膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

過剰運動症候群/ハイパーモービリティー症候群:Joint Hypermobility Syndrome

Joint Hypermobility Syndrome: Recognizing a Commonly Overlooked Cause of Chronic Pain. 
Am J Med. 2017 Jun;130(6):640-647.
 
最近勉強会に参加していると、「非炎症性関節痛の原因として結構関節の過伸展による疼痛が見逃されている」という話があり、ハイパーモービリティー症候群:関節過可動症候群/過剰運動症候群と定義される。
 
色々調べてみたが、あまり体系的なものはなかった。
比較的新しく充実していたReviewをまとめ

①疾患概要

  • 関節の過伸展による慢性筋骨格筋痛を特徴とする結合組織疾患
  • Ehlers-Danlos症候群(EDS)の一亜型とみなされることもある
  • 一般人口の〜3%に見られ、かなり見逃されている
    • ※イギリスからの調査結果…Arthritis Care Res (Hoboken), 65 (8) (2013), pp. 1325-1333
    • 若年層・アジア人・西アフリカ人ではさらに多いとされる
  • 関節可動域の広い人のうちの一部に、様々な程度の筋骨格系疼痛・倦怠感を発症する
 

②病態生理

  • よくわかっていないが、遺伝因子・環境因子が関与していると思われる
  • 遺伝因子
    • 浸透度の変動する弱い常染色体優性遺伝パターンが示されることもある
  • 環境因子
    • 関節への局所的な微小外傷→過負荷+軟部組織損傷
    • 痛覚過敏も関与
 

③臨床評価

  • 病歴と身体所見によって以下の3つを行う
    1. 関節の過可動性をスクリーニングする
    2. 症状の程度を確認
    3. 他の疾患(全身の関節可動性低下を起こす結合組織疾患)の除外
  • 関節の過可動自体はよくある→関節過可動のある患者全てがハイパーモービリティー症候群になるわけではない
  • 関節過可動があると体操等に有利→スポーツ選手で発症する場合もある
 
「関節過可動」を起こす先天性疾患鑑別リスト
 
疾患
関連症状
Ehlers-Danlos症候群(EDS)古典型
(typeⅠ,Ⅱ)
皮膚の過伸展性
あざ
ビロード様の皮膚
EDSハイパーモービリティー
(typeⅢ)
ハイパーモービリティー症候群と臨床的に鑑別困難
EDS血管型(typeⅣ)
薄い半透明の皮膚
広範囲のあざ
EDS脊柱後側弯症型(typeⅥA)
脊椎側弯症
重度の筋緊張低下
強膜の脆弱性
マルファン病様の体型
EDS筋骨格型(typeⅥB)
脊柱側弯症
重度の筋ジストニア
EDS関節炎型(typeⅦA)
両側内反足
顔面形成異常
発達遅滞
皮膚過伸展性
EDS皮膚線条型
皮膚脆弱性
アザができやすい
巨大ヘルニア
FKBP14欠損症によるEDS
重度の筋緊張低下
発達遅滞
脊柱側弯症
感音難聴
TNXB欠損症によるEDS
筋力低下
ビロード様の皮膚
皮膚の過伸展性
Marfan症候群
筋肉形成不全
上行大動脈拡張
クモ状指
脊柱側弯症
漏斗胸
高口蓋
Loeys-Dietz症候群
筋性低身長症
過剰性斜頸
口蓋裂/二裂口蓋垂
動脈の蛇行
発達遅滞
脊椎側弯症
骨形成不全症(非変形型)
青色強膜
繰り返す骨折
※ほぼ小児期から現れる
 
③-1 問診
  • “Five-Item Questionnaire”を行う
    1. 自分自身を二重関節(前後左右に自由に動く)だと思いますか?
    2. 膝を曲げずに手を床に平らに置くことができますか?(またはできましたか?)
    3. 親指を曲げて前腕に触れることができますか?(またはできましたか?)
    4. 子供の頃自分の体を捻じ曲げて友達を楽しませたことがありますか?
    5. 子供/ティーンネイジャーのときに肩/膝蓋骨が複数回脱臼しましたか?
  • 以上の2問がYes→ハイパーモービリティー症候群診断に感度84%・特異度85%(Arthritis Rheum. 2004;50(8):2640-2644.)
  • 加齢に伴って関節可動域の低下した高齢者にも適応可能かもしれない
③-2 身体所見
Beightonスコアを取る→Beighton基準に当てはめて診断(J Rheumatol. 2000;27(7):1777-1779.)
 
Beightonスコア(最大9点)
動作
点数
親指を曲げて前腕に触れる

f:id:CTD_GIM:20210328111626p:image

左右1点ずつ
(最大2点)
MCP関節を90度曲げられる

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左右1点ずつ
(最大2点)
肘を10度以上進展できる
(壁に手をついてもらい、受動的に実施)

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左右1点ずつ
(最大2点)
膝を10度以上進展できる

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左右1点ずつ
(最大2点)
膝を曲げずに前屈して手を床に平らに置く

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1点
(画像はBest Pract Res Clin Rheumatol. 2020;34(3):101508.より)
 
③-3 診断基準
改訂Beighton基準基準が有名(J Rheumatol. 2000;27(7):1777-1779.)
改訂Beighton基準
主要基準
1
Beightonスコア≧4点
2
多発関節痛
(3ヶ月以上4関節以上)
副基準
1
Beightonスコア1-3点
2
多発関節痛
  • 3ヶ月以上、1-3関節
  • 3ヶ月以上の背部痛
  • 脊柱管狭窄症・脊椎分離症・脊椎すべり症
3
脱臼・亜脱臼
…複数関節or複数回
4
3ヶ所以上の軟部組織病変
例)外側上顆炎、腱鞘炎、滑液包炎
5
マルファン体型
…高身長低体重、くも状指など
6
皮膚の異常
…皮膚線条、皮膚過伸展、皮膚菲薄化、異常瘢痕
7
眼球症状
…眼瞼下垂、近視、複視
8
静脈瘤、ヘルニア、子宮脱、膀胱脱
…特に若年
9
僧帽弁逸脱症候群
他の疾患の除外(特にMarfan・EDS)を行った上で下記の①〜④のどれかを満たした場合、ハイパーモービリティー症候群と診断
①主要基準2つを満たす
②主要基準1つと副基準2つを満たす
③副基準4つを満たす
④副基準2つを満たし、第一度近親者(親子・兄弟姉妹)がハイパーモービリティー症候群と診断されている
 
③-4 症状
  1. 関節痛
    • 全身性の対称性他関節痛の場合があり、炎症性関節炎との鑑別が重要
    • 罹患関節は膝・足関節などの荷重関節が多い
    • 労作による悪化が特徴的→朝のこわばりは短く(30分以内)、午後に症状悪化することが多い
  2. 倦怠感
    • びまん性の疼痛を背景として、倦怠感が最大84%に起こる
    • 筋力低下が主要な原因と思われる
    • また、睡眠障害・自律神経失調等と関連している可能性がある
  3. 自律神経失調
    • 約75%に発症
    • 症状として、起立性低血圧・胃腸障害等が挙げられる
    • 体位性頻脈症候群を起こす
  4. 頭痛
    • 女性患者で多い
    • 局所的な筋痛を始めとした様々な要因が合わさって起こっている?
  5. 原因不明の腹痛・骨盤痛
    • 自律神経失調と胃腸管を構成する結合組織の弛緩が関係している?
  6. 心身症的な特徴
  7. 肥満細胞活性化症候群(MCAS)
    • じんましん、そう痒、顔面紅潮、化学物質・環境過敏症、薬物・食物過敏症、疲労感、集中力低下、移動性疼痛、過剰な炎症反応、集中力低下、不安感などを起こす(Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2017;175(1):158-167.)
 

④管理

  • 生活指導が最も重要
    • 「過度の関節の動きが症状を悪化させ、関節・半月板・軟骨の損傷につながる可能性がある」ということを説明する
    • 疼痛部位を休ませて、過度のストレッチを禁止する
    • サポーター・装具が役に立つ場合あり
      • 例)踵の外反に対しての装具
        • f:id:CTD_GIM:20210328111639j:image

          • (Best Pract Res Clin Rheumatol. 2020;34(3):101508.)
    • 理学療法→関節周囲の筋肉強化プログラムが有効
  • 薬物治療についてはよくわかっていないが、オピオイドに関しては副作用のリスクのほうが大きいため推奨されない
    • NSAIDsが有用なこともある
 

⑤対応フローチャート

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⑦まとめ

  • ハイパーモービリティー症候群は慢性痛の原因として比較的多いが、かなり見落とされがちな疾患である
  • ただ、診断できればより適切な管理・治療が可能となる
  • 患者教育・生活習慣改善によってさらなる障害を防ぐことができる
  • 医療従事者は「慢性的な筋骨格系疼痛を訴える患者がハイパーモービリティーかもしれない」「頭痛・腹痛・疲労・不安等の無関係そうな症状とハイパーモービリティーが関連しているかもしれない」ということを認識する必要がある
 

⑧感想

  • 勉強会で「付着部炎の鑑別」としてよく出るが、案外まとまっているレビューはなく自分なりにまとめてみた
  • 有病率も高いので、非炎症性の疼痛がある人にはとりあえずBeighton Scoreを取るという流れにしてもいいのかな、と思った
  • 患者教育に関しては安静+理学療法である程度は改善するので、「知ってると得する病気」といったところでとどめておけば十分なような気はするが、他の非特異的症状につながっていくあたりは注意したほうが良さそう