膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

リウマチ性疾患におけるB型肝炎再活性化対策

Reactivation of hepatitis B virus infection in rheumatic diseases: risk and management considerations. 
Ther Adv Musculoskelet Dis. 2020;12:1759720X20912646.
 
 
免疫抑制療法を受けているリウマチ性疾患患者患者におけるB型肝炎再活性化は、適切なスクリーニング・モニタリング・治療によってコントロール可能だが、曖昧な部分が多い。そのあたりがスッキリするレビュー。
  1. 免疫抑制剤使用前に、HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体を測定し、HBV感染状況を確認する
    • →慢性HBV感染例(HBs抗原陽性)・HBV既感染例(HBs抗原陰性/HBc抗体陽性)には特に注意する
  2. 免疫抑制剤の種類・期間、HBV再活性化リスク因子を考慮して、管理方針を決定する

①スクリーニングと解釈

  • B型肝炎ウイルス(HBV)は、通常非経口感染によって発生する
  • 乳児の大多数(> 90%)・成人の一部(<5%)が曝露後に慢性HBV感染を発症する→慢性化のリスクは、主に感染時の年齢に依存する
  • 感染状態の判定はHBV血清マーカー・HBV-DNA抗体価に依存する

表1:HBV血清学

 
 
急性HBV感染
慢性HBV感染
過去の感染(既感染)
慢性肝炎
非活性化キャリア
感染治癒後
不顕性感染
HBeAg(+)
HBeAg(-)
HBs抗原
+
+
+
+
-
-
HBc抗体(total)
+/–
+
+
+
+
通常+/–
HBc抗体IgM
+
-
HBs抗体
+/–
+/–
HBe抗原
+
+
HBe抗体
+
+/–
+
+/–
血清HBV-DNA
様々*
通常>20,000IU/mL**
通常>2,000IU/mL**
検出不能
検出不能
検出(低値)
ALT
著明に上昇
上昇
上昇
正常
正常
正常
*:HBV-DNA値は、通常上昇するが、宿主の免疫反応・検査実施タイミングによって異なる
**:カットオフ値は、過去のPCR以外の検査法の検出限界から導き出されている。HBV-DNA値が低い患者では、HBV以外の合併症が確認されているため、他の要因(年齢、期間、ALT、病期)を考慮してHBV-DNAを解釈することが重要
 

図1:HBVの血清学的スクリーニングと解釈

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HBV再活性化

  • HBV再活性化は、癌・リウマチ性疾患・臓器移植に対しての免疫抑制療法の合併症の一つである
  • 通常HBs抗原陽性例に発生するが、稀に既感染患者(HBs抗原陰性/HBc抗体陽性)患者でも発生する
  • cs/bDMARDsで治療されているリウマチ性疾患におけるHBV再活性化の推定値は1.4%で想定よりも遥かに低かった(Microb Pathog. 2018;114:436-443.)

表2:HBV再活性化定義

 
定義
患者
ベースラインの
血清HBV-DNA
治療中のウイルス・血清・生化学マーカー変化
ウイルス学的再活性化
HBs抗原(+)
HBc抗体(+)
(+)
HBV-DNA ≧100IU/mL
(-)
HBV-DNA ≧1,000IU/mL
不明
HBV-DNA:⩾10,000IU/mL
HBs抗原(-)
HBc抗体(+)
(-)
HBV-DNA検出可能
血清学的再活性化
"reverse seroconversion"
HBs抗原(-)
HBc抗体(+)
 
HBs抗原(+)
生化学的再活性化
全て
 
ALT上昇(≧正常値3倍)
+ ALT≧100IU/mL
+ 他に説明可能な疾患がない
 

表3:HBV再活性化のリスク因子

 
分類
リスク因子
宿主の要因
男性
高齢者
肝硬変
免疫抑制が必要な病気の種類(リンパ腫)
ウイルス学的要因
ベースラインのHBV-DNA高値
慢性HBV感染
HBe抗原陽性
HBVジェノタイプA
免疫抑制
種類・期間に依存する(※表4参照)
 

免疫抑制剤HBV再活性化のリスク・マネジメント

 

表4:免疫抑制剤別のHBV再活性化リスク

薬剤
慢性HBV感染例
[HBs抗原(+)]
HBV既感染例
[HBs抗原(-)/HBc抗体(+)]
PSL>20mg/day・4週間以上
中程度
低い
csDMARDs
MTX, AZA, MMF, LEF, HCQ
低い
低い
CYC
中程度
低い
bDMARDs
TNF阻害薬
中程度
低い
RTX
非常に高い
中程度
ABA
中程度
低い
IL-6阻害薬
中程度
低い
IL-17阻害薬
中程度
低い
IL-12/23阻害薬
中程度
低い
tsDMARDs
JAK阻害薬
中程度
低い
※ABA:アバタセプト、AZA:アザチオプリン、CYC:シクロホスファミド、HCQ:ヒドロキシクロロキン、LEF:レフルノミド、MMF:ミコフェノール酸モフェチル、MTX:メトトレキサート、RTX:リツキシマブ
 

◎内服薬

  1. ステロイド
    • 中用量以上のステロイド治療なら、短期間の治療でも再活性化は起こりうる
    • 用量が多くなるとリスクが高まる傾向はあるが、明確なデータは不足している
    • PSL>20mg/day・4週間以上は、肝炎再燃のリスク因子(J Hepatol. 2020;72(1):57-66.)
      • HBs抗原陽性例に4週間以上PSL20mg以上での治療を行う場合、抗ウイルス薬での予防治療を考慮する
      • HBV既感染(HBs抗原(-)/HBc抗体(+))例ではリスクは低いので、予防治療ではなくモニタリングが推奨される
  2. MTX:メトトレキサー
    • 直接的な肝障害・肝毒性に関連するが、HBV再活性化は非常に稀
  3. その他のcsDMARDs(LEF:レフルノミド、SSZ:スルファサラジン、HCQ:ヒドロキシクロロキン、AZA:アザチオプリン)
    • HBV再活性化は非常に稀で、一般的には安全
  4. MMF:ミコフェノール酸モフェチル
    • 一部データではHBV再活性化リスクあるが、無いとするデータも多い→リスクは低い
  5. CYC:シクロホスファミド
    • CYCを含む治療におけるHBVrのリスクは、HBsAg陽性例では高く比較的早期に発生する(Lupus. 2018;27(1):66-75.)
      • HBV既感染(HBs抗原(-)/HBc抗体(+))例ではリスクが低い
    • HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨される

◎生物学的製剤

  1. TNF阻害薬
    • 慢性HBV感染例(HBs抗原陽性)
      • TNF阻害薬使用例におけるHBV再活性化発生率は7.1-75%の範囲で報告あり
      • 大半は肝炎フレアと関連し、TNF阻害薬投与から最初の1年以内での再活性化が大半
      • 抗ウイルス薬での予防治療が効果的であることも示されている
    • HBV既感染例(HBs抗原(-)/HBc抗体(+))
      • 再活性リスクは低い
    • HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨される
  2. RTX:リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体
    • 慢性HBV感染例(HBs抗原陽性)
      • RTX投与によるHBV再活性化リスクは非常に高い(30-60%)(Gastroenterology. 2015;148(1):221-244.e3.)
      • →抗ウイルス薬での予防が必要
      • 遺伝的バリアーの低い薬剤(ラミブジンなど)では治療失敗報告あり→第3世代抗ウイルス薬(エンテカビル、テノホビル)を使用する必要あり
    • HBV既感染例(HBs抗原(-)/HBc抗体(+))
      • 既感染例でも再活性化リスクが高いとされるが、発生率はまちまち→モニタリング推奨
  3. ABA:アバタセプト
    • 慢性HBV感染例(HBs抗原陽性)
      • 再活性化リスクあり…小規模研究では8人中4人が再活性化(Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64(8):1265-1268.)
    • HBV既感染例(HBs抗原(-)/HBc抗体(+))
      • 再活性化報告あるが、頻度不明
        • 日本からの報告…24例中3例に発症( Int J Rheum Dis. 2019;22(4):574-582.)
    • HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨される
  4. IL-6阻害薬
    • データほぼなし
    • HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨
  5. IL-17阻害薬
    • セクキヌマブ投与患者49例での研究…慢性HBV感染例27%、HBV既感染例4%でHBV再活性化(Acta Derm Venereol. 2018;98(9):829-834. )
    • HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨
  6. IL-12/23阻害薬
    • TNF阻害薬とほぼ同様のデータ→HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨
  7. csDMARDsとbDMARDsの組み合わせ
    • 併用でもあまりリスクは変わらなかったという報告はある(J Infect Dis. 2017;215(4):566-573.)

◎tsDMARDs

  1. JAK阻害薬
    • トファシチニブ…慢性HBV感染例4人中2名が再活性化、HBV既感染例75例は全員再活性化なし(Ann Rheum Dis. 2018;77(5):780-782.)
    • バリシチニブ…慢性HBV感染例7%が再活性化、HBV既感染例3%は全員再活性化なし(Ann Rheum Dis 2018; 77:584–585.)
    • →TNF阻害薬と同等、HBsAg陽性例では抗ウイルス薬予防治療を考慮し、HBV既感染例ではモニタリングが推奨
 

HBV再活性化のスクリーニングと管理

◎スクリーニング

  • 以下の場合、HBV検査(HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体)を実施
    • 中用量-高用量ステロイドを4週間以上投与する場合
    • cs/b/tsDMARDsを投与する場合
 

◎ワクチン

  • B型肝炎ワクチン(不活化ワクチン)は有効な介入である
  • 若年者には優れた効果があるが、高齢者ではワクチン反応が弱まる可能性に注意
  • 基本的には免疫抑制剤投与前に接種(特にRTXの場合、必ずRTXの投与前の接種が望ましい)
 

◎管理

図2:リウマチ性疾患におけるHBV再活性化管理のアルゴリズム

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  • リウマチ性疾患の場合、終生の免疫抑制が必要となる場合が多い→抗ウイルス薬を投与する場合、長期間の投与が必要となる
  • 抗ウイルス薬
    • 遺伝的バリアーの高い第3世代抗ウイルス薬(エンテカビル、テノホビルなど)を使用する事が多い
    • 開始…理想的には免疫抑制療法開始の1-2週間前
    • 中止…免疫抑制剤中止から少なくとも6ヶ月(RTXの場合12ヶ月)継続後の中止が望ましい
  • 患者別
    • HBV未感染患者(HBs抗原(-)/HBc抗体(-)/HBs抗体(-))
      • HBVワクチン接種を検討・接種させる必要あり
      • 特に高リスク群では積極的に考慮…高リスクの性行為を行う患者、HBV感染者の性的パートナー・家庭内接触者がいる患者、ドラッグ使用、血液透析、医療従事者、HBV流行地域の患者など
    • 慢性HBV感染患者(HBs抗原(+))
      • HBV再活性化リスクが高い→肝炎の専門医と相談してから治療方針決定
    • 慢性活動性HBV肝炎→抗ウイルス薬治療の適応
    • HBV不活化キャリア…HBV-DNA検出されれば抗ウイルス薬推奨