Recommendations for the treatment of anti-melanoma differentiation-associated gene 5-positive dermatomyositis-associated rapidly progressive interstitial lung disease.
Semin Arthritis Rheum. 2020;50(4):776‐790.
MDA5陽性RP-ILD(急速進行性間質性肺疾患)は非常に難治性かつ急速進行性なので、治療は非常に難しい。専門科パネルでrecommendationを作成した。
過去のMDA-5皮膚筋炎まとめ↓
-
抗MDA5抗体陽性なら、肺CT・呼吸機能検査・SpO2測定を行う
-
間質性肺疾患(ILD)有無を確認する
-
ILDがあれば、急速進行性間質性肺疾患かどうかチェックする…呼吸器症状出現から1ヶ月で、症状悪化/肺すりガラス陰影の悪化/低酸素血症があればRP-ILDと判断する
-
RP-ILDがあれば治療を開始する
10のrecommendation(Grade√はexpert-opinion)
全体
①抗MDA5抗体陽性の急速進行型間質性肺疾患(RPILD)を持つ皮膚筋炎患者は、最初から併用療法で治療する(GradeD)
-
補助療法としての免疫グロブリン静注療法を組み合わせる場合がある
-
臨床経過・死亡率をoutcomeとした研究より算出(Lupus 2016;25(8):925–33.など)すると、併用療法が好ましいとされる
併用療法
②グルココルチコイドとカルシニューリン阻害剤(シクロスポリンAまたはタクロリムス)での2剤併用療法、2剤+シクロホスファミド静注での3剤療法は、どちらも良い初期治療である
2a:シクロスポリンAとタクロリムスはどちらでもよい。どちらを選ぶかは安全性プロファイルと患者の特性で決める。(Grade√)
2b:投与量決定のため、カルシニューリン阻害剤の血中濃度のモニタリングが推奨される。(Grade√)
-
ケースシリーズが多く、エビデンスレベルも低い⇨症例報告併せて解析
-
併用療法での生存率は約60%と推測される
-
3剤併用を推奨するには十分な方法はないと結論
③カルシニューリン阻害剤が使用できない場合、グルココルチコイドに加えて他の免疫抑制薬(シクロホスファミド・ミコフェノール酸モフェチル[MMF]など)との併用療法、またはリツキシマブ[RTX]での治療を検討する(Grade3)
3a どの薬剤を選択するかは、患者の個人特性と臨床医の経験による(grade√)
-
リツキシマブ症例も13例の報告あり、シクロホスファミドとの併用例で死亡が多かった(Ann Dermatol Venereol2013;140(10):628–34. など)
-
⇨リツキシマブ+シクロホスファミドは要注意
難治性患者の治療
④ステロイドと免疫抑制薬の併用療法に反応しない抗MDA5抗体陽性RPILDの患者では、以下の選択肢を考慮する
*シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブ、バシリキシマブ、トファシチニブのうちの1つを追加する(GradeD)
*免疫抑制剤を別のものに変更する
-
「併用療法に反応しない」(治療抵抗性)の定義…治療開始1週間以降に、呼吸状態悪化(AaDO2増大、胸部画像でのスリガラス影[GGO]増悪・新規出現、フェリチン上昇)・臨床像の悪化(主観)
-
治療抵抗性症例にリツキシマブを追加した13例のうち8例は死亡・5例は改善(Scand J Rheumatol 2017:1–15.など)
-
3剤併用での治療抵抗性症例にトファシチニブ追加し5例中3例が生存したという報告あり(Rheumatology (Oxford) 2018;57(12):2114–9.)
-
ただし、投与した患者のうち4例(80%)で水痘・帯状疱疹ウイルス再活性化、5例(100%)でサイトメガロウイルス感染症を起こした
⑤併用免疫抑制薬に反応しない患者では、以下の代替救急治療法を検討する
*ポリミキシンB血液灌流(エンドトキシン選択除去用吸着式血液浄化法)(GradeD)
*血漿交換(GradeD)
*静脈内免疫グロブリン(Grade√)
-
3剤併用療法を実施したMDA-5養成RPILD10例に対してエンドトキシン吸着療法を実施したが、9例(90%)は死亡(BMC Pulm Med 2017;17(1):134.)
-
MDA5陰性の皮膚筋炎RPILD12例のケースシリーズではあるが、転機が良好だったという報告あり(Respirology 2017;22(7):1357–62.)
-
3剤併用療法に加えて血漿交換を行った10例のうち2例は生存あり(Ann Intensive Care 2018;8(1):87.など)
⑥免疫抑制治療の反応を待つ間、または肺移植への"bridge"として、重症・難治性の呼吸不全患者ではVV-ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)を検討する(Grade√)
-
支持療法としてVV-ECMOを使用した6例の報告はあるが、全員死亡(Ann Intensive Care 2018;8(1):87.)
-
肺移植への"bridge"としてのECMO使用での生存例は散見される(Respir Med Case Rep 2019;28:100886.)
⑦難治性の抗MDA5抗体陽性RPILD患者の治療選択肢として肺移植を考慮する。ILD診断時に移植適応についての早期紹介を考慮する(Grade√)
-
ただ、抗MDA5抗体陽性RPILD患者への肺移植は報告レベルに留まる
その他の治療オプション
⑧抗MDA5抗体陽性RPILD患者の治療選択肢として、アザチオプリン[AZA]・メトトレキサート[MTX]・レフルノミド[LEF]は推奨されない(Grade√)
-
どの薬剤も少数の症例報告しかなく、推奨されなかった
⑨インフリキシマブは[IFX]は抗MDA5抗体陽性RPILDの治療には推奨されない
-
14例に対して、IFX5mg/kg(0,2,6w⇨8w毎)投与したところ、10例(71%)が良好な予後を示した(J Gen Intern Med 2016;31(12):1530–6.)
-
ただ、TNF阻害薬による肺障害リスクを考慮し、専門科パネルでは推奨されなかった
⑩ピルフェニドン(抗線維化薬)は、抗MDA5抗体陽性RPILD患者への使用が推奨されない場合あり
-
30例のCADM関連ILD患者のうち,MDA-5陽性患者の死亡率はピルフェニドンに使用で有意差なかった
-
急性のILDにおけるサブグループ解析ではピルフェニドン使用群のほうが死亡率が高かった(J Gen Intern Med 2016;31(12):1530–6.)
症例報告ベースでの治療薬及び用量/用法
(感想)
MDA5陽性RPILDは非常に重篤かつ急速進行する疾患であるため、RCT等の質の高い治験を組むことができない。ということで、エビデンスレベルの低いものを総合して作られたrecommendationで、実臨床に応用するかどうかは置いておいて非常にいい勉強になった。日本では保険の縛り・肺移植へのハードルの高さを考えると、2剤/3剤併用⇨RTX併用±IVIG±ECMOが関の山だろう…
肺移植をしないECMOが全例死亡していることを考慮するとECMOもあまり勧められないかもしれないが。
今後の治療発展に期待するのみだが、厳しい説明はせざるを得ない疾患ということは確か。