膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ループス腎炎と末期腎不全

Am J Med Sci. 2013;346(4):319-323.
Semin Nephrol. 2015;35(5):500-508.
 
全身性エリテマトーデス(SLE)の臓器病変のうち、最も問題になりやすいのがループス腎炎(LN)である。
罹患率・死亡率が高いこともそうだが、末期腎不全になった後の管理(活動性評価・継続的な免疫抑制剤の必要性)に頭を悩ませることになる。
 
参考:ANCA関連血管炎と末期腎不全
◎まとめ
  • ループス腎炎に伴う末期腎不全は近年減少傾向
  • 透析になるとSLE患者の活性は一般的に下がるとされるが、悪化報告も多々ある
  • 一方で透析になるとSLE活動性評価は難しくなるため、注意が必要→SLE疾患の腎外症状の発現の可能性に臨床的に注意することを推奨
  • ESKDとなったSLE患者への治療は必要あれば、しっかりとした治療を継続したほうが良い。薬剤の透析クリアランスに注意
  • 透析療法の選択肢・生存率は一般的な末期腎不全と差はない

【疫学】

  • 成人SLE患者の60%に腎病変が見られる
  • 特に重症ループス腎炎(WHOクラスⅢ以上)では、診断から15年以内に10−30%の患者で末期腎臓病(ESKD)に進行する
  • 腎障害は成人SLE患者の死亡率のうち最も重要な予測因子である
  • 近年は米国におけるLNでのESKD発症率は低下傾向
      • 1982−2010年までのLN患者のESKDの標準化罹患率(Semin Nephrol. 2015;35(5):500-508.)
  • ループス腎炎の末期腎不全進行リスクは以下の通り(Am J Med Sci. 2013;346(4):319-323.)
    • 人種…アフリカ系アメリカ人、アジア人、ヒスパニック
    • 血清Cre>1.83mg/dL
    • ネフローゼレベルの蛋白尿
    • 腎生検の遅延
    • 若年
    • 男性
    • 抗Ro抗体陽性
    • 腎病理:MPGN(WHOクラスⅣ)、尿細管萎縮
    • 医療アクセスの欠如
    • 免疫抑制療法への反応不良
    • 併存症…高血圧、糖尿病、BMI高値
 

【末期腎不全後のSLE活動性と免疫抑制継続の必要性】

  • SLE活性は透析によって抑制されるという考え方が1990年代の観察研究から生まれ、現在も根強く残っている
    • 文献レビュー…関節炎・発疹・漿膜炎・免疫抑制療法頻度全てが低下していた(Am J Med. 1996;101:100-7.)
  • ただ一方で腎代替療法(RRT)開始後SLEが悪化するという報告も多々ある…Am J Kidney Dis 1999;33:872–9.など
    • 長期透析実施中のSLE患者でリブマン・サックス心内膜炎を起こしたという報告もある(Nefrologia 2011;31:619–21.など)
  • →腎代替療法を受けているSLE患者であっても疾患活動性を継続的にモニタリングすることは非常に重要
  • ただ、ESKD状態のSLEの活動性を評価することは非常に難しい
    • どのSLE疾患活動性スコアもESKD患者向けになっていないため
    • 補体・抗dsDNA抗体などの血清マーカー…ESKD患者の疾患活動性との相関は弱い(Lupus 2003;12:827–32, Am J Med 1996;101:100–7.)
  • 新たな活動性測定ツールがない現状、SLE疾患の腎外症状の発現の可能性に臨床的に注意することが推奨される
  • ただ、透析となったSLE患者がリウマチ専門医の通院を継続する例は少ないのが現状
    • 透析を受けているSLE患者のうち、定期的にリウマチ専門医の診察(年に2回以上)を受けている患者は、寿命が延び、有効な免疫抑制療法を受けている可能性が高い(J Rheumatol 2011;38:2382–9.)
    • 透析になってもSLE患者への治療患者はリウマチ専門医の通院を継続したほうが良い?
  • ESKDとなったSLE患者への治療
    • 必要あれば、しっかりとした治療を継続したほうが良い
    • プレドニン(PSL)+ヒドロキシクロロキン(HCQ)の併用は、PSL単剤よりも生命予後良好(J Rheumatol 2011;38:2382–9.)
    • ただ、Azathioprine・Cyclophosphamide以外の免疫抑制剤の大半が透析クリアランスを示さないことに留意が必要
    • 腹膜透析(PD)患者の免疫抑制剤のクリアランスは不明
 

表:高透析能血液透析(HD)および腹膜透析(PD)による免疫抑制剤のクリアランス(Am J Med Sci. 2013;346(4):319-323.)

 

【SLE患者における透析療法】

  • アメリカにおけるSLE患者の透析療法の選択(HD・PD)は一般的なESKD患者と同等
    • 80%以上の患者が血液透析で、15%以下が腹膜透析で開始(Semin Nephrol. 2015;35(5):500-508.)
        • 1995-2006年までのESKDとなったLN患者の腎代替療法選択のグラフ、左から順にHD,PD,腎移植の比率
  • 透析療法の選択は患者別に行うべき
    • 大規模試験はないが、PDの方が生存率・合併症等がHDと比較して悪い傾向あり(Kidney Blood Press Res 2009;32:451–6, Nephrol Dial Transplant 2005;20:2797–802.)
    • ただ抗リン脂質抗体症候群既往ある患者の場合、PDの方がいいかもしれない
  • 代替療法を行っている患者の生存率は劇的に改善し、一般的なESKD患者と同等(J Am Soc Nephrol. 2015;10:251-9.)
  • 腎移植の成績は良好であり、できれば腎移植を目指したい