膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

リウマチ性疾患患者の予防接種に関するガイドライン改訂(ACR)

米国リウマチ学会(ACR)からのリウマチ性疾患患者へのワクチン推奨改訂。日本の臨床現場に応用しにくい部分もあるが紹介。
参考にはなるが推奨としては弱く、そのまま適応するのは難しい。
 

【ワクチンの接種対象・推奨】

※ワクチンが複数回ある場合、個別のワクチン接種を別の日にやるのではなく、同日に複数回のワクチンを行うことを推奨
 
◎注意点

【非生ワクチン投与時の免疫抑制剤休薬について】

※上記は全て条件付きで推奨
 

ステロイド内服患者に対して非生ワクチン投与を実施すべきか?】

(※疾患活動性は考慮していない)

※PSL:Prednisone
 

【生ワクチン接種時の免疫抑制剤

日本では生ワクチン接種は免疫抑制剤使用患者では禁忌となっている。ただACRでは「注意してやれば大丈夫」というスタンスを取っている。
参考として掲載。投与前後で長期間の休薬が必要で、あまり現実的ではない。

※MTX:メトトレキサート、AZP:アザチオプリン、LEF:レフルノミド、CyC:シクロホスファミド、IVIG:免疫グロブリン静注療法
a. PSL<20mg/day、体重10kg未満の患者へのPSL<2mg/kg/day、隔日投与等の「低レベル免疫抑制」の場合、ワクチン接種が重要なら低用量継続可
b. MTX≦0.4mg/kg/week、AZP≦3mg/kg/dayの場合、休薬による症状フレアリスクが高いなら内服継続で接種可
c.投与間隔が2つ以上ある場合、最も長い投与間隔を選択(例.Adalimumabは1週おき・2週おきがあるが、2週間休薬する)
d.自己炎症疾患・全身性JIA(特発性若年性関節炎)の小児で休薬による再燃リスクが高い場合、より短い休薬期間考慮可
e.ワクチン接種前のIVIGの休薬を推奨するのは、ワクチンの有効性を高めるためであり、安全性を高めるためではない。麻疹の流行時など、状況によっては、早期のワクチン接種が望ましい。
 

【胎内で免疫抑制剤に暴露した乳児への弱毒化ロタウイルスワクチン接種の時期】

母親が妊娠中にTNF阻害薬等の免疫抑制剤を継続した場合、胎児への移行が問題となる。
EULAR推奨(Ann Rheum Dis. 2016;75(5):795-810.)・European Summary of Product Characteristics (SmPC)(Br J Clin Pharmacol. 2020;86(3):580-590.)的には、生後6ヶ月の生ワクチン(ロタウイルスワクチンなど)は避けるべきという意見である。
表:SmPCのラベル情報に基づいた、妊娠中抗TNFα薬に暴露した胎児へのワクチンの推奨(Clin Exp Rheumatol. 2021;39(1):105-114.)

  • ただし、Certolizumabは理論的には胎児移行性はなく、比較的安全かもしれない(Clin Exp Rheumatol. 2021;39(1):105-114.)
 
一方でACRはかなり積極的に接種を推奨している(条件付き推奨)(根拠は記載なし)

 

【補記:MTX休薬に関してのエビデンス

総説に関しては"Discontinuing methotrexate to enhance vaccine response"( 2022 Jul 22 : 1–2.)によくまとまっているので、是非参照を。
 

SARS-CoV2ワクチンについて

  • ワクチン接種後、MTXを2週間休薬すると抗体価は有意に上昇する(Lancet Respir Med. 2022;S2213-2600(22)00186-2.)
  • ただ2週間MTXを休薬するとRAの患者の疾患活動性悪化が有意に増える(Ann Rheum Dis. 2022;81(6):889-897.)
  • 60歳以上の患者では、ワクチン接種とMTX再開の期間が10日以上空くと中和 SARS-CoV-2 抗体が上昇する(Ann Rheum Dis. 2022;81(6):881-888.)
 

●インフルエンザワクチンについて

  • RA患者に対してワクチン接種から2週間MTX休薬→RA活動性は悪化せずインフルエンザ抗体価は有意に増加(Ann Rheum Dis. 2018;77(6):898-904.)
  • 接種後の1週間休薬は、2週間休薬と同等の反応を示す(Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.42318.)
 

●結局MTXをどうするのか?

ACRでは上記の通りMTX休薬を推奨しているが、EULAR・日本リウマチ学会(JCR)では基本的にMTX休薬は不要とされている。
RA患者における2週間のMTX休薬は、疾患活動性悪化が増える報告もあるの悩ましいが、1週間位休薬するとワクチンの効果は高そう。(※ただしどれも「罹病を防ぐ」というハードアウトカムではないので注意は必要だが…)
個人的にはJCR推奨と総合して「疾患活動性が落ち着いているなら1週間位は休薬してもいい」というスタンスで実施している。
 
参考:
・JCRのSARS-CoV2ワクチン推奨について
「ワクチン接種にあわせた薬剤投与時期の調整は確固たるエビデンスに基づいた変更ではありません。一方で、原疾患が悪化しても致命的になる可能性が低く、かつ現在の病状が安定している場合には、ワクチン接種時から短期間(1-2週間程度)の免疫抑制薬の休薬を試みることが有効な可能性はあります。もし治療調整を試みる場合には、十分に個々人の状況を勘案したうえでご検討ください。」
・EULARのSARS-CoV2ワクチン推奨について(Ann Rheum Dis. 2022;annrheumdis-2021-222006.)

https://ard.bmj.com/content/early/2022/02/22/annrheumdis-2021-222006

Recommendation 3 "Patients with RMDs who have been vaccinated against SARS-CoV-2 should be advised to continue their treatment unchanged; those who have not been vaccinated should be advised to continue their treatment, taking into account that certain therapies have been associated with an increased risk of severe COVID-19."