膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

SLEと補体/補体欠損症

Curr Rheumatol Rep. 2021; 23(3):16.
Front Immunol. 2016; 7: 55.
 
補体が全身性エリテマトーデス(SLE)の病態に深く関わっていることはよく知られているが、
・低補体血症のないSLEもある
・補体値とSLE活動性が一致しない場合がある
・補体欠損症がSLE患者には多い ということはあまり知られていない。
このため、「補体が正常値になっていないため、SLE再燃リスク高くステロイド据え置きは仕方ない」という誤解がよく起こっている印象である。
抗DNA抗体等と同様、絶対的な指標ではない事を再確認した内容。
 

【補体の基本】

補体経路は3経路ある
  1. 古典的経路…抗原+抗体の結合
  2. 第2経路(副経路)…抗体を介さず一部の細菌が直接C3に結合
  3. レクチン経路…肝臓で作られるMBL(マンノース結合レクチン)が細菌に結合

(Curr Rheumatol Rep. 2021; 23(3):16.)
SLEでは特に免疫複合体に関与する古典的経路が重要である。
 

【SLEと補体】

  • SLEは自己抗体発生による抗原抗体反応→補体活性化→組織障害・炎症が病態であると考えられている
  • このため血漿補体(C3, C4, CH50)低値が起こり、診断・活動性評価に有用とされる
 

◎SLEの診断における補体

  • 低補体血症はSLE診断に役立つ
  • ACR1997年基準では低補体血症の項目はなかったが、最新のACR/EULAR2019年基準などでは採用されている
      • ※あくまでも分類基準なので注意 (Arthritis Rheumatol. 2019;71(9):1400-1412.)
  • ただ低補体血症のないSLEも多く、絶対的なものではない
    • 早期SLE200人のうち54%でベースラインでC3 or C4低値が見られ、さらに初期の軽症例では低頻度となる(Lupus. 2010;19:949–956.)

 

◎SLEの疾患活動性・モニタリングにおける補体

  • 疾患活動性とは無関係に低補体血症が遷延することが多く、再燃予測感度が低いSLEの疾患活動性マーカーとしてはあまり有用ではない(Arthritis Rheum. 1996;39:370–378.など)
  • ループス腎炎のフレアとC3・C4低値は関連は低いとされている
    • ループス腎炎フレア70例のうち、3分の1はC3 or C4低値なし
    • ループス腎炎フレアに対する感度…C3低値70%、C4低値49%
      • (Ann Rheum Dis. 2009;68:234–237.)
  • ただしC3・C4が低下している場合、SLEの再燃する傾向があるのも事実→臨床評価と総合して判断する必要がある
 

【SLEと補体欠損症】

  • 補体はSLEにおける炎症増強に重要な役割を持つが、補体欠損症はSLEの発症に強く関連しているパラドックス
    • 原因についてははっきりしていない
  • SLE患者は補体欠損症合併が多い
    • SLE患者の1%はホモ接合性補体欠損症合併あり(Ann N Y Acad Sci. 1997;815:267-281.)
    • ヘテロ接合性補体欠損症合併も入れるともっと多いとされる(Lupus. 2011;20(12):1275-1284.)
    • 参考:補体欠損症自体の有病率としてはC2、C1q、C4の順に多いとされる。特にヘテロ接合のC2欠損は白人集団の2%程度と非常に多い。(Clin Rev Allergy Immunol. 2000;19(2):83-108.)
  • 古典経路の初期段階の補体欠損はSLEの発症と強く関連しており、C1q欠損症では93%・C4欠損症では75%がSLEを発症する(Front Immunol. 2016; 7: 55.)
  • 補体欠損症合併SLEは抗核抗体陰性例が多い…抗核抗体陽性は75%程度
  • 補体欠損症合併SLEは重症リスクが高く、予後不良とされる(Immunobiology. 1998;199(2):265-285.)
    • 感染症が重症化しやすい…特に肺炎球菌などに注意
    • SLE症状に関しては不明。C4欠損症の場合、C4が常に定値となるので当てにならなくなる。
 

表:補体欠損症とSLE合併(Front Immunol. 2016; 7: 55.)

*抗C1q自己抗体によって古典経路は強力に活性化し、C1q, C4, C2は著明低下する(Lupus. 1996;5(3):216-220.)