膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ANCA関連血管炎治療へのエキスパートオピニオン

Arthritis Rheumatol. 2022;10.1002/art.42114.
MGHからのANCA関連血管炎(AAV)治療へのエキスパートオピニオンとしてのレビュー
非常に実践的かつ、エキスパートも同じことで悩んでいるんだなということを実感できる内容。
 
【Keypoint】
  • AAVの寛解導入におけるステロイドの投与量・投与期間は減少/短縮する傾向にある
  • 寛解導入の新薬としてAvacopanが登場し、今後に期待される
  • ANCA検査は診断・フォローにある程度有用だが、病勢そのものの反映というわけではなく注意が必要
  • Covid-19の時代でリスクは増大しているが、Rituximabが寛解導入/維持での第一選択薬である

 

表:活動性AAVへの治療アルゴリズム(エキスパートオピニオン)

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※MTX・MMFは日本では保険適応外
 

症例)

56歳男性、副鼻腔痛・鼻閉・肺腫瘤影(FigA)で受診
腫瘤の針生検…肉芽腫性炎症、多核巨細胞(FigB)、広範囲の地図状壊死(geographic necrosis)(FigAC
身体所見…多発関節炎、手指チアノーゼ(FigD)、爪線状出血、舌の有痛性潰瘍(FigE)
検査…蛋白尿(2+)、尿中鋳型赤血球、血清Cre1.3mg/dL
血液培養陰性、c-ANCA陽性、PR3-ANCA194U(正常値<20U)
→多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と診断。どう治療するか?

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Q1)重症AAVへの最適な寛解導入療法は?

  • Rituximab(RTX)+ステロイド(糖質コルチコイド、GC)の併用が基本
  • 多数の医師がシクロホスファミド(CyC)を使用し続けている
    • 寛解率自体はRTXもCyCも同等とされるが、RTXの方が寛解率が高いというデータもある(PR3-ANCA陽性例の解析)
  • RTX使用不能・RTX投与しても再発する症例にCyCを検討することが最近は多い
  • RTXとCyCを併用したデータも少数あるが、プラセボとの比較試験は現状ないので評価不能
 

Q2)ステロイドはどのような量・期間で治療すべきか?

  • 寛解導入でのステロイド投与量・期間は、近年どんどん少なく/短くなっている
  • 平均的な体格の成人の場合、プレドニゾン(PSL)40-60mg/dayで開始し、4週までに20mg/day、12週までに10mg/day、16週までに5mg/dayに漸減し、5−6ヵ月で中止が望ましい
  • ただし、より高用量・長期間の治療が必要な症例もある
  • 特定の患者には、より急速なステロイド漸減が必要…コントロール不良の糖尿病、肥満、重度の骨粗鬆症、うつ・不安神経症・精神病の既往
 

Q3)ステロイドパルスは必要か?

  • ステロイドパルス(mPSL1000mg3日投与)に関しての無作為化臨床試験は存在しないが、よく用いられる
  • 本当に必要なのかどうかははっきりしない
    • パルスに関しての事後解析では予後に差がないことが示唆されているが、交絡因子の除外が困難
  • 重症例の場合、疾患の迅速なコントロール・血管炎の重大合併症を防ぐ目的で、パルスは重要な治療と思われる
  • ただし非重症例の場合、臨床判断でパルスの短縮・投与量の減量・見送りすることが適切である
 

Q4)寛解導入の新たな選択肢は?

  • Avacopan(C5a受容体拮抗薬)がステロイド・CyC・RTXの補助として有効であることが示されている
  • ただFDA(米国食品医薬品局)はAvacopanがステロイドの代替になるわけではないと述べている
  • あくまでもAvacopanは、RTX/CyCとの併用で重症例を効果的に治療する・ステロイド必要量を減らすことを目的として使用すべき
  • Avacopanの非重症例の寛解導入両方での適応・寛解維持での適応に関しては現状不明
 

Q5)非重症例への治療法は何がよい?

  • 選択肢としてはRTXの他、MTX・MMF・AZAがある
  • 非重症GPAの治療…メトトレキサート(MTX)+ステロイドが多い
    • 「非重症例」の定義…病変が上気道に限局し、急速進行性糸球体腎炎・神経炎・重症炎症性眼疾患・肺胞出血などの重症臓器病変がない
  • 経験上RTXは、MTXより病勢コントロールステロイド漸減効果が高いが、費用・Covid-19感染/ワクチンの問題で使用が制限されやすい→そういう場合、MTXが使用しやすい
    • ただしMTXは、重症例には効果が低く使用すべきではない
  • ミコフェノール酸モフェチル(MMF)も非重症AAVに有効
  • アザチオプリン(AZA)は、寛解維持においてMMFより有効という報告あり→非重症例の維持療法として検討可能(Arthritis Care & Research 2021;73:1088-105.)
 

Q6)治療関連副作用を防ぐため、どのような補助療法を行うべきか?

  • 高用量ステロイドを使用する場合、ニューモシスチス肺炎(PcP)の予防を受けるべき
    • 明確なデータはないが、患者の臨床像・リスクプロファイルと相談して予防期間を決める
    • エキスパートオピニオン…PSL≦15mg/dayになったらPcP予防中止を検討するが、リンパ球減少が遷延しうる治療(RTX/CyC併用など)を受けている場合はより長期間の予防が適切かもしれない
  • 免疫抑制療法によってウイルス感染/再活性化リスクは高くなるが、抗ウイルス薬のルーチン仕様は現状推奨されない
  • ワクチン接種を受けるべき…水痘帯状疱疹ウイルス、SARS-CoV-2、インフルエンザ、肺炎球菌
    • 肺炎球菌ワクチンについて…13価ワクチン(プレベナー®)をまず接種→少なくとも2ヵ月後に23価ワクチン(ニューモバックス®)を接種すべき

症例続き①)

  • mPSL1g x3日間のステロイドパルスを実施し、その後PSL60mg/day及びCyC150mg経口内服を実施
    • また、ST合剤によるPcP予防を開始
  • 劇的に改善し、3日後に退院したが、退院後5日目に血清Cre2.7mg/dLまで上昇、尿検査で蛋白尿・血尿あり、入院
  • RTX1gを2週間隔で計2回実施(CyC無効と判断したわけではなく、RTXを治療の基軸として使用することに決めた)
  • 血漿交換(PLEX)も考慮することとなった

Q7)血漿交換の役割は?

  • 必要性に関しては議論され続けているが、現状ルーチンでの使用は適応外と考えられている
    • 死亡率・寛解導入達成率に関しては実施有無で差がなく、感染症が多くなる(N Engl J Med 2020;382:622-31.)
  • ただし、特定の症例には有用性が残っているかもしれない…主要な臓器障害・致死的な疾患活動性のある症例の初期(初期の急速進行性糸球体腎炎・びまん性肺胞出血など)

症例続き②)

  • 血漿交換は使用せず治療となった
  • プレドニン・CyC内服1週間・RTX2回投与にもかかわらず、腎機能悪化(他臓器病変はコントロールできていた)
  • 発症から2ヵ月後に透析導入が必要となったが、徐々に腎機能は改善→6週間で透析離脱し、血清Cre1.8mg/dLまで回復した
  • RTX投与から4ヵ月後にサイドのRTX維持投与を行い、5ヵ月後にはプレドニン中止できた
  • 治療開始後7ヵ月でANCAは陰転化した

Q8)AAVの再発リスク因子は?

  • AAVの再発は非常に多い
    • RTX・ステロイドパルス・5.5ヵ月間のPSLで寛解導入した患者のうち、18ヵ月まで寛解維持できたのは39%のみ(N Engl J Med 2013;369:417-27.)
  • 再発リスク…PR3-ANCA陽性、GPA、過去の再発歴、ANCA陽性期間が長い(2年以上)、免疫抑制の維持期間が短い(2年以内)
    • MPO-ANCA陽性は高度腎機能障害を起こすことが多いが、再発リスクは低い
 

Q9)診断後、モニターすべき検査は?

  • ルーチン…血算、総合代謝パネル(生化)、尿沈渣、随時尿蛋白/クレアチニン比、血沈、CRPをモニター
    • 疾患活動期は毎週モニター→安定したら検査頻度を減らしていく
    • 寛解後、最初の数カ月は毎月、次の2年間は3ヵ月毎、その後4-6ヵ月毎にフォロー
  • ただし、再発を早期発見するため、患者ごとにリスクのある臓器(腎臓など)の検査フォローを考慮
  • ANCA力価を3−6ヵ月毎にフォローし、ANCA陽転化・力価上昇時はモニタリングを綿密に行う
  • その他血液検査…HbA1c、脂質、血清蛋白電気泳動免疫グロブリンをフォローし、治療副作用をモニターする
  • ステロイド有害事象チェック…骨密度検査など
  • 画像は以下の通り
    • 診断時胸部CTをチェックし、治療中も再検して経過観察を行う
    • 副鼻腔・眼窩病変→同部位CT
    • 髄膜病変→MRI
 

Q10)再発予測因子としてANCA力価は有効か?

  • AAV管理におけるANCAの価値は3点にまとめられる
    1. 診断に有用…ANCA陽性はAAV診断にきわめて特異的→臨床症状がAAVに一致してANCA陽性なら組織診断不要な場合もある
    2. 再発リスク判定にある程度有用寛解導入後にANCA陽性が持続する場合、ANCA陰性例よりも再発率が高い(※ANCA陽性だから再発している、ということではないので注意)
    3. 疾患活動性判定には有用ではない…ANCA力価変化が治療戦略調整に信頼できるわけではない→ANCA力価のみに基づいて疾患活動性を判定し、免疫抑制剤を投与することは推奨されない
 

症例続き③)

  • ANCAは陰性化したが、数年間に何度か再発を起こした
  • ANCA力価と疾患活動性は緩やかな相関しかなく、再発予測・疾患コントロールとの相関はなかった
  • 再発時ステロイド+RTXで治療したが、再発のたびに腎機能は悪化し、最終的に末期腎不全となり腎移植を受けた
  • 腎移植から4ヵ月後に両側サイトメガロウイルス網膜炎を発症し、視力障害を起こした

Q11)寛解維持療法として最も有効な方法はなにか?

  • 大半の症例で、RTXでの維持療法が推奨される
    • 維持療法としてのRTX(6ヵ月毎投与)vs AZAの臨床試験…28ヵ月時点での再発率が優位にRTXで低い(AZA29%、RTX5%)(MAINRITSAN, N Engl J Med 2014;371:1771-80.)
  • ただし維持療法での最適なRTX投与レジメンは現状不明…患者によって適切なレジメンが異なるため
  • 大半の症例で維持療法が必要だが、一部症例(軽症MPO-ANCA)では不要な場合がある
    • 軽症例では経過観察でOK
    • 全症例で永続的なフォローが必要
  • 一般的な維持療法は、寛解導入療法後の4-6ヵ月後にRTX投与を行うことである
  • ただし可能ならRTX投与間隔を延長することが、このコロナの時代では可能かつ賢明な選択肢である
    • 例…RTX1gの年1回単回投与など
  • RTX繰り返し投与は低ガンマグロブリン血症を誘発する→免疫グロブリンのベースライン値を確認し、感染症有無を厳密に確認する必要がある
 

Q12)RTXが禁忌/不耐性の場合の寛解維持レジメンは?

  • AZA・MTX・MMFが選択肢で、全て妥当
 

Q13)COVID-19の恐怖は、AAV治療にどのような影響を及ぼすか?

  • RTX等のCD20モノクローナル抗体によるB細胞枯渇によって、Covid-19転機不良・ワクチン反応悪化が起こる
    • RTX使用はTNF阻害薬・MTXと比較してCovid-19重症化・死亡リスクが上昇する(Ann Rheum Dis 2021;80:930-42.)
  • その他、PSL≧10mg/日・疾患活動性が高いといったこともCovid-19重症化リスクである
  • Covid-19への配慮は必要だが、RTXは依然として寛解導入/維持の第一選択薬である
  • 以下に留意する
    1. 再発リスクの低い患者(MPO-ANCA陽性、非重症)では、RTXでの維持療法を制限する/実施しないことを検討する
    2. RTXを使用する場合、SARS-CoV-2ワクチンの接種/ブースターのタイミングを検討する
    3. Covid-19を発症した場合、モノクローナル抗体・抗ウイルス薬等での治療を速やかに検討する
参考

【感想】

  • 日本で多いMPO-ANCA陽性MPAと比較すると、海外はPR3-ANCA陽性GPAが多いので重症例が多いのだろうな、と改めて実感する
  • ANCAフォロー・RTXの使用に関しては、海外のエキスパートでも同じ様に悩んでいることが実感でき、安心した
  • AAVは致死的な疾患だが、適切なタイミング・強度で治療すればある程度寛解・無再発に持っていけるので、治療しがいのある疾患である
    • その分非常に診断・フォローともに難しいのだが…
  • Covid-19がもう少し落ち着き、血管炎についてだけ頭を悩ますことができる時代が待ち望まれるが、厳しいかもしれない…
 
参考
表:AAV臨床試験一覧
試験名
寛解導入or維持療法
治療レジメン
被験者数
Primary outcome
Primary Result
結論
CYCAZAREM
(N Engl J Med. 2003;349(1):36-44.)
維持療法
CyC(1.5mg/kg/日)
or
AZA(2mg/kg/day)
155
18ヵ月での再発率
AZA 15.5%
CyC 13.7%(p=0.65)
AZAとCyCは、寛解維持において同等の効果
NORAM
(Arthritis Rheum. 2005;52(8):2461-2469.)
寛解導入療法
経口CyC(2mg/kg/日)
or
経口MTX(20-25mg/週)
100
6ヵ月での寛解
MTX 89.8%
CyC 93.5%(p=0.041)
MTXはCYCに比較して、重症患者・肺病変を有する患者の寛解導入に有効でなかった
CYCLOPS
(Ann Intern Med. 2009;150(10):670-680.)
寛解導入療法
静注CyC(15mg/kg/2-3週)
or
CyC(2mg/kg/day)
をPSLと併用
→AZA(2mg/kg/day)へ
149
寛解までの期間
両群で同等
(HR 1.098, 95% CI: 0.78-1.55), p=0.59
静注CyCは経口投与と同等の効果があり、白血球減少もなかった
(JAMA. 2010;304(21):2381-2388.)
維持療法
CyC+PSLでの寛解導入後
AZA(2mg/kg/日)
vs
MMF(2000mg/日)
156
無再発期間
AZAよりもMMFで再発が多い
(無調整HR1.69)
MMFはAZAと比較して、維持療法において劣る
RAVE
(N Engl J Med. 2010;363(3):221-232.)
寛解導入療法
RTX(375mg/m^2/週x4回)
vs
CyC(2mg/kg/日)
197
6ヵ月時点でのステロイドフリー寛解
RTX64%
CyC53%
(p<0.001)
RTXはCyCに対して寛解導入において非劣勢
MAINRITSAN
(N Engl J Med. 2014;371(19):1771-1780.)
維持療法
RTX投与(0,14日目・6,12,18ヵ月)
or
AZA内服(22ヵ月、2mg/kg/日から開始)
115
28ヵ月での重大な再発
再発率
AZA29%
RTX5%
AZAはRTXに対して維持療法に老いて劣勢
MAINRITSAN2
(Ann Rheum Dis. 2018;77(8):1143-1149.)
 
維持療法
RTX定期投与(0,14日目・6,12,18ヵ月)
or
個別対応(ベースラインで500mg、CD19+B細胞 or ANCAが再出現したらRTX再投与)
162
28ヵ月での再発
再発率
定期投与9.9%
個別対応17.3%
(p=0.22)
再発率は定期投与・個別対応どちらでも同等
個別対応のほうがRTX投与回数が少ない
EUVAS
(Ann Rheum Dis. 2019;78(3):399-405.)
寛解導入療法
MMF 2-3g/日
or
静注CyC(15mg/kg、2-3週ごと)→維持はAZAへ
140
6ヵ月での寛解
MMF67%
CyC61%
MMFはCyCに対して寛解導入において非劣勢だが、再発率は高い(CyC19%、MMF33%)
PEXIVAS
(N Engl J Med. 2020;382(7):622-631.)
寛解導入療法
2x2組入
血漿交換ありorなし
ステロイド標準レジメンor減量レジメン
352
すべての原因での死亡
末期腎不全
複合エンドポイント
血漿交換28.4% vs 血漿交換なし31%
血漿交換は死亡・末期腎不全の発生率を減少させなかった
ステロイド減量レジメンは,標準レジメンに対して非劣性
ADVOCATE
(N Engl J Med. 2021;384(7):599-609.)
寛解導入療法
Avacopan30mg2回/日
or
+標準治療(CyC or RTX)
331
4週前でステロイド中止した状態での、26週時点での寛解
Avacopan72.3%
PSL70.1%
(優越性p=0.24)
Avacopanは寛解導入において、PSLに対して26週目には非劣勢で、52週目には優れる