膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

全身性リウマチ性疾患における抗核抗体検査

Understanding and interpreting antinuclear antibody tests in systemic rheumatic diseases. 
Nat Rev Rheumatol. 2020;16(12):715-726.
 
SLE等の抗核抗体関連リウマチ性疾患を疑った場合、抗核抗体を測定するわけだが、阿蘇の検査法および疾患ごとへの応用についてのレビュー
 
  • 抗核抗体検査には間接蛍光抗体法(IIF)とsolid phase immunoassay(SPAs)に分かれる
    • IIF…HEp-2細胞を利用した方法=HEp-2IIFアッセイ
  • IIFはかなり検査に手間がかかるため、検者によるばらつきが多く特異性が低い
  • 一方でSPAは自動化検査であり、再現性・特異性が高い
 

検査方法

HEp-2IIF
  • HEp-2細胞気質に付着した自己抗体を蛍光染色し、光学顕微鏡で観察することで判定する→判定は手動
    • 結果は抗体価と染色パターンに分かれる
②solid phase immunoassay(SPAs)
  • 最近導入されつつある方法
  • 自己抗体が特定の抗原に付着→ELISA・FRIA法などで、特定の自己抗体が増幅するという仕組み→全自動
  • 様々な方法が開発されつつある(PMATなど)

特性

HEp-2IIF
抗体価と染色パターンに分かれる
  1. 抗体価
    • 抗核抗体は健常者でも結構な頻度で陽性となるため、IIFによるスクリーニングは完全なものではない
      • 40倍で31.7%、80倍で13.3%、160倍で5.0%、320倍で3.3%が健常者で陽性(Arthritis Rheum. 1997;40(9):1601-1611.)
    • ただ2019年EULARのSLE基準では80倍で十分感度が高いと判断し、分類基準を作成している
    • 抗体価が高いほど全身性リウマチ性疾患の保有率が高くなることは確か
  2. 染色パターン
    • speckled, homogeneous, nucleolar, centromereが挙げられる
    • どの染色パターンでも抗体価上昇に伴ってリウマチ性疾患有病率は上昇する
    • centromereパターンはリウマチ性疾患・特にSScとの関連が深いが、他の染色パターンから特異的抗体の特定はできない→特異的アッセイで確認する必要がある
    • ある程度は自動化されているが認識できないパターンもある→経験豊富な技術者による染色パターンの確認が重要

 

表:HEP2-IIFと特異的抗体

特異的抗体

関連する疾患

HEp-2IIF染色パターン

HEp-2IIF細胞質染色

抗核抗体関連疾患で幅広く発現

ssDNA

特異的疾患なし

陰性が多い

なし

ヒストン

薬剤性ループス

SLE、JIA等

Homogenous

 

 

なし

SSA/Ro60

Sjögren症候群、SLE

Fine speckled

見落としうる

 

なし

Ro52(TRIM21)

Sjögren症候群、SLE

IIM(炎症性筋疾患)

陰性が多い

なし

U1RNP

SLE、MCTD(混合性結合組織病)

Large/coarse speckled

なし

cN1A

封入体筋炎

Sjögren症候群、SLE

未定義

未定義

SLE

dsDNA

SLE

Homogenous

なし

Nucleosome

chromatin

SLE

Homogenous

なし

Sm

SLE

Large/coarse speckled

なし

Ribosomal P

SLE

なし

Dense fine speckled

見落としうる

PCNA

SLE

PCNA様

(pleomorphic speckled)

なし

SSc(全身性強皮症)

トポイソメラーゼⅠ

(Scl70)

SSc

Topo I様

 

 

なし

CENPB

SSc

Centromere

 

 

なし

RNAポリメラーゼⅢ

SSc

Large/coarse speckled

なし

Fibrillarin

SSc

Clumpy nucleolar

 

なし

Th/To

SSc

Homogeneous nucleolar

なし

Nor90

SSc

Punctate nucleolar

 

なし

U11/U12 RNP

SSc

Large/coarse speckled

なし

BICD2

SSc

Nucleor

なし

Sjögren症候群

SSB/La

Sjögren症候群

Fine Speckled

なし

オーバーラップ症候群

RuvBL1/2

SScとIIM

Fine Speckled

なし

PM/Scl

SScとIIM

Homogeneous nucleolar + 弱いFine Speckled

なし

Ku

オーバーラップ症候群

Fine Speckled

なし

IIM

Jo-Ⅰ

ARS症候群

なし

Fine speckled

見落としうる

PL7, PL12, OJ, EJ, KS, Ha, Zo

ARS症候群

なし

(Dense) Fine speckled

見落としうる

Mi2

皮膚筋炎

Fine speckled

なし

MDA5

皮膚筋炎

なし

サブセットの細胞内のFine Speckled

見落とされうる

TIF1γ

皮膚筋炎

Fine speckled

見落とされうる

なし

NXP2

皮膚筋炎

Multiple nuclear dots;

見落とされうる

なし

SAE

皮膚筋炎

Fine speckled

なし

SRP

壊死性筋炎

なし

Fine speckled

見落とされうる

HMGCR

壊死性筋炎

なし

ごく少数の細胞でのdine speckled

見落とされうる

その他

DFS70

ANCA関連リウマチ性疾患で稀に見られる

Dense, fine speckled

なし

 ※強皮症・皮膚筋炎の抗体まとめ

 

ctd-gim.hatenablog.com

 

ctd-gim.hatenablog.com

 

②SPA
  • ELISA・FEIA・CIAなどの方法があり、抗核抗体関連疾患のスクリーニングではなく特異的自己抗体の検出に利用されている
    • ただ、方法ごとで感度・特異度は微妙に異なる
  • HEp-2 IIFと比較して感度は低いが、特異度は高い
    • 特にSSc・SLEのスクリーニングではIIFの方が感度が高い
    • 逆にシェーグレン症候群ではSPAの方が感度高い
 

抗核抗体測定法の組み合わせ

  • IIF・SPA両方が陽性の場合、片方のみが陽性の例と比較して抗核抗体関連リウマチ性疾患の活動性が高い→両方行うことで疾患の除外/特定に役立つ
    • IIF…感度は高いが、特異度は低い+特異的自己抗体のはっきりしていないリウマチ性疾患を検出できる可能性がある
    • SPA…感度は低いが、特異度は高い+疾患特異的な自己抗体を検出することができる
  • 双方を組み合わせることが重要
 
推奨される検査方法
  • 最適なスクリーニング検査は疾患によって異なる

表:疾患ごとの抗核抗体の特定アプローチ

 
疾患
全体的アプローチ
HEp-2IIF染色パターン
SPAで特定された特異的抗体
SLE
IIFは感度は高いが特異度は低い
IIFとSPAを組み合わせることに価値がある
Nuclear homogeneous
dsDNA
Nucleosome or chromatin
Nuclear fine speckled
(見逃されうる)
SSA/Ro60
Nuclear large/coarse speckled
Sm
U1RNP
Cytoplasmic dense fine speckled
(見逃されうる)
Ribosomal P
PCNA様
(pleomorphic speckled)
PCNA
Sjögren症候群
IIFではSSA/Ro60抗体を見逃す可能性がある
SPAではSSA/Ro60・SSB/Laの感度が高い
→IIFのスクリーニングしなくても良い
Nuclear fine speckled
SSA/Ro60
SSB/La
全身性強皮症
(SSc)
HEp-2 IIFはスクリーニングに優れている
SPAで大半のSSc特異的抗体を検出できるが、全てではない
SPAで同定された抗体とIIFパターンが合致しているかを確認することが重要
Centromere
CENPB
TopoⅠ様
トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)
Nuclear speckled
RNAポリメラーゼⅢ
U11/U12 RNP
Ku(オーバーラップ)
RuvBL1/2
(IIMとオーバーラップ)
Nucleolar (clumpy, homogeneous or punctate)
Fibrillarin
Th/To
PM/Scl(オーバーラップ)
Nor90
定義不十分(Speckled)
BICD2
特発性炎症性筋炎
(IIM)
HEp-2の感度は限られている
SPAは臨床的に疑わしい場合に測定し、偽陽性があるため注意
全ての抗体スペクトルをカバーしているわけではないので注意
SPAで同定された抗体とIIFパターンが合致しているかを確認することが重要
Cytoplasmic (dense) fine speckled(見逃されうる)
amino-acyl transfer RNA synthetases: Jo1, PL7, PL12, OJ, EJ, KS, Ha or Zo
→抗ARS抗体
Cytoplasmic
細胞のサブセットでのdine speckled
(見逃されうる)
HMGCR
MDA5
Nuclear, fine speckled
Mi2
SAE
TIF1γ
Ku(オーバーラップ)
RuvBL1/2
(SScとオーバーラップ)
Nuclear multiple dots
(見逃されうる)
NXP2
混合性結合組織病
(MCTD)
HEp-2IIFは優れたスクリーニング法である
U1RNP高値(SPA)はMCTDを示唆している
Nuclear large/coarse speckled
U1RNP
  • 自己免疫性肝炎(AIH)・原発性硬化性胆管炎(PBC)・若年性特発性関節炎(JIA)では診断基準の一部として抗核抗体測定が行われている
    • AIH・JIAに関しては標的自己抗原が不明
    • PBCでは抗ミトコンドリア抗体が特定されている→ reticular cytoplasmicパターン
 

まとめ

  • 抗核抗体測定には大別してHEp-2 IIFとSPAがあり、どちらも一長一短である
  • 疑う疾患に応じて検査法を組み合わせることが重要
    • SLE・SScではHEp-2 IIFがスクリーニングとして有用
    • Sjögren症候群ではSPAがスクリーニングに有用
    • IIMではどちらも微妙→特異的抗体測定を行う