膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

末梢脊椎関節炎レビュー(RMD Open)

Carron P, De Craemer AS, Van den Bosch F. Peripheral spondyloarthritis: a neglected entity-state of the art. 
RMD Open. 2020;6(1):e001136.
doi:10.1136/rmdopen-2019-001136
 
末梢性脊椎関節炎(peripheral spondyloarthritis: pSpA)は、乾癬性関節炎(PsA)による関節炎/腱鞘炎/dactylitis症状として有名だが、非乾癬性のpSpAに関しては余りスポットライトは当たっていない。
→レビュー

 

SpAは、強直性脊椎炎(AS)・乾癬性関節炎(PsA)。反応性関節炎(ReA)およびIBD関連関節炎/脊椎炎といったものを内包した概念である。
SpA症状は本来、
  • 軸性SpA(axSpA)→腰痛
  • pSpA→関節炎
の2つに分類される。
 
疫学
  • SpAの有病率は0.9-1.7%とされるが、pSpAの有病率自体はよくわかっていない
    • axSpA/pSpA両方の症状がある群・axSpAのみ・pSpAのみ の3群がいるはずだが、まとまった研究は余りない
臨床所見
  • axSpAと比較してpSpAが高齢
  • 客観的な炎症所見(関節炎・dactylitisなど)があるため、診断の遅延は少ない(6-10)
  • 典型的な所見は、下肢大関節非対称性多発関節炎・アキレス腱付着部炎・dactylitis→PsAに似る(14
  • 炎症性背部痛も多い→axSpA
    • 腰痛がなくともMRI仙腸関節炎があることがある=無症候性脊椎炎
      • CRESPA trial(早期pSpA対象の臨床試験)…MRI仙腸関節炎が35%みられたが、腰痛を報告したのは11.6%のみ
遺伝子
  • pSpAにおけるHLA-B27陽性率は27-47%とされるが、民族間の差は大きいと思われる(6-10)
診断
分類基準
  • 2009年のASAS基準が最も用いられる分類基準
      • axSpA…感度82.9%、特異度84.4%
      • pSpA…感度77.8%、特異度82.9%
  • あくまでも「分類基準」であり、「診断基準」ではないことに注意‼︎
治療
  • NSAIDs等での対症療法→csDMARDs→bDMARDsという順番
  • ただ、非乾癬のpSpAに対しての大規模RCTは存在しないので、「経験的な治療」が多い…→主にPsAのpSpAに対する治療を参考にすることが多い
  • 参考:過去記事↓
  •  

    ctd-gim.hatenablog.com

     

  1. NSAIDs
    • 特に研究自体はないが、NSAIDsが第一選択の薬剤
    • 低容量のステロイド全身投与/関節ない注射はおそらく有効
      • コホート研究で、関節注射の有効性証明あり( Rheumatology (Oxford). 2010 Jul;49(7):1367-73.
  2. csDMARDs
    • 関節炎症状に関しての有用性は一応示されているが、付着部炎・dactylitisに関しては有用性は示されていないAnn Rheum Dis 2016;75:499510, J Rheumatol. 2014;41(11):2295‐2300.
      • ※後述するように実臨床での有用性は微妙かもしれない…
    • 使用されるのはMTX(メトトレキサート)、LEF(レフルノミド)、SASP(サラゾスルファピリジン)が多い
    • 第一選択はMTXで、使用困難な場合はLEF
    • SASPは有効性低く、第三選択
      1. MTX
        • 非常によく使用されるが、有効性が低いという解析もある
          • RCTでは有効性否定的(Rheumatology (Oxford). 2012;51(8):1368‐1377.
            • MTX15mg/week vs プラセボで滑膜炎改善有意差なし
          • ※up to dateの意見としては「MTX15mg/weekは少なすぎる」ため、注意が必要(EULAR recommendationではMTX15−25mg/week推奨)とのことだが、日本では16mg/weekまでしか適応通っていない…(体格差はあるだろうが)
      2. LEF
        • 20mg/dayが標準投与量
        • ※日本では間質性肺炎重症例が相次いだため、余り日本人対象に使用されることはない
      3. SASP
        • 2−3g/day(日本では潰瘍性大腸炎・JIA以外では1g/dayまでしか適応なし)
          • 高容量では薬疹も多く注意!
        • 有用性は証明されているが、軽度ではある(Arthritis Rheum. 1995;38(5):618.)
  3. bDMARDs
    • csDMARDsとは対照的に有用性は証明されており、効果も高い
    • TNF阻害薬が代表例
    • 代表的な薬剤及び試験は以下の通り(※いずれも単剤比較)
      • Golimumab(シンポニー®︎)…CRESPA trial(Arthritis Rheumatol (Hoboken, NJ)2018;70:176977.
        • 50mg/4week→12万円/月(3割負担で3万6000円)
        • 中止後18ヶ月で47%しか再発していない→比較的寛解率が高かった?
      • Adalimumab(ヒュミラ®︎)…ABILITY-2 trial (Arthritis Rheumatol (Hoboken, NJ) 2015;67:91423
        • 40mg/2week→12万5000円/月(3割負担で3万8000円)
      • Etanercept(エタネルセプトBS等)…HEEL trial(Ann Rheum Dis 2010;69:14305.)
        • 50mg/week→10万円/月(3割負担で3万円/月)
    • IL-17阻害薬(secukinumab: コセンティクス®︎)、IL-12/23阻害薬(usutekinumab: ウステキヌマブ®︎)に関しては、PsAに関しての治験は進んでいるが非乾癬性pSpAに関して研究は進んでいない
      • PsAに関してのsecukinumab vs TNF阻害薬の試験はいくつかあり、一部の点でsecukinumab優位という結果が多い
        • ECLIPSA study(Semin Arthritis Rheum 2019;48:6327)…secukinumab vs TNF阻害薬(詳細なし
          • secukinumabの方が付着部炎・皮疹改善良かったが、関節炎は有意差なし
        • EXCEED trial(Lancet. 2020;395(10235):1496‐1505.)…secukinumab vs adalimumab
          • secukinumabの方が継続率・皮疹改善良かったが、関節炎・付着部炎は有意差なし
    • JAK阻害薬、PDE4阻害薬(apremilast: オテズラ®︎)も有望とされる
    • まとめると以下の通り
今後の課題
  • pSpAはわかっていないことが多い
    • 有病率が不明
    • 治療目標
    • エビデンスに基づいた治療 など
 
(感想)
個人的なpSpAのイメージは
関節リウマチのようなプレゼンテーションで現れるが、
  • seronegative
  • エコーをしてみると付着部炎所見がある
  • dactylitisがある
といった特徴を持っており、pSpA疑いとしてIBD・乾癬等の除外を行なっていく、というイメージ。
 なんとなくSpAに当てはめることはできるが、その細分化は難しい。その結果”un-differential SpA”としてpSpAに寄せた治療をすることもままある。
 治療に関してはこのレビューを読むと分かるとおり、NSAIDsがダメならbDMARDsに頼らざるを得なくなり、そのつなぎとしてのcsDMARDsが効果乏しい・かつ日本保険適応的に治療不十分になりやすい、というのが問題点。