膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

薬剤誘発性関節痛レビュー

An update on drug-induced arthritis.Rheumatol Int. 2016;36(8):1089‐1097. doi:10.1007/s00296-016-3462-y
薬剤性関節痛のレビュー。
先に結論を言っておくと、「関節痛と薬剤の因果関係は正直微妙なことが多いが、頭に入れておくといいことがあるかも知れない」
 

 

関節痛・関節炎をきたしうる薬剤一覧
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抗生剤
  • ミノサイクリン
    • 薬物性ループスで有名ではあるが、孤発性関節炎の症例もある。ただ、大規模なRCTでの報告もないので正直頻度としては低頻度と思われる
    • 有名なのはアキレス腱断裂
    • ただ、関節炎の報告も数例あり
      • 抗生剤開始から3週間前後で発症し、中止後2週間以内で軽快することが多い
      • キノロン使用していた患者をレトロスペクティブにレビュー→25%に関節痛or筋痛あり(Am J Rhinol 2005. 19(4):395–39)
        • 患者の年齢、レボフロキサシンの治療期間、ステロイドの同時使用、または関節炎の既往歴に影響されなかった
        • 小児では軟骨損傷リスクから禁忌扱いになっているが、頻度はそれほど高くない?(Pediatrics 2014. 134(1):e146–e153)
  • リファンピシン/リファブチン
    • 投与量が多くなると、発症することがある(J Rheumatol 1999. 26(5):1201–1202)
  • キヌプリスチン・ダルホプリスチン
  • ボリコナゾール(抗真菌薬)
    • 関節腫脹・骨痛の発症報告あり(Clin Infect Dis 2011. 52(5):604–611)
    • 特徴は以下の通り
      • 服薬開始から6ヶ月ー2年後に発症
      • 中止すると数日で改善
      • ALP上昇と相関あり、休薬するとALP正常化する
    • 他の抗真菌薬(イトラコナゾールなど)では報告なし
    • 血中フッ化物濃度との相関がある模様で、血中フッ化物濃度高値の場合は中止が推奨されている
糖尿病薬
レチノイド薬
  • イソトレチノイン
    • 難治性のacne(ニキビ)で用いられることあり
    • 189人のイソトレチノイン内服患者の観察研究では1ヶ月以内に関節痛16.5%、筋肉痛14%とかなり高率に発症
      • SpA(脊椎関節炎)様の症状患者が多く、アキレス腱炎・仙腸関節炎の報告あり
    • 薬物中止後数週間で改善することが多く、NSAIDs投与も選択肢
化学療法薬
  • アロマターゼ阻害薬
    • 乳癌のホルモン療法に使用される
    • 手根管症候群発症率が高い
    • 臨床試験ではアナストラゾール使用患者の2.6%、タモキシフェン使用患者の0.7%に手根管症候群を発症した。(J Clin Oncol 2009. 27(30):4961–4965)
    • 中止後症状は改善することが多い
  • タキサン系(パクリタキセルなど)
    • 投与後に重度の関節痛・筋痛が起こることが多いため、予防的ガバペンジン投与が行われることが多い
    • アロマターゼ阻害薬と併用すると、関節炎リスクが高くなる
ワクチン
  • 風疹ワクチン
    • 接種後の関節痛症状報告はあるが、二重盲検コホート研究では関節痛との有意な相関なし(Vaccine 1995. 13(16):1529–1532)
  • B型肝炎ワクチン
    • 少数に報告あり
  • BCG(※皮内注射での報告は記載なし)
    • 静注療法・局所投与による反応性関節炎(Reiter症候群)の報告あり。ただ、数は非常に少数
  • ※あまりにサンプルサイズが小さく、報告も少数なので正直意味ない様な気もする
サイトカイン
    • 腎細胞癌・一部の白血病の使用に用いられる
    • 症例報告レベルではあるが、治療後に炎症性関節炎・関節リウマチ症症状を呈した報告あり
      • ANA・RF陽性患者が頻度的に多く、インターフェロン中止後89%は症状改善あり(Semin Arthritis Rheum 1998. 27(6):360–365)
  • G-CSF
    • 胸骨・骨盤・脊椎などへの骨痛を起こすことがある
      • 40人中、82%に発症したという報告あり(Transfusion 1996. 36(7):590–595)
      • 治療中止後、1週間以内には焼失した(N Engl J Med 1991. 325(3):164–170)
  • セロトニン受容体2A拮抗薬…ミアンセリン、ミルタザピンなど
    • 少数報告あり、中止での軽快多い
 
(感想)
 薬剤性の症状は、疑わないとわからないため記憶しておくべき。ただ、このレビューを読んでいると、本当の薬剤関節炎は少ないのでは?と思った。
 薬剤を中止してみて良くなれば「薬剤性」と判断しているだけの例も多々あり、額面通りに考えるべきではないように思える。この中で比較的有名な例はDPP-4阻害薬で、RS3PE等の自己免疫性疾患を発症するという報告も多いが、大規模研究的には有意差なくどこまで薬剤性を考えるべきかは難しい。
 疑わしい薬があったら、中止可能なら中止して症状フォローする、という方針をまず取る→改善すれば「薬剤性かも」と思うくらいでちょうどいいような気がする。