膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ワクチンに対しての免疫抑制剤・DMARDsの影響レビュー(ARD)

Friedman MA, Curtis JR, Winthrop KL. Impact of disease-modifying antirheumatic drugs on vaccine immunogenicity in patients with inflammatory rheumatic and musculoskeletal diseases. Ann Rheum Dis. 2021;80(10):1255-1265. doi:10.1136/annrheumdis-2021-221244
 
リウマチ性疾患患者は感染症合併リスクが高いので、予防接種はケアの重要な要素である。
一方で疾患修飾性抗リウマチ薬はワクチンの免疫原性を低下させる影響がある
ワクチン一覧…インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹SARS-CoV-2、B型肝炎ヒトパピローマウイルス(HPV)、黄熱病ワクチン

【ワクチン種類別推奨事項】

 
予防接種推奨
ワクチンタイミングと休薬
インフルエンザ
年1回全患者に推奨
65歳以上には4価高用量ワクチンを接種
免疫不全患者全員に高用量ワクチンを検討
RTX:RTX開始前、または最終投与からできる限り長期間(理想的には6ヶ月以上)かつ次のRTX投与の4週間前に接種
MTX:ワクチン接種後2週間の休薬を考慮
肺炎球菌
免疫不全患者全員に推奨
13価ワクチンを接種から8週間以上後に、23価ワクチンを接種
1回目の23価ワクチンを接種してから5年後に2回目の23価ワクチンを接種
RTX:RTX開始前、または最終投与からできる限り長期間(理想的には6ヶ月以上)かつ次のRTX投与の4週間前に接種
MTX:ワクチン接種後2週間の休薬を考慮
50歳以上の成人には組み換え帯状疱疹ワクチンを接種
高リスクのリウマチ性疾患患者全員に考慮
RTX:RTX開始前、または最終投与からできる限り長期間(理想的には6ヶ月以上)かつ次のRTX投与の4週間前に接種
HBV感染のリスクがある非免疫成人全員
RTX:RTX開始前、または最終投与からできる限り長期間(理想的には6ヶ月以上)かつ次のRTX投与の4週間前に接種
HPV
一般的なガイドライン同様※
特にSLE患者には推奨
RTX:RTX開始前、または最終投与からできる限り長期間(理想的には6ヶ月以上)かつ次のRTX投与の4週間前に接種
一般的な推奨と同様
RTX投与を受けた患者全員に考慮
RTX:RTX投与前に接種
黄熱病
免疫能が低下した患者では避ける
禁忌
一般人口と同様の推奨
ACRガイドラインでは以下の通り
  • RTX:最終投与からできる限り長期間、かつ次のRTX投与の2-4週間前に接種
  • MTX:ワクチン接種後1週間の休薬、単回接種ワクチンでは2週間の休薬
  • MMF・JAK阻害薬:ワクチン接種後1週間の休薬
  • ABT皮下注:初回接種の前後1週間の休薬、2回目は休薬不要
  • ABT静注:ABT投与4週間後に1回目の摂取を行い、次回ABT投与は1週間延期。2回目接種時は休薬不要。
  • CYC:接種後1週間後の投与に調整する
  • TNF, IL-6R, IL-1, IL-17, IL-12/23, IL-23,経口カルシニューリン阻害薬, ベリムマブ, アザチオプリン, スルファサラジン, レフルノミド, ヒドロキシクロロキン,アプレミラスト, IVIG, 経口ステロイド<20mg/日:休薬不要
RTX:リツキシマブ、MTX:メトトレキサート、MMF:ミコフェノール酸モフェチル、ABT:アバタセプト、CYC:シクロホスファミド
※参考…米国では、女性は26歳以下・男性では21歳以下(免疫不全等があれば26歳以下)が推奨(https://www.cdc.gov/vaccines/vpd/hpv/hcp/recommendations.html
 

【ワクチン別各論】

①インフルエンザワクチン

  • 生後6ヶ月以上の全員への毎年の定期接種を推奨
    • EULAR・ACRともに全関節リウマチ(RA)患者に対して接種推奨
  • 高用量インフルエンザワクチンは、リウマチ性疾患患者においてより効果的である可能性がありますが、現時点では高用量ワクチンは65歳以上の成人にのみ推奨されている
    • Lancet Rheumatology 2020;2(1):e14–e23.
    • RA患者への高用量のインフルエンザワクチンによるセロコンバージョン(抗体陽転化)率する可能性が高く(OR2.99、95%CI 1.46-6.11)、Cs/bDMARDs使用でもセロコンバージョン率は差なし
  • RTX治療を受けている患者は、インフルエンザシーズンに合わせて、RTXを開始する前or次回リツキシマブ投与2-4週間前の接種が理想
    • ただ、RTX投与下でのワクチン接種でもT細胞性免疫応答は獲得できるかもしれない(ただし、T細胞性免疫応答がインフルエンザ予防に役立つかは不明)
  • MTX治療を受けている患者では、高用量使用時はワクチン反応性が低くなる→MTX≧15mg/週以上のの場合は接種後2週間の休薬を考慮
    • Ann Rheum Dis 2018; 77(6):898–904.
    • ただし、高用量使用時の休薬はRA悪化リスクも高くなるので注意
    • 低用量MTX(≦7.5mg/週)ではワクチン反応性に差はなかった
  • ABTに関してはデータ不足だが、ワクチン反応性悪くなる可能性あり
  • 低用量ステロイド・インフリキシマブは問題なさそう
 

②肺炎球菌ワクチン

  • DMARDs治療を受けているリウマチ性疾患患者全員への肺炎球菌ワクチン接種を推奨
  • 成人用の肺炎球菌ワクチンには13価ワクチン(PCV13、プレベナー®)と23価ワクチン(PCV23、ニューモバックス®)がある
  • 13価ワクチンを接種から8週間以上後に、23価ワクチンを接種を行うことを推奨(CDC)
  • また23価ワクチンは初回接種から5年後、2回目の23価ワクチンを接種を行う
    • ※日本では13価ワクチンは肺炎球菌感染リスクの高い免疫不全患者に適応あり、23価ワクチンは65歳以上前患者に適応あり
  • RTXはワクチン反応性を低下させる→RTXを開始する前or次回リツキシマブ投与2-4週間前の接種が理想
  • MTXは、RTZXほどではないがワクチン反応性を低下させるようだが、休薬による反応性改善については不明(Vaccine. 2018;36(39):5832-5845.)
  • その他のDMARDs(ABT、TNF・IL-6・IL-12/ 23・IL-17阻害薬)に関しては問題なし
  • JAK阻害薬は少し影響あるかもしれない( Ann Rheum Dis. 2016;75(4):687-695.)
 

帯状疱疹ワクチン

  • 生ワクチン(水痘生ワクチン)と組み換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)の2種類がある
  • 50歳以上の全患者に組み換え帯状疱疹ワクチンを推奨(CDC)
    • ただACR・EULARともに組み換えワクチンについての言及は現状無い
  • 生ワクチンは免疫抑制状態の患者には禁忌
    • 生物学的製剤使用中に不注意で生ワクチン接種した患者で、6週間以内に帯状疱疹を発症した患者はいなかった(JAMA. 2012;308(1):43-49.)
    • MTXは問題なさそう(Arthritis Rheumatol 2019;71 (suppl 10).)
    • いずれにしろ、専門家との相談は必要
    • ただ案外使えるかもしれないというデータもある
    • MTX内服中のRA患者に対して生ワクチン接種から2-3週間後にトファシチニブ(JAK阻害薬の一種)を開始した研究では、ワクチン反応性が健常者の約50%だった()→予めの接種でもイマイチの可能性あり(Arthritis Rheumatol 2017;69(10):1969–77.)
  • 免疫抑制患者への組み換えワクチンの有効性は現状不明
 

SARS-CoV-2ワクチン

参考:

 

ctd-gim.hatenablog.com

 

B型肝炎ワクチン

  • 米国…感染リスクの高い成人に接種推奨
  • RTX治療を行う場合、B型肝炎高リスク患者の場合は事前のワクチン接種を考慮
 

⑥HPVワクチン

  • 米国…11-26歳の男女全員への接種推奨
  • 免疫抑制療法を受けている女性患者はHPV感染及び子宮頚癌のリスクが高い→接種の有無確認を行う必要あり
    • SLEでよく言われるが、他の炎症性疾患でも見られる
  • MTX・TNF阻害薬はセロコンバージョンに影響を与えない
    • サブルループ解析ではMMF・低用量ステロイド併用を行っているSLE患者ではセロコンバージョン率低下あったため注意(Ann Rheum Dis. 2013;72(5):659-664.)
 

破傷風ワクチン

  • RTX治療を行う場合、事前のワクチン接種を考慮
 

⑧黄熱病ワクチン

  • 免疫抑制状態の患者には非推奨(生ワクチンで増殖能が高い)
  • 黄熱病高リスク地域在住・旅行予定の場合、ワクチン接種のために免疫抑制剤の休薬を考慮…治療薬の体内からの消失を十分待つ→ワクチン接種→2-4週間後に薬剤再開
 

【結論】

  • ワクチン接種は免疫抑制剤・DMARDs治療を受けている患者において重要なことではあるが、治療によってワクチン反応性が低下する可能性がある
  • まとめると
    • RTX…ワクチンへの抗体反応を大幅に低下させるが、T細胞性応答は維持される可能性がある
    • MTX・ABT…多くのワクチンの免疫原性を低下させる
    • TNF阻害薬・JAK阻害薬…抗体価は下がるが、血清保護レベルは達成可能
    • IL-6,IL-12/23,IL-17阻害薬…影響なし
  • ただ、あまりデータ・臨床試験はないので今後の研究が待たれる
 

【感想】

  • コロナワクチン(SARS-CoV-2ワクチン)で休薬が話題となったが、実は他のワクチンに関しても悩ましい問題がある
  • 免疫抑制療法を行う以上、その有害事象に対してできる限りの対処を行うのは当然であり、その対処にはワクチン接種の推奨も含まれている
  • 肺炎球菌・インフルエンザ・コロナに関してはルーチンで行うが、帯状疱疹・HPVあたりになると薬価の問題で推奨しがたい部分もあるのが予防医療の歯がゆさである
  • 休薬について色々書いてあるがかなり微妙なデータも多いので、自分的にはコロナワクチンの休薬推奨及びRTX時のワクチンについてだけで十分じゃないかと思う
    • よっぽど落ち着いているならMTXもやってもいいかもしれないが、フレアしたときのリスクのほうが高そうである