膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

Gitelman症候群と偽痛風(CPPD)

若年偽痛風の原因としてGitelman症候群があるが、まとまったレビューがなかったのでまとめてみた。

①Gitelman症候群基礎知識

  • Gitelman症候群は常染色体劣性遺伝のまれな腎疾患である
    • 有病率は約40,000人に1人程度(Orphanet J Rare Dis. 2008;3:22.)
  • 腎臓の遠位尿細管のNa-Cl共輸送体(NCCT)障害が病態
  • 症状+SLC12A3遺伝子変異の確認が確定診断に必要
  • 症候
    • 慢性・重度の倦怠感
    • 感覚障害
    • けいれん
    • 筋力低下・テタニー
    • 不整脈(QT延長)などが知られる
 

②Gitelman症候群と偽痛風(CPPD)

  • Gitelman症候群では低Mg血症によって軟骨石灰化症・ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(CPPD、偽痛風)のリスクが上がる→若年の偽痛風のリスクとなる
    • CPPD合併Gitelman症候群の平均年齢は51歳( Best Pract Res Clin Rheumatol. 2011;25(5):637-648.)
    • 2つの臨床型に分けられる(Curr Opin Rheumatol. 2000;12(3):228-234.)
      1. 早期発症型(50歳未満)…多関節炎、CPPD発作の再発が特徴。慢性変形性関節症への進行はまれ。
      2. 遅発型(50歳以上)…乏関節炎、破壊性変化が多い。慢性関節炎を起こし、慢性変形性関節症への進行が多い。
    • また高尿酸血症も起こるので、偽痛風だけでなく痛風発症率も高い(J Rheumatol. 2016;43(11):2085-2087. )
  • Gitelman症候群患者におけるCPPD発症リスク…加齢、低Mg血症(Rheumatology (Oxford). 2021;keab578.)
  • 低Mg血症によってCPPD結晶沈着が起こるメカニズム( Best Pract Res Clin Rheumatol. 2011;25(5):637-648.)
    • f:id:CTD_GIM:20210926135712p:image

      1. Mgは、無機ピロリン酸(PPis)をオルトリン酸(Pi)に変換する酵素"アルカリピロホスファターゼ"の補酵素である
      2. 低Mg血症によってアルカリピロホスファターゼの活性が低下
      3. PPiの細胞外濃度が上昇
      4. PPiとCa2+が結合してピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶が形成される
      5. 低Mg血症がCPPD結晶の組織沈着を促進する
  • 60歳以下の偽痛風では二次性偽痛風スクリーニングとしてFe/トランスフェリン/フェリチン、Ca、ALP、PTH、Mgの採血が推奨される(N Engl J Med 2016; 374:2575-2584)
  • 画像検査:通常のCPPDと同様
    • Xp:関節裂隙の石灰化が特徴。膝・恥骨結合・手関節の沈着が多い
      • その他、肩、足関節、肘、アキレス腱等どこでも見られうる
      • f:id:CTD_GIM:20210926135717p:imagef:id:CTD_GIM:20210926135726p:image

    • 超音波:硝子軟骨内の高エコー帯(線維軟骨内の高輝度点状エコー)が特徴的
      • X線より感度が高いとされるが、非特異的な場合もある
      • f:id:CTD_GIM:20210926135742p:image

        • 膝関節の点状エコー(Reumatismo. 2016;68(1):53-55.)

③CPPD合併Gitelman症候群への治療

CPPDへの治療…Mg補充+通常のCPPD治療が基本
◎Mg補充
  • 血中Mg濃度を正常化することでCPPD発作・症状を低下させることができる
  • 経口投与での補正が不十分な場合、繰り返しでの静脈投与が有用
    • 1日投与量…3mmol Mg/m^2/24時間または4~5mg/kg/24時間 を3-4分割投与
    • 急性テタニー…20%MgCl2を静脈投与(0.1mmol Mg/kg/回)→6時間おきに繰り返す
      • ※日本では硫酸Mgでの補正が現実的
  • 高用量Mg摂取は下痢等の副作用が問題となり、酸化マグネシウムはバイオアベイラビリティが非常に低いため、酸化マグネシウムでの低Mg血症補正は有用ではない
    • 理想的には塩化マグネシウム(にがり)での補正が望ましい(腎喪失したMg・Clを同時に補充できる)
  • 症例報告レベルではSGLT2阻害薬投与→尿中マグネシウム排泄低下→低マグネシウム血症改善という報告もあるにはある(Kidney Med. 2020;2(3):359-364.)
◎その他CPPD治療
  • 経口NSAIDs・コルヒチンでの治療が一般的
  • 一般的CPPD慢性期治療フローチャート(N Engl J Med 2016;374:2575-84.)
  • f:id:CTD_GIM:20210926135736p:image

    1. 関節ステロイド注射
    2. コルヒチン
    3. NSAIDs・PPI
    4. ヒドロキシクロロキン
    5. メトトレキサー
    6. その他…IL-1β阻害薬など
  • コルヒチン・NSAIDs・Mg投与の併用が有用だが、コルヒチン・Mg両方投与する際は下痢が多くなるのに注意が必要