膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

リウマチ性疾患患者への予防接種のポイント

“Vaccination in adults with autoimmune rheumatic diseases“ Timothy S.H. Kwok, Michael Libman and Shirley L. Lake 
CMAJ September 09, 2019 191 (36) E1005; DOI: https://doi.org/10.1503/cmaj.190345  
CMAJの “Five things to know about …”より、リウマチ性疾患患者へのワクチン接種で知っておくべき5つのこと。
  1. 予防接種状況は、リウマチ性疾患の患者の診断時・定期検査で評価されるべき
  2. DMARDs使用中の患者にとって、不活化ワクチンは安全に使用でき、一般的には効果的である
  3. 原病治療前/疾患安定期でのワクチン接種が理想だが、ワクチン摂取を優先してDMARD治療を遅延/保留してはならない
  4. bDMARDs使用中の患者では生ワクチンは避ける
  5. すべての予防接種は同じ日に行うことが可能である

 

①予防接種状況は、リウマチ性疾患の患者の診断時・定期検査で評価されるべき 
  • リウマチ性疾患患者は、一般集団の1.4〜2.0倍の感染リスクがある 
  • リウマチ性疾患患者全員にワクチン接種が推奨されるが、接種は現状不十分
②DMARDs使用中の患者にとって、不活化ワクチンは安全に使用でき、一般的には効果的である
  • 不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌、破傷風ヒトパピローマウイルスインフルエンザ菌 B型、髄膜炎菌、A型/B型肝炎など)は、csDMARDs/bDMARDs投与中の患者に対して安全に使用できる
  • DMARDs使用中の患者のワクチン反応に関するデータは余りない
    • メタ分析…メトトレキサート投与で肺炎球菌ワクチンへの反応低下示唆された(TNF阻害薬は反応低下なし)(The Journal of Rheumatology 2018,45(6) 733-744
③原病治療前/疾患安定期でのワクチン接種が理想だが、ワクチン摂取を優先してDMARD治療を遅延/保留してはならない
  • 理想的にはDMARDs治療2週間以上前、疾患安定かつ炎症マーカーが低いときに、ワクチン摂取がされるべき
  • 疾患活動性の高い患者で、ワクチン接種によって疾患フレアが起こりやすくなることを報告した論文は無いが、理論的なリスクではある
④bDMARDs使用中の患者では生ワクチンは避ける
  •  生ワクチン(帯状疱疹、麻疹、ムンプス、風疹、ポリオ、水痘など)は、bDMARDsを開始する4週間前に投与し、既にbDMARDsを投与されている患者には使用してはならない
  • (ワクチン投与によって得られる)ベネフィットが(bDMARDsを中止する)リスクを上回る場合、bDMARDsを一時的に中止し、生ワクチンを投与することは可能
  • 免疫抑制療法をする前に、将来行う旅行に必要なワクチン接種を考慮する必要がある
⑤すべての予防接種は同じ日に行うことが可能である
  • 禁忌がない場合、地域の予防接種スケジュール・リスク因子に応じて、1回の診察でワクチン接種を受けることができる
  • ワクチンによる有害事象の発生率は、自己免疫疾患のない人と同等(Clin Infect Dis. 2008;46(9):1459-1465.
 
代表的なワクチン一覧
ワクチン
csDMARDs
bDMARDs
推奨スケジュール
インフルエンザ
毎年
肺炎球菌
13価ワクチン(プレベナー®︎)1回接種し、8週間後に23価ワクチン(ニューモバックス®︎)を1回接種
3回(0,1,6ヶ月)
麻疹/ムンプス/風疹
MMR
△ ※2
×
 
水痘
※2
×
 
ポリオ
△ ※2
×
 
帯状疱疹(60歳以上)
○ ※3
※4
2回(2−6ヶ月あける)
  • ※1 ハイリスク患者B型肝炎流行地域の住人/旅行者/住人との濃厚接触者、不法薬剤使用者、高リスクの性交渉を行う者、性感染症リスクのある患者、ホモセクシャル、慢性肝疾患患者、医療従事者、頻繁に輸血を行われる患者 
  • ※2 推奨に十分なエビデンスがなく、使用に注意が必要 
  • ※3 不活化ワクチン(シングリックス®︎)推奨
  • ※4 生ワクチン(Zostavax®︎ 日本では"乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」®"で代用される)は禁忌。不活化ワクチン(シングリックス®︎)推奨。 推奨に十分なエビデンスがなく、使用に注意が必要
 
(感想)
 一般的なリウマチ診療で使用しうるワクチン及び大体の値段は以下の通り。
ワクチン
商品名
値段
インフルエンザ
インフルエンザHAワクチン
3,000-5,000円
23価肺炎球菌
ニューモバックス
7,500-8,500円
13価肺炎球菌
プレベナー
9,000-12,000円
帯状疱疹不活化ワクチン
シングリックス
18,000-25,000円 x2回
帯状疱疹生ワクチン
(日本では水痘ワクチンで代用
乾燥弱毒生水痘ワクチン
4,000-6,000円
https://www.vaccine4all.jp/ 参考に作成、自由診療なので病院ごとで差あり
自費なので患者負担は相当に大きい。これを疾患の治療前に進めるのはなかなかハードルが高い、というのが現実的な悩み。最近日本でも認可された帯状疱疹不活化ワクチン(シングリックス®︎)に至っては4−5万円と相当のハードルをかましてきている。 
 また、「DMARDs等の免疫抑制をする前に「将来海外旅行をする予定があるか」という質問をして備える」という視点が足りてなかったと反省。治療が患者にとって一生ものとなる以上はそこも考慮しておくと、より高い次元に医療ができるように思えた
 

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の急速進行性間質性肺炎(RP-ILD)の治療推奨

 

Recommendations for the treatment of anti-melanoma differentiation-associated gene 5-positive dermatomyositis-associated rapidly progressive interstitial lung disease.
Semin Arthritis Rheum. 2020;50(4):776‐790.
 
MDA5陽性RP-ILD(急速進行性間質性肺疾患)は非常に難治性かつ急速進行性なので、治療は非常に難しい。専門科パネルでrecommendationを作成した。

f:id:CTD_GIM:20200622180050p:plain

 

 過去のMDA-5皮膚筋炎まとめ↓

末梢脊椎関節炎レビュー(RMD Open)

Carron P, De Craemer AS, Van den Bosch F. Peripheral spondyloarthritis: a neglected entity-state of the art. 
RMD Open. 2020;6(1):e001136.
doi:10.1136/rmdopen-2019-001136
 
末梢性脊椎関節炎(peripheral spondyloarthritis: pSpA)は、乾癬性関節炎(PsA)による関節炎/腱鞘炎/dactylitis症状として有名だが、非乾癬性のpSpAに関しては余りスポットライトは当たっていない。
→レビュー

 

SpAは、強直性脊椎炎(AS)・乾癬性関節炎(PsA)。反応性関節炎(ReA)およびIBD関連関節炎/脊椎炎といったものを内包した概念である。
SpA症状は本来、
  • 軸性SpA(axSpA)→腰痛
  • pSpA→関節炎
の2つに分類される。
 
疫学
  • SpAの有病率は0.9-1.7%とされるが、pSpAの有病率自体はよくわかっていない
    • axSpA/pSpA両方の症状がある群・axSpAのみ・pSpAのみ の3群がいるはずだが、まとまった研究は余りない
臨床所見
  • axSpAと比較してpSpAが高齢
  • 客観的な炎症所見(関節炎・dactylitisなど)があるため、診断の遅延は少ない(6-10)
  • 典型的な所見は、下肢大関節非対称性多発関節炎・アキレス腱付着部炎・dactylitis→PsAに似る(14
  • 炎症性背部痛も多い→axSpA
    • 腰痛がなくともMRI仙腸関節炎があることがある=無症候性脊椎炎
      • CRESPA trial(早期pSpA対象の臨床試験)…MRI仙腸関節炎が35%みられたが、腰痛を報告したのは11.6%のみ
遺伝子
  • pSpAにおけるHLA-B27陽性率は27-47%とされるが、民族間の差は大きいと思われる(6-10)
診断
分類基準
  • 2009年のASAS基準が最も用いられる分類基準
      • axSpA…感度82.9%、特異度84.4%
      • pSpA…感度77.8%、特異度82.9%
  • あくまでも「分類基準」であり、「診断基準」ではないことに注意‼︎
治療
  • NSAIDs等での対症療法→csDMARDs→bDMARDsという順番
  • ただ、非乾癬のpSpAに対しての大規模RCTは存在しないので、「経験的な治療」が多い…→主にPsAのpSpAに対する治療を参考にすることが多い
  • 参考:過去記事↓
  •  

    ctd-gim.hatenablog.com

     

  1. NSAIDs
    • 特に研究自体はないが、NSAIDsが第一選択の薬剤
    • 低容量のステロイド全身投与/関節ない注射はおそらく有効
      • コホート研究で、関節注射の有効性証明あり( Rheumatology (Oxford). 2010 Jul;49(7):1367-73.
  2. csDMARDs
    • 関節炎症状に関しての有用性は一応示されているが、付着部炎・dactylitisに関しては有用性は示されていないAnn Rheum Dis 2016;75:499510, J Rheumatol. 2014;41(11):2295‐2300.
      • ※後述するように実臨床での有用性は微妙かもしれない…
    • 使用されるのはMTX(メトトレキサート)、LEF(レフルノミド)、SASP(サラゾスルファピリジン)が多い
    • 第一選択はMTXで、使用困難な場合はLEF
    • SASPは有効性低く、第三選択
      1. MTX
        • 非常によく使用されるが、有効性が低いという解析もある
          • RCTでは有効性否定的(Rheumatology (Oxford). 2012;51(8):1368‐1377.
            • MTX15mg/week vs プラセボで滑膜炎改善有意差なし
          • ※up to dateの意見としては「MTX15mg/weekは少なすぎる」ため、注意が必要(EULAR recommendationではMTX15−25mg/week推奨)とのことだが、日本では16mg/weekまでしか適応通っていない…(体格差はあるだろうが)
      2. LEF
        • 20mg/dayが標準投与量
        • ※日本では間質性肺炎重症例が相次いだため、余り日本人対象に使用されることはない
      3. SASP
        • 2−3g/day(日本では潰瘍性大腸炎・JIA以外では1g/dayまでしか適応なし)
          • 高容量では薬疹も多く注意!
        • 有用性は証明されているが、軽度ではある(Arthritis Rheum. 1995;38(5):618.)
  3. bDMARDs
    • csDMARDsとは対照的に有用性は証明されており、効果も高い
    • TNF阻害薬が代表例
    • 代表的な薬剤及び試験は以下の通り(※いずれも単剤比較)
      • Golimumab(シンポニー®︎)…CRESPA trial(Arthritis Rheumatol (Hoboken, NJ)2018;70:176977.
        • 50mg/4week→12万円/月(3割負担で3万6000円)
        • 中止後18ヶ月で47%しか再発していない→比較的寛解率が高かった?
      • Adalimumab(ヒュミラ®︎)…ABILITY-2 trial (Arthritis Rheumatol (Hoboken, NJ) 2015;67:91423
        • 40mg/2week→12万5000円/月(3割負担で3万8000円)
      • Etanercept(エタネルセプトBS等)…HEEL trial(Ann Rheum Dis 2010;69:14305.)
        • 50mg/week→10万円/月(3割負担で3万円/月)
    • IL-17阻害薬(secukinumab: コセンティクス®︎)、IL-12/23阻害薬(usutekinumab: ウステキヌマブ®︎)に関しては、PsAに関しての治験は進んでいるが非乾癬性pSpAに関して研究は進んでいない
      • PsAに関してのsecukinumab vs TNF阻害薬の試験はいくつかあり、一部の点でsecukinumab優位という結果が多い
        • ECLIPSA study(Semin Arthritis Rheum 2019;48:6327)…secukinumab vs TNF阻害薬(詳細なし
          • secukinumabの方が付着部炎・皮疹改善良かったが、関節炎は有意差なし
        • EXCEED trial(Lancet. 2020;395(10235):1496‐1505.)…secukinumab vs adalimumab
          • secukinumabの方が継続率・皮疹改善良かったが、関節炎・付着部炎は有意差なし
    • JAK阻害薬、PDE4阻害薬(apremilast: オテズラ®︎)も有望とされる
    • まとめると以下の通り
今後の課題
  • pSpAはわかっていないことが多い
    • 有病率が不明
    • 治療目標
    • エビデンスに基づいた治療 など
 
(感想)
個人的なpSpAのイメージは
関節リウマチのようなプレゼンテーションで現れるが、
  • seronegative
  • エコーをしてみると付着部炎所見がある
  • dactylitisがある
といった特徴を持っており、pSpA疑いとしてIBD・乾癬等の除外を行なっていく、というイメージ。
 なんとなくSpAに当てはめることはできるが、その細分化は難しい。その結果”un-differential SpA”としてpSpAに寄せた治療をすることもままある。
 治療に関してはこのレビューを読むと分かるとおり、NSAIDsがダメならbDMARDsに頼らざるを得なくなり、そのつなぎとしてのcsDMARDsが効果乏しい・かつ日本保険適応的に治療不十分になりやすい、というのが問題点。
 

高安動脈炎の臨床所見

Quinn KA, Patterns of clinical presentation in Takayasu's arteritis [published online ahead of print, 2020 May 19].
 Semin Arthritis Rheum. 2020;50(4):576‐581. doi:10.1016/j.semarthrit.2020.04.012
先に結論…高安動脈炎の診断は難しく、様々な臨床症状を起こす。虚血イベントが起こった患者であっても、先行する症状が必ずしもあるというわけではない「症状が虚血だけ」という高安動脈炎もいる)。
 

薬剤誘発性関節痛レビュー

An update on drug-induced arthritis.Rheumatol Int. 2016;36(8):1089‐1097. doi:10.1007/s00296-016-3462-y
薬剤性関節痛のレビュー。
先に結論を言っておくと、「関節痛と薬剤の因果関係は正直微妙なことが多いが、頭に入れておくといいことがあるかも知れない」

ヒドロキシクロロキン網膜症のリスク因子

HCQ網膜症のリスク因子
Lenfant T, Salah S, Leroux G, et al. Risk factors for hydroxychloroquine retinopathy in systemic lupus erythematosus: a case-control study with hydroxychloroquine blood-level analysis [published online ahead of print, 2020 May 23].
Rheumatology (Oxford). 2020;keaa157. doi:10.1093/rheumatology/keaa157
 

関節リウマチ患者の肺炎予後

 Prognosis of pneumonia in patients with rheumatoid arthritis: the role of medication and disease activity prior to admission a population-based cohort study.

RMD Open. 2020;6(1):e001102. doi:10.1136/rmdopen-2019-001102
 
RA患者は一般人口よりも感染症リスクが高いことはよく知られているが、予後はどうだろうか?
⇨正直あまり変わりない