膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

RA-ILDレビュー(A&R)

Arthritis Rheumatol. 2023;75(12):2067-2077. 
 
関節リウマチ(RA)に合併する間質性肺疾患はRA-ILDと総称され、高頻度かつ死亡の重大リスクとして知られている。
画像パターンとしては通常型間質性肺炎(UIP)・非特異的間質性肺炎(NSIP)が多く、症例ごとに臨床経過は様々。あくまでもエキスパートオピニオンで日本の実情に合わない部分もあるが、基礎事項のおさらいとしてまとめ。
・日本ではRAに対してRituximabが保険適応外
・日本では呼吸機能検査のハードルが高く、CTのハードルが低い
 

◎疫学・有病率

  • RA-ILDの有病率…CT異常所見という点では10-61%とされるが、呼吸機能検査(PFT)異常患者は10-18%
  • 発症リスク…高齢、男性、喫煙歴、活動性滑膜炎、RF/ACPA陽性、MUC5B多型など
 

◎診断

  • 診断ゴールドスタンダードはHRCT(呼吸機能検査異常では見落とす可能性が高い)
  • 画像パターンとしては、UIP>NSIP
  • スクリーニング方法のゴールドスタンダードはないが、無症候性での進行・診断遅延による死亡率上昇がある
  • RA患者全員に対して肺症状(乾性咳嗽・息切れ、無症状が多いので注意)+肺聴診→少しでも異常の時には画像診断を実施する
 

◎経過・予後

  • 経過は様々…全く病勢進行しないものから、進行性肺線維症(PPF)を発症するものまで様々→肺線維化進行例は予後不良


  • 呼吸機能検査異常例が予後不良
    • FVC・DLCO低値、6ヶ月後の低下はRA-ILD重症度と相関する
    • 予測DLCO<54%の場合予後不良
  • その他重症化リスク…高齢、男性、DAS28スコア高値、HRCTでのUIPパターン、ILD高度、RF/ACPA血中濃度高値
 

◎モニタリング

  • 定期的な肺症状フォロー(FVC・DLCO)+3−6ヶ月おきの呼吸機能検査+年1のHRCT(症状悪化などあればもっと頻回)
    • ただし、肺病変が中等症〜重症患者では呼吸機能検査そのものが難しい
    • HRCTでは微妙な悪化はわかりにくいので注意が必要
 

◎管理

以下が提唱されている
  初期管理 追加管理 モニタリング 全員に考慮
無症候性
1.禁煙
2.RAコントロール
経過観察 半年おきのPFT 1.リスクを最小化する
2.症状 or HRCT悪化時、感染症(免疫抑制によるPjPなど)or 薬剤有害事象を考慮
3. 重症or進行性の場合、可能なら代替DMARD or 生物学的製剤を使用
4.逆流性食道炎睡眠時無呼吸症候群といった併存症の検索・治療
5.DLCOが(他所見と比して) 不釣り合いな低下があった場合、肺高血圧症を考慮する
6.インフルエンザ・肺炎球菌含めた最新のワクチンを接種する
7.地域の緩和ケアを考慮
軽度
(HRCT線維化<10%)
1.歩行時酸素飽和度
2.禁煙
3.RAコントロール
4.経過観察
進行性の場合
1.NSIP:DMARDs, ステロイド
2. UIP:抗線維化薬, RAへの治療薬考慮
1.臨床評価
2.薬剤レビュー
3.RA活動性確認
4.半年おきのPFT
5.臨床評価orPFT悪化時のHRCT
中等度
(HRCT線維化10-25%)
1.歩行時・夜間酸素飽和度
2.RAコントロール
3.DMARDsレビュー
4.その他治療
a) NSIP:ステロイド, MMF, Abatacept, Rituximab考慮
b) UIP:抗線維化薬, RAへの治療薬考慮
1.進行性の場合、他DMARD or 生物学的製剤使用
2.肺移植評価目的の紹介
1.臨床評価
2.HRCT
3.最低1-2年間、3-6ヶ月おきのPFT…ILDの重症度・進行性に応じてモニタリング
重症
(HRCT線維化>25%)
1.歩行時・夜間酸素飽和度
2.治療
a) NSIP:ステロイド, MMF, Abatacept, Rituximab考慮
b) UIP;抗線維化薬
3.日和見感染症のチェック・治療
肺移植評価目的の紹介 最低1-2年間、3-6ヶ月おきのPFT…ILDの重症度・進行性に応じてモニタリング
 
問題点
  1. RA-ILD治療開始タイミングは不明
  2. 治療法は不明(特に生物学的製剤)
 
DMARDsについて
  1. MTX…肺保護的な可能性が最近は指摘されている
    • FVC低下・ILD発症が少なくなる?(80,83)
    • →2021年ACRのRAガイドラインでは軽度かつ安定した気道/肺病変があり、中等度〜重症の炎症性関節炎にはMTX>他csDMARDsとされている(85)
  1. ステロイド…単独でのRA-ILD進行抑制効果を支持するエビデンスなし
  2. Rituximab, Abatacept…TNF阻害薬よりも選択性が高く、ILDを改善〜安定化させる可能性が示唆されている(90)
  3. JAK阻害薬…RA-ILDの呼吸機能を改善する可能性が示唆されている(94)
  4. 抗線維化薬…NintedanibのRA-ILDのFVC低下減少作用が示唆されている(INBUILD試験サブグループ解析、99)
    • Pirfenidoneによる試験では、年間FVC低下の減少量が80ml程度(97)
    • →抗線維化薬によるILD悪化抑制作用はあるとは思われるが、悪化を軽度抑制するのみである点には注意が必要
  5. Tocilizumab…レトロスペクティブ研究でILD改善が示唆される程度(105)
 
薬物療法…肺リハビリテーション、酸素療法、ワクチン接種など