膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

シェーグレン症候群に伴う腎症状

シェーグレン症候群の腎症状は、間質性腎炎の他尿細管異常による電解質異常など多彩。発覚した頃には不可逆的になっていることも多く、治療は非常に難しい。
 
シェーグレン症候群による腎症状は比較的稀と思われるが、報告によってまちまち(4-33%程度)
  • 無症候性でも尿細管性アシドーシスを合併している場合があり、早朝尿pH>5.5で尿アニオンギャップ陽性患者はかなりの数いる
  • また、発見された頃には慢性化(尿細管萎縮・間質の高度線維化)している場合も多く、早期治療が重要
  • 原発性シェーグレン症候群患者は年に1回程度腎症状スクリーニングすべき?
    • 血液検査…血清クレアチニン、eGFR、血液電解質(HCO3-・リン含めて )
    • 尿検査…早朝尿のpH・浸透圧、蛋白尿(TP/Cre)
  • ◎上記の異常があった場合、高ガンマグロブリン血症・クリオグロブリン血症の合併がある場合、6ヶ月おきに以下を実施
     
    • 血液…クレアチニン電解質(K,Cl,Pなど)、重炭酸、尿酸 
    • 尿…24時間尿量、早朝尿での尿定性沈渣、蛋白尿、尿Cre・電解質(Caなど)、尿培養
    • 腎超音波検査
    • 腎生検の検討
  間質性腎炎 酸塩基・電解質異常
糸球体腎炎
病態 急性尿細管間質性腎炎
慢性尿細管間質性腎炎
遠位尿細管性アシドーシス(→高カルシウム尿症・低クエン酸尿症)
尿崩症
Fanconi症候群
Bartter症候群
Gitelman症候群
クリオグロブリン血症に伴う膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)
二次性糸球体腎炎
腎機能 進行性CKDを起こす 正常例が多い 低下する場合あり
鑑別診断 感染症腎盂腎炎、結核レプトスピラ症、ハンタウイルス)
・薬剤(NSAIDs、β-ラクタム系抗生物質
アロプリノール)
サルコイドーシス
IgG4関連疾患
・TINU症候群
・特発性
・血液疾患
など
・遺伝性全身性疾患
・後天性代謝性疾患(副甲状腺機能亢進症甲状腺機能亢進症)
・自己免疫疾患(SLE、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎・甲状腺炎)
・閉塞性腎疾患
・薬剤(NSAIDs腎症、リチウム、アムホテリシンB、シクロスポリン)など
・SLE
HBV,HCV,HIV
・細菌感染
・単クローン性ガンマグロブリン血症、リンパ腫
検査 腎機能障害
尿検査正常の場合あり
腎生検
電解質異常(低カリウム血症など)
血液ガス検査
尿AG異常
腎機能障害
尿所見異常
クリオグロブリン
腎生検
治療 高用量ステロイドMMF・AZP・RTX併用など 電解質補正 原病治療に準じる

◎病態

環境因子、遺伝因子、ウイルス感染→唾液腺からの自己抗原の放出→Type1,2インターフェロン放出→T細胞活性化、B細胞活性化・自己抗体合成という機序が提唱されている。
その結果以下の3つを起こす
 
  1. T・B細胞・形質細胞(+まれに自己抗体)の尿細管間質浸潤→炎症・尿細管萎縮及び間質線維化
    • 間質性腎炎の場合、B細胞・形質細胞浸潤が特徴的→B細胞標的薬(Rituximab:RTX、プロテアソーム阻害薬)が有用かもしれない
  2. 自己抗体による尿細管障害
  3. クリオグロブリン血症によるメサンギウム増生・細胞外マトリックスプロテイン合成→MPGN

◎腎症種類

  1. 尿細管間質性腎炎…最多。多くは遠位尿細管性アシドーシスⅠ型(RTAⅠ)、低カリウム血症を合併する。
    • 進行性CKDを併発することが多い
    • SS-A/B抗体陽性例が多く、腎予後不良と関連している(Rheumatology (Oxford). 2017;56(3):362-370.)
    • 受診時には慢性間質性腎炎担っている場合が多い(Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4(9):1423-1431.)
    • サルコイドーシスの合併例も報告あり、鑑別に注意(Arerugi. 1992;41(10):1500-1506.)
    • 形質細胞浸潤が多いため、IgG4関連疾患との鑑別に注意が必要
  2. 酸塩基・電解質異常…eGFRは正常
    1. 尿細管性アシドーシス
      • 遠位尿細管型尿細管性アシドーシス(dRTA, RTAⅠ型)が最多。約25%で発生する
        • 症状…低カリウム血症(→筋症状・周期性四肢麻痺不整脈)、高カルシウム尿症・尿管結石
        • Complete dRTA…早朝尿pH<5.5の代謝性アシドーシス、尿アニオンギャップ陽性
        • Incomplete dRTA…血液重炭酸は正常だが、塩化アンモニウム負荷試験で尿pH<5.3にならない
        • 鑑別…糖尿病、副腎機能低下、薬剤(NSAIDs、シクロスポリン、ACEi/ARBスピロノラクトン、ヘパリン、トリメトプリム、など)、閉塞性腎症、鎌状赤血球症
      • 近位尿細管性アシドーシス…Fanconi症候群様症状、稀
        • アニオンギャップ正常、血清リン酸低値、血清尿酸低値のアシドーシス、尿量異常
        • 鑑別…骨髄腫・単クローン性ガンマグロブリン血症、薬剤(テノホビル、イホスファミド、シスプラチン、アセタゾラミド)、毒物への暴露(鉛、カドミウム、水銀)、サルコイドーシス、先天性代謝性疾患(ウィルソン病、シスチン症など)、炭酸脱水酵素欠乏症
      • 後天性Gitelman症候群…尿中カリウム高値、低カリウム血症、二次性アルドステロン症、低マグネシウム血症
    2. 尿濃度異常→ 腎性尿崩症
      • 集合管の損傷で発生する
      • 水制限試験で確定診断
    3. RTAを伴わない低カリウム血症…尿ナトリウム損失に伴う低カリウム血症もありうる
  3. 糸球体腎炎
    • 急性糸球体腎炎様症状で血尿・たんぱく尿を伴う場合がある
    • 多くはクリオグロブリン血症による膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)
    • 分節性糸球体硬化症、膜性腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、ANCA合併による急性進行性糸球体腎炎なども報告はある( Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4(9):1423-1431.)
    • 腎リンパ腫、ループス腎炎などの合併に注意
    • 鑑別

◎診断

腎生検がゴールドスタンダード…腎機能低下・電解質異常が重篤な場合実施すべき
  • 間質性腎炎患者のほとんどで線維化所見が出る→慢性化していることが多い
      • A:タンパク質円柱を伴う間質性腎炎、B:肉芽腫性間質性腎炎、C,D:慢性間質性腎炎(Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4(9):1423-1431.)
  • 糸球体腎炎…多彩なパターンが報告されるが稀。多くはMPGN。

 

尿検査
  • 間質性腎炎の場合、尿検査は正常の場合も多い(Arthritis Rheum. 2013;65(11):2945-2953.)
採血
 
画像検査
  • 腎超音波、CT…腎結石症・閉塞性腎症の否定

◎治療

  • 尿細管間質性腎炎…ステロイド治療が多い。一部MMF・AZP併用する場合あり
    • 高用量ステロイドMMF・AZP併用が多い
    • その他Rituximab(RTX)使用報告も多い(Rheumatology (Oxford). 2017;56(3):362-370.)
    • ただし、腎生検で間質の高度線維化が見られる場合、免疫抑制療法のメリットは少ない
  • 酸塩基・電解質異常…通常の補正と同様
    • 免疫抑制療法の意義は微妙
    • 尿中カルシウム排泄量上昇に伴う尿管結石に関しては、経口アルカリ化剤(重炭酸など)での補正が有効な場合あり
  • クリオグロブリン血症によるMPGN…糸球体腎炎を合併する混合性クリオグロブリン血症に準じる

(Nat Rev Nephrol. 2016;12(2):82-93.)
 
参考:
Nat Rev Nephrol. 2016;12(2):82-93.
Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4(9):1423-1431.
Rheumatology (Oxford). 2017;56(3):362-370.