Differentiating between UCTD and early-stage SLE: from definitions to clinical approach.
Nat Rev Rheumatol. 2021;10.1038/s41584-021-00710-2.
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「SS-A陽性だが、なんの症状もない患者」、「倦怠感と抗核抗体陽性はあるが、SLEへのとまでは言えない患者」というのが膠原病外来ではよくいる。
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そういう患者をどうするか、ということに明確な答えがあるわけではない。「本物臭い」ものは要フォローにするのだが、その基準もエキスパートの意見レベルである
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「本物臭い」ものの中に「未分類膠原病」(Undifferentiated connective tissue disease, UCTD)という概念があり、近年強調されている
【Key-point】
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UCTDの中には特定の膠原病に進行するものもあれば、そのまま安定するものもいる
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特に早期のSLEは、UCTDと鑑別困難であり、その区別のためのマーカーが現在開発されつつある
- 【UCTDとは】
- 【UCTDと早期SLE】
- 【UCTDはどれくらいの患者がいるのか?】
- 【UCTDの臨床症状】
- 【UCTDの検査・自己抗体】
- 【SLEスペクトラムとUCTDの分類】
- 【UCTDがSLEに進行するのを防げるか?】
- 【今後の展望】
- 【感想と補足】
【UCTDとは】
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全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus, SLE)には「SLEに今後進行しそうな前駆段階」が存在する
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発症前段階の患者の一群は「未分類膠原病」(Undifferentiated connective tissue disease, UCTD)と呼ばれる
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このUCTDと早期SLEを鑑別するのは困難
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ただ、UCTD患者が本格的なSLEに進展するか予測できないか?・進展を予防できないか?というのが現在の課題
図:SLEへの進展のタイムライン
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膠原病の「リスクがある」患者
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その中に自己抗体陽性だが、症状のない一群がいる
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そのうちの一部は「早期SLE」となるが、UCTDに分類される一群もいる
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UCTDは経過とともに、SLE・その他の膠原病・UCTDのままの3群に別れていく
【UCTDと早期SLE】
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UCTDという用語は、「定義された膠原病の診断基準・分類基準を満たさないものの、臨床症状・免疫学的異常を呈する自己免疫疾患群」を指す
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(※要は「膠原病の匂いはするが診断できない一群」)
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膠原病の発症時点では、かなりの割合がUCTDに分類される
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UCTDの進行先…SLE、全身性強皮症(SSc)、シェーグレン症候群、皮膚筋炎・多発筋炎、混合性結合組織病(MCTD)、関節リウマチ(RA)など
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UCTDと発症初期のSLEの区分に確たるものはなく、最終的には医師の判断に依存する
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UCTD患者は若年女性が多い→妊娠前カウンセリングが重要
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UCTD患者は、妊娠時の有害事象有病率が高い
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一方で明確な推奨事項はない
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特に危険なものが胎児心ブロック・発育不全など→妊娠前にSS-A/Ro抗体・抗リン脂質抗体の評価・専門医コンサルトが推奨される
【UCTDはどれくらいの患者がいるのか?】
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明確に定義された疾患ではないため、疫学データは殆どない
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イタリアからの単施設データ…新たに紹介された患者のうち20%が膠原病(RA以外)であり、そのうちの約13%がUCTDだった…Best. Pract. Res. Clin. Rheumatol. 26, 73–77 (2012).
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SLEと比較して、UCTDは発症・診断共に高齢
【UCTDの臨床症状】
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UCTDの初期症状…関節炎が最多、その他皮膚症状(特に光線過敏症)、血球減少(白血球減少・血小板減少など)
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頬部紅斑・円板状エリテマトーデスなどはUCTDというよりもSLEを示唆する
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SLEと比較して、UCTDは軽症例が多い
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腎障害、神経症状、溶血性貧血はUCTDでは稀
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UCTDは死亡率も低い
【UCTDの検査・自己抗体】
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UCTDの患者は特異的抗体陰性例が多い
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特異的抗体が陽性のUCTD症例では発症リスクが高い→それに応じたスクリーニングを行う必要がある
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抗dsDNA, Sm抗体陽性例…腎機能、尿検査
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SSc特異的自己抗体陽性例…心肺機能、悪性腫瘍スクリーニング
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抗SS-A/Ro抗体…SLE・シェーグレン症候群発症が多い
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抗SS-A/Ro抗体陽性のUCTD患者…24%が4.5年以内に膠原病を発症し、主にはSLE・シェーグレン症候群だった
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SS-A抗体のなかでRo60陽性例ではSLE発症が多く、Ro52・Ro60共陽性例ではシェーグレン症候群発症が多かった(Jt. Bone Spine 67, 183–187 (2000).)
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SLE…抗核抗体homogenousパターン、抗Sm抗体陽性、抗カルジオリピン抗体IgG/IgM陽性でSLE発症が多い(J. Rheumatol. 18, 1332–1339 (1991).、Arthritis Rheum. 50, 1226–1232 (2004).)
【SLEスペクトラムとUCTDの分類】
SLE分類基準を参考にして以下のように分類
時期
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概要
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例
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SLEリスク
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SLEに罹患しやすい遺伝的・環境的リスクが有る
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双子がSLEだが、疾患的特徴のない25歳女性
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前臨床SLE
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自己免疫/免疫調整異常の所見はあるが、臨床所見がない
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抗核抗体及び抗Sm抗体陽性だが、SLEの臨床所見がない25歳女性
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早期SLE
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自己免疫異常所見とSLE臨床所見があるが、SLE分類基準を満たすほど多くはない
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抗核抗体及び抗SS-A/Ro抗体陽性で、頬部紅斑があるが、その他のSLE症状・所見がない25歳女性
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SLE
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SLE分類基準を満たす症状・所見・検査データがある
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抗核抗体及び抗dsDNA抗体陽性で、リンパ球減少・関節炎・ループス腎炎のある25歳女性
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UCTD
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自己免疫異常所見と膠原病の臨床所見があるが、分類基準を満たすには不十分
通常疾患が3年以上進行しておらず、症状・所見は長期安定している
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【UCTDがSLEに進行するのを防げるか?】
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UCTDがSLEに進行するリスクもわかっていなければ進行を防ぐ方法もわかっていない
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前臨床SLE・UCTD段階でのヒドロキシクロロキン(HCQ)投与で発症抑制という報告もあるが、リスク・ベネフィットはわかっていない(Lupus 16, 401–409 (2007).)
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ビタミンDサプリ内服に関しても検討されている
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定期フォローすることが重要
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SLEを示唆する所見・検査データ→定期的な血液・尿検査など
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SScを示唆する所見・検査データ→心肺チェック(肺高血圧リスク高いため心エコー)
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SLEトリガーとなる要因の排除(生活指導)も合理的かもしれない…禁煙、薬剤性ループスの原因となる薬剤の中止、日光暴露回避
【今後の展望】
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現状UCTD・膠原病のスクリーニングとしては抗核抗体検査→特異的抗体検査を行っている
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今後さらなる検査(Thrid line)が確立し、UCTD・早期SLE・SLEの分類がより正確にできるようになる可能性がある
【感想と補足】
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抗体陽性で紹介されてくる患者は、特異的抗体陽性がなく症状がなければ特に問題ないと思われる
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一方で特異的抗体陽性or「膠原病のような症状」がある患者に関しては、扱いが難しい
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関節炎では「早期関節炎」「未分類関節炎」という概念があるが、それと同様にUCTDという概念ができている
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(健常人と比較すれば)膠原病発症率が高いので、フォローするのが望ましいのだがなかなか難しい問題がある
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UCTDの研究が進めば、そのあたりの疑問点も解決するのだろう
※補足
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UCTDの診断基準として提唱されているものとしてKinderの分類がある
KinderのUCTD分類(Am J Respir Crit Care Med. 176: 691−697, 2007.)
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症状
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膠原病関連症状
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全身性炎症所見
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両ドメインのうち、それぞれ少なくとも1つ以上が陽性の場合UCTDと分類
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