Lancet. 2021;S0140-6736(21)00569-9.
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痛風は関節等に対して尿酸ナトリウム血症が沈着することで起こる疾患である
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高尿酸血症が最大のリスク
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高尿酸血症:血中尿酸≧7mg.dL で定義
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治療の中心は長期尿酸降下療法による尿酸結晶の溶解とフレアの予防である
臨床症状
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典型的な初期症状は下肢の関節への急性炎症性関節炎(痛風発作)である
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無治療の場合7−14日程度で自然消退する
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痛風発作
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発症から疼痛のピークまでが短い(12時間未満)であることが特徴
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随伴症状として腫脹・熱感・紅斑がある
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発作が強い場合は、患部の可動制限・歩行困難・物理的刺激への過敏症状(俗に言う「風が吹くだけで痛い」)も起こる
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罹患関節は下肢(足趾・足関節・膝)が多く、第1MTP関節が特徴的
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上肢関節にも起こるが、通常は長年コントロール不良の患者でのみ起こる
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再発の多くは高尿酸血症の重症度と関連している
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発作のトリガー…プリン体過剰摂取時・アルコール摂取・関節外傷・急性疾患など
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通常は急性単関節炎だが、フレアの持続によって長時間持続・多関節炎になりうる
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皮下組織に痛風結節ができることもあり、関節・耳・肘頭・腱などにでき、サイズも様々
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通常は硬いが、尿酸硬化療法中は柔らかくなることがある
疫学
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有病率は0.68-3.9%とされる
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民族間での差があり、オセアニアでは有病率が高い
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男女比は2~4:1と男性に多い
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リスク
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高尿酸血症が最大のリスクで、濃度依存的に発症リスクが高くなる
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その他のリスク…メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、薬剤(シクロスポリン・利尿薬)など
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食事…プリン体(赤身肉・ビールなど)
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遺伝子要因もある
病態生理
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また、骨髄増殖疾患・乾癬等による尿酸過剰産生も原因となる
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腎臓/象徴での尿酸再吸収の亢進による尿酸排泄低下も一因となる
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図:尿酸トランスポーターの位置
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SLC2A9(GLUT9をコード)ABCG2・SLC22A12(URAT1をコード)の遺伝的変異と痛風に相関あり
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尿酸ナトリウムの結晶化
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高尿酸血症の患者の一部で尿酸ナトリウムの結晶化が起こる
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尿酸ナトリウム結晶への急性炎症反応
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尿酸ナトリウム結晶は自然免疫系を刺激する
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マクロファージ・単球のNLRP3活性化→TLR2,TLR4を介したNF-κB刺激→IL-1βの産生→好中球の活性化→炎症
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好中球密度が高くなると炎症性メディエーターを捕捉して分解→痛風発作の改善を起こす
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痛風の進行
鑑別診断
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痛風同様に加齢がリスクで、併存疾患が多い
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発熱・白血球増加を起こす
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→滑液等の細胞数チェック・Gram染色・培養が必要
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痛風の発赤を模倣するため鑑別困難
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関節罹患部位での鑑別…ピロリン酸カルシウムは手関節・膝関節が咲いた
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画像検査での軟骨石灰化確認も有用
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診断のGold-Standardは結晶の顕微鏡による確認
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尿酸結晶・ピロリン酸カルシウム両方が併存する場合があるため注意
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所謂“Milwaukee shoulder”(https://radiopaedia.org/cases/milwaukee-shoulder-early)
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乾癬性関節炎
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乾癬性関節炎患者はメタボリックシンドローム・高尿酸血症の有病率が高い
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痛風と同様に下肢の単/乏関節炎として現れる
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第1MTP関節症状が起こることもある
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関節リウマチ
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変形性関節症
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結晶沈着部分は変形性関節症罹患部位に多い
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MTP関節・PIP関節の変形性関節症は痛風結節に似る
検査
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診断のGold Standardは滑液/痛風結節中の尿酸ナトリウム結晶の確認
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Aはラムダ軸に平行、Bはラムダ軸に垂直
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典型的徴候・診断の場合は関節穿刺しなくても診断可能…例)足部痛風(podagra)
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プライマリ・ケアでの単関節炎に対しての痛風診断スコアがあり有用(Arch Intern Med. 2010;170(13):1120-1126.)
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ただ、発作時の尿酸値は正常のことが多い(腎排泄が増加するため)→フレア終了から2−4週間後に再チェックする必要がある
項目
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点数
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男性
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2.0
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以前関節痛発作の既往がある
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2.0
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1日以内に発症
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0.5
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関節の発赤
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1.0
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第1MTP病変
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2.5
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高血圧or1つ以上の心血管リスク
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1.5
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血中尿酸値>5.88mg/dL
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3.5
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4点以下→97%以上で痛風除外
8点以上→80%以上で痛風
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痛風発作の管理
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優先事項は疼痛制御と炎症の抑制
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抗炎症薬の早期投与が推奨される
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PSL・NSAIDs・低用量コルヒチンは同等の有効性がある
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安全性はPSL>NSAIDs、副作用はNSAIDs>コルヒチンとされる
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低用量コルヒチンで問題ない場合、高用量コルヒチンは推奨されない
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コルヒチンは併用疾患・薬によっては避ける
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重度の腎機能障害・肝障害
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CYP3A4阻害薬…シクロスポリン、ケトコナゾール、クラリスロマイシン、ベラパミルなど
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経口内服困難→関節注射
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非薬物療法…アイシング、安静指示、適切な栄養・水分補給など
治療
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ポイント
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例
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抗炎症薬物療法
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早期投与が推奨される
一次治療:経口ステロイド、NSAIDs・コルヒチン→併存疾患・併用薬等から決定
IL-1阻害薬は一次療法に不耐性・禁忌の例に行う
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NSAIDs:ナプロキセン500mg2回・5日間
コルヒチン発作時1.2mg→1時間後0.6mg
PSL40mg5日間
トリアムシノロン40mg関節注射
アナキンラ100mg/day 3-5日間
カナキヌマブ150mg1回
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非薬物療法
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抗炎症薬物療法と併用
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炎症関節クーリング1日4回30分間
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患者教育
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痛風の概念・長期の尿酸降下療法による臨床転機改善について説明
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患者の信念・優先順位を評価
痛風の原因について説明
尿酸降下療法による将来の発作予防・関節破壊予防を説明
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長期管理
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痛風発作は長期管理を最適化する良い機会である
長期計画について話し合うため、発作直後にフォローアップする
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尿酸値等を説明
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長期管理
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中心戦略は尿酸降下療法
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第一目標は血中尿酸値<6mg/dLだが、一部の人(重度発作)は<5mg/dLが推奨される場合もある
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患者教育…痛風は尿酸ナトリウム結晶沈着による慢性疾患であり、長期の尿酸硬化療法が結晶溶解及び臨床転機改善につながることを説明する
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尿酸降下療法は痛風発作中から開始可能で、抗炎症薬と併用することが可能
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食事…高血圧食・減量指示・砂糖入り飲料の回避・アルコール過剰摂取の回避など
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ただ、大半の患者は食事指導だけでは尿酸目標値には到達できない
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ロサルタン・SGLT2阻害薬・フェノフィブラートは尿酸降下作用がある
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フォローアップ…患者教育の継続、尿酸値のフォロー
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ポイント
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例
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患者教育
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痛風は尿酸ナトリウム結晶沈着による慢性疾患であり、長期の尿酸硬化療法が結晶溶解及び臨床転機改善につながることを説明する
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患者の信念・優先順位を評価
痛風の原因について説明
尿酸降下療法による将来の発作予防・関節破壊予防を説明
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尿酸硬化療法の適応確認
必要あれば一次療法としてアロプリノール開始
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痛風患者への適応:
アロプリノールは発作時から開始可能で、低用量からスタートして漸増する
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アロプリノール100mg/day
eGFR<60の場合は50mg/dayで開始
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抗炎症薬でのフレア抑制
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痛風発作は、低用量抗炎症剤で予防可能
尿酸低下療法を開始する場合3〜6か月間は内服する
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ナプロキセン250mg/day 3ヶ月
コルヒチン0.6mg/day 3ヶ月
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痛風発作への対策
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痛風発作時の早期治療薬
→所謂「pill in the pocket medication」
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ナプロキセン500mg2回・5日間
エトリコキシブ120mg 8日間
コルヒチン発作時1.2mg→1時間後0.6mg
PSL30mg5日間
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Target to Treat
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目標尿酸値に達した場合、定期的(6-12ヶ月ごと)に尿酸値監視
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目標尿酸値<6mg/dL
重度発作→<5mg/dLが推奨
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尿酸降下療法の最適化
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アロプリノールの増量
単剤で目標達成困難→他の薬へ
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アロプリノール100mg/day
(eGFR<60の場合は50mg/day)で開始→最大800-900mg/dayまで増量
他薬剤
フェブキソスタット40-120mg /日
プロベネシド~1g/day1日2回
ベンズブロマロン50~200mg/day
ベクロチカーゼ8mg静注・2週間毎
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食事指導
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食事療法で尿酸値は低下するが、目標尿酸値に食事療法だけで達する人は殆どいない
痛風発作を起こす食事の特定を行う必要がある→トリガーの忌避
結晶溶解が達成されればトリガーの忌避不要
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肥満→減量サポート
砂糖入り飲料の回避
過度の飲酒の回避
特定のトリガーの忌避
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関連症状の管理
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生命予後の一因となる
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心血管リスクの積極的管理
ロサルタン・SGLT2阻害薬・フェノフィブラートは尿酸降下作用があるため検討する
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フォローアップ
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長期的な尿酸降下の継続を目指す
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目標達成後の定期的な尿酸検査と処方継続
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尿酸降下薬
すべての薬剤で、治療開始時痛風発作リスクあるため注意。低用量の抗炎症薬を併用し、尿酸降下薬を漸増することで発作リスクを下げることができる。
薬剤
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機序
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推奨投与量
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薬剤相互作用
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有害事象
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アロプリノール
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キサンチンオキシダーゼ
尿酸産生阻害
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100mg/dayで開始し、目標尿酸値に達するまで4週間毎に100mgずつ増量
eGFR<60の場合50mg/dayで開始し、4週間毎に50mgずつ増量
米国最大承認800mg
(※日本も800mg)
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メルカプトプリン・アザチオプリン…骨髄抑制リスク
利尿薬…アロプリノール過敏
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皮疹
アロプリノール過敏症…CKD、利尿薬使用中、高用量での開始、HLA-B*58:01がリスク
→陽性なら他の尿酸降下薬を処方する
肝機能異常
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フェブキソスタット
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キサンチンオキシダーゼ
尿酸産生阻害
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40-120mg/day
目標尿酸値に合わせて漸増
最大量80mg
(※日本は60mg)
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メルカプトプリン・アザチオプリン…骨髄抑制リスク
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皮疹
過敏反応
肝機能障害・肝毒性
CARES trialではアロプリノールと比較して心血管死亡増加(N Engl J Med 2018; 378:1200-1210)、FAST studyでは否定(Lancet. 2020;396(10264):1745-1757.)
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プロベネシド
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尿酸排泄促進
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500-1000mg, 1日2回
目標尿酸値に合わせて調整
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腎結石…飲水励行を指導する必要あり
皮疹
過敏反応
血液疾患
腹痛・腸管不耐症
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ベンズブロマロン
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尿酸排泄促進
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50-200mg/day
目標尿酸値に合わせて調整
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ワーファリン…抗凝固効果増強
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肝毒性…肝機能フォロー
腎結石…飲水励行を指導する必要あり
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レシヌラド
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腎尿細管再吸収阻害薬
尿酸排泄促進
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200mg/day
キサンチンオキシダーゼと併用…アロプリノール、フェブキソスタット
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CYP2C9阻害薬…レシヌラド濃度上昇
CYP2C9促進薬…レシヌラド濃度低下
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急性腎障害…レシヌラド単剤は避け、血清クレアチニン値フォロー
腎結石…飲水励行を指導する必要あり
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ペグロチカーゼ
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組み換え型ウリカーゼ
尿酸を水溶性に代謝する
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8mg静注、2週おき
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他の尿酸降下薬との併用を避ける…ペグロチカーゼによる尿酸値の反応をマスクしてしまう可能性があり、infusion reactionリスクを上げる
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・尿酸値を投与前に測定し、6mg/dL以上になった場合(特に2回連続で6mg/dL以上の場合)、治療を中止する
G-6PD欠損症患者には禁忌…溶血・メトヘモグロビン血症のリスクあり
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※をつけた部分は筆者注
一次予防
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薬剤:他の併存疾患あり→ロサルタン・SGLT2阻害薬・フェノフィブラートは尿酸降下作用があるため、使用する価値はある
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食事療法、肥満手術なども考慮される
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痛風予防のための尿酸降下薬・抗炎症薬は推奨されない(Arthritis Care Res (Hoboken). 2020;72(6):744-760.)
治療の現状
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痛風があっても治療を受ける患者は少ない
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服薬アドヒアランスも悪くなりがち…非発作時は無症状であることなどが原因?
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看護師主導の指導などが役立つかもしれない
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治療しない場合死亡率上昇等の予後悪化が起こる
まとめ
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症状は発作的だが、慢性疾患である
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安価かつ効果的な治療はあるが、服薬アドヒアランスは悪いため注意が必要