入よりも疾患活動性が止まるまで外科的介入を遅らせることを条件付きで推奨
非常に低い〜低
血管外科的介入を受けるTAK患者に対しては、活動性疾患がある場合には手術前後の期間に大量のステロイドを使用することを条件付きで推奨
非常に低い〜低
✝:文献レビューは実施されず、入手可能文献と専門家意見から形成
  • TAKT trial(TAKへのTCZ有効性を見たRCT、Ann Rheum Dis 2018;77:348–54.)でprimary outcomeを達成できなかったため、TCZ有効性をの推奨度はやはり低め
  • このため、TNFiをTCZよりも優先しているが、正直TNFiの結果がTCZよりも優れているような感じはしない。日本では保険適応外なことにも注意。
  • TAKは疾患モニタリングが難しく、画像正常・炎症あり、炎症なし・画像進行といった場合があるのだが、そのあたりにも言及してくれているのはありがたい。安易な治療強化は気をつけろ、という推奨は大事にしたいと思う。
 

④高安動脈炎のモニタリング・画像検査に関する推奨

推奨・声明
臨床・検査モニタリング
TAK患者には、疾患活動性評価ツールとして炎症マーカーを臨床モニタリングに追加することを条件付きで推奨
非常に低い〜低
明らかに臨床的寛解期にあるTAK患者には、臨床的モニタリングを行わないよりも長期的に臨床的モニタリングを行うことを強く推奨
非常に低い
炎症マーカー値のみ上昇しているGCA患者には、免疫抑制療法強化よりも経過観察・モニタリングを行うことを条件付きで推奨
※炎症上昇は非特異的である可能性がある
非常に低い
血管画像
TAK患者での疾患活動性評価ツールとして、カテーテル血管造影よりも非侵襲的画像検査の使用を条件付きで推奨
…CT/MRI血管造影、FDG-PET
TAKと診断されている患者には、定期的な臨床評価に加えて、定期的な非侵襲的血管画像検査を予定することを条件付きで推奨
…3-6ヶ月毎程度で定期的に画像検査を行うと良い?
非常に低い〜低
明らかに臨床的寛解期にあるが、血管画像検査では新しい血管領域に炎症徴候(新規狭窄・血管壁肥厚)があるTAK患者には、免疫抑制療法による治療を条件付きで推奨
※異常所見も必ずしも血管炎によるものとは限らないので、放射線科医と画像を検討したあとに行う必要がある
非常に低い〜低
  • やはり画像フォローに重きが置かれている印象であり、施設が許すなら定期的なCT/MRI/PETを行うことが望ましいのだろう
  • 頚部血管超音波について言及がないのは気になる
 
AZA=アザチオプリン、ABA=アバタセプト、MTX=メトトレキサート、TCZ=トシリズマブ、TNFi=腫瘍崩壊因子(TNF)阻害薬