膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

114回医師国家試験 膠原病リウマチD-F

114回国家試験の膠原病領域の解説後編。
膠原病領域はD-F200問中5問でした。
問題文はhttp://kousoku.medilink-study.com/thread_top より引用。
 多分はあっていますが、答えに関しては筆者の自己見解なので注意を。この解説の真偽に関しては、「自己判断」でお願いします。一切の責任は負いかねます。
前編

 

1.D30
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  • 答え:a
  • 関節リウマチにおける環軸椎亜脱臼。47歳で非常にコントロール不良なRAかつ環軸椎亜脱臼を起こすというのは相当に治療不十分なのだろう。
    • f:id:CTD_GIM:20200210224507p:image
      • 前屈時に環軸椎の不安定性が悪化している。このため前屈を避けることが必要→枕を低くする
    • 環軸椎亜脱臼の治療は、有症状の場合早期手術(Arthritis Rheum. 2009;61(12):1743. )だが、経過観察も一応可能。ただ、呼吸麻痺による突然死のリスクは存在する。この場合は頚椎カラーで経過観察。
    • 亜脱臼の予防方法としては、一般的な頚椎保護と同様。
      • 枕を低くする
      • 急に下を向かない
      • 食事中は顔をテーブルに近づけない
      • 下を向くときは首ではなく腰の前屈を行う
  • b☓:脱臼リスクを増すので絶対に行わない
  • c☓:マッサージに関しての文献は見つからなかったが、脱臼助長リスクあり。一応筋力トレーニングに関しての文献はあるが(Scand J Rheumatol. 2008;37(5):343. )、少なくとも一般的ではない。
  • d☓:ただでさえRAに伴い左の握力低下があるため、廃用につながってしまう。
  • e☓:頚椎に負荷がかかる
 
2.D33
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f:id:CTD_GIM:20200210224439p:imagef:id:CTD_GIM:20200210224443p:image
  • 答え:a
    • 所謂「若年性皮膚筋炎」(Juvenile dermatomyositis)。小児の場合多発筋炎(Juvenile polymyositis)は少なく、筋症状乏しく皮疹症状が主体の皮膚筋炎が多い。頻度としては以下の通り(Rheum Dis Clin North Am. 2002;28(4):833. )
      • ゴットロン丘疹(B):83%
      • 頬/顔面紅斑(A):42%
      • 爪周囲毛細血管変化:80%
      • 筋肉痛/関節痛:25%…近位筋優位で、重症例ではGowers徴候をきたす(筋ジストロフィーに似る)
        • f:id:CTD_GIM:20200210224449p:image
  • b☓:線維筋痛症の診断に絶対必須なのは「他疾患の除外」。データ異常がある時点でよっぽど違う。
    • 学齢期の小児での「線維筋痛症」の有病率は1-2%程度とされ(J Rheumatol. 1998;25(10):2009. )、思春期前(11-15歳)が多い模様。
  • c☓:皮疹が説明つかない。CPK/アルドラーゼの上昇が軽微すぎる。
  • d☓:露光によって皮疹をきたす遺伝性疾患(常染色体劣性遺伝)。皮疹は「しみ」の形を取る。
  • e☓:SLEの「蝶形紅斑」と皮膚筋炎の「頬部紅斑」の鑑別はなかなか難しい。典型的には蝶形紅斑は鼻唇溝を超えない(sparing nasolabial groove)が、頬部紅斑では鼻唇溝にかかるといわれる。ただ、実臨床的には微妙なことが多い気もするが…。本症例では紅斑が左鼻唇溝を超えている(ような気がする)。血液所見的には明らかに皮膚筋炎ではある。
    • f:id:CTD_GIM:20200210224513p:image
 
3.F7
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  • 答え:b
  • よくある疾患と抗体の組み合わせ問題。国試では一対一対応で覚えていればいいが、実臨床では感度/特異度ともにまちまちで、いまいち参考にならないところが悲しい。
  • a☓:多発性筋炎で最も特異的な抗体は抗Jo-1抗体だが、特異度は20%程度。その他抗SRP抗体・Mi-2抗体を始めとした抗体も一応禁煙の抗体では有るが、国家試験レベルではJo-1と一対一対応でいいと思われる。
  • b○:全身性強皮症(dcSSc)の抗体として有名なのは
    • 抗核抗体:感度95%程度(Arch Pathol Lab Med. 2000;124(1):71. )
    • 抗Scl-70抗体:重症間質性肺疾患のリスク高い(Arthritis Rheum. 2003;48(5):1363. )
    • RNAポリメラーゼⅢ抗体:急速進行性皮膚障害・強皮症腎クリーゼリスク高い(Arthritis Res Ther. 2011;13(6):R211. Epub 2011 Dec 22. )。また、悪性腫瘍リスクも高い(Arthritis Res Ther. 2014 Feb;16(1):R53. Epub 2014 Feb 14. )。
  • c☓:Sjögren症候群に多いのはSS-A/B。ただ、Sjögren症候群は他の膠原病疾患の合併が多いことも知られており、ANCA+Sjögrenもないことはないが、症例報告レベル。
  • d☓:U1RNP抗体は他の抗体と違いMCTD全例に存在し、SLE等でも陽性となりうる。
  • e☓:SLEは抗ds-DNA抗体など。ARSは皮膚筋炎の抗体の一種だが、間質性肺疾患との関連もよく知られている抗体。
 
4.F42
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  • 答え:e
  • 所謂「シックデイ」対応。抗リウマチ薬の殆どで易感染性があるため、リウマチ患者への教育は非常に重要。詳細は割愛するが、国試レベルで覚えておくべきは「発熱したらステロイド以外のリウマチ薬は休薬してもらって構わない。特にメトトレキサート・生物学的製剤は中止してください」で十分だろう。
    • 生物学的製剤使用中の発熱で常に念頭に置くべきは結核/NMT(非結核性抗酸菌症)ではあるが、結核に関しては生物学的製剤使用前のスクリーニングが重要。
  • a☓:リウマチがどうこうというより、選択肢が問題外。感染症と思うのなら「臓器→微生物→抗菌薬」という順に考えるべきであり、個人的には禁忌選択肢にしてほしい。
  • b☓:ステロイドパルスはRAと関連することはほぼない。あったとしても超重症間質性肺疾患の合併時に考慮する程度と思われる。
  • cd☓:関節症状悪化ない以上、RAの症状悪化ではないと考えるのが自然。
 
5.F43
 

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  • 答え:e
    • おそらくは成人Still病(Adult-onset Still disease: AOSD)に伴うマクロファージ再活性化症候群(MAS),または血球貪食症候群
    • 骨髄像はマクロファージによる血球貪食。
      • f:id:CTD_GIM:20200210224530p:image

    • 鑑別としてはLDH/IL-2R抗体高値から考えて悪性リンパ腫/骨髄異形成症候群(MDS)ではあるが、骨髄検査で鑑別する。骨髄像での悪性所見/MDS所見はない。逆に言えば骨髄像見なければ鑑別は困難かもしれない。腫瘍随伴症候群に伴う関節痛を除外することはなかなか難しい。
    • もう1つの鑑別はEBV感染症(発熱咽頭痛関節痛肝障害、血球貪食)ではあるが、臨床像にはまずはAOSDを疑う。
      • いずれにしろ、脾腫を触知しないという点では気になるが…
    • AOSDらしい点としては、フェリチンの他には以下の通り
      • 発熱:通常は1日1-2回繰り返すspike-feverで、4時間以内に4℃以上の変動を伴うことも有る。
      • 関節痛:大中関節が多く、手関節・膝関節に多い(J rheumatol 1990,17:1058)
      • 皮疹:固定せず「出没する」サーモンピンク疹が特徴的。典型例は発熱時だが、別にそうでないことも多い。
      • 咽頭痛:発熱と一致して見られる。69%に見られる(J Rheumatol. 1997;24(3):592. )
      • 肝障害
    • 全身性JIAにおけるMASの基準としては以下の通り(Arthritis Rheumatol.2016;68(3),566-576)
      • 全身性JIAと診断されている、または全身性JIA疑いのある発熱患者で以下を満たす
        • 血清フェリチン>684ng/mL
      • 上記に加え、以下の2つ以上を満たす(他の原因の除外は必要)
        • 血小板数<181x10^3/μL
        • ALT>48IU/L
        • TG>156mg/dL →本症例では一応満たしている。
    • 治療としては、ステロイド高用量orステロイドパルス・シクロスポリン持続静注・抗凝固療法・血漿交換などがある。いずれにしろ早急な対処が必要。
  • 国試レベルでは細かいことは考えず、AOSD等のJIAではマクロファージ活性化症候群による汎血球減少症が起こり得て、重症である」ということだけ覚えておけば十分と思われる。
  • わざわざこういう設問(原因免疫)を聞いてきてるあたりは血球貪食症候群というより、MASを強調したかったんでしょうね。
 
(感想)
  • A-C同様典型例かつツッコミどころの少ない問題が多かった。F43(MAS)に関してもMASとわからなくても、血球貪食症候群っぽいと思えば解けるので優しさは感じる。
  • 「実臨床に則した問題」が多くなっているようではある。ただ、膠原病領域では実臨床ままでやるとわけがわからなくなることが多いので、今後も典型的な問題が出るとは思われる。