膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

乾癬性関節炎へのb/tsDMARDsスイッチは有効か?

Ann Rheum Dis. 2023;ard-2022-223650.
難治性乾癬性関節炎の生物学的製剤(bDMARDs)選択はかなり難しい。
2019年EULARガイドライン的には生物学的製剤の優先度は、TNF阻害薬・IL-17阻害薬(+末梢病変のみの場合IL12/23阻害薬)で開始→だめならその他ということになっている

一方2021年GRAPPAガイドライン的にはほぼ全てで生物学的製剤・JAK阻害薬が並列で、どれかを使用→だめならスイッチとなっているが、どういう優先順位で使えばいいのかはわかっておらず、患者の症状ドメイン・併存疾患を考慮して選択するということになっている
 
実臨床データでどう切り替えればいいのか?ということを見てみたstudy。結論だけ言えば、バイオスイッチして改善するPsAも多いが4種類以上b/tsDMARDsをスイッチしても寛解しないPsAが一定数いるということがわかった。
薬剤スイッチをすればいいというだけではなく、他の難治性原因の特定(喫煙・肥満・線維筋痛症合併など)・非薬物療法運動療法など)が重要なのかもしれない。

【Intro】

PsAに使用できる薬剤は増え続けているが、どれが優れているのかは全くわかっていない
→データベースデータをもとにPsA生物学的製剤の継続率・治療反応性を直接比較した
 

【Method】

北欧諸国5カ国のデータベースのPsA患者に対する観察研究
Patient:2012年1月~2020年12 月間にb/tsDMARD を開始したPsA患者
  • 3ヶ月未満の治療中断は無視、バイオシミラースイッチは同じ薬継続とみなした
収集データ:性別、年齢、疾患期間、疾患活動性(CRP・VAS・DAPSA28)、以前の b/tsDMARD 治療数、csDMARDの併用、関節外症状
Outcome:新規b/tsDMARDs開始、治療継続率、治療反応性
  • 新規b/tsDMARDs…TNF阻害薬以外のb/tsDMARDs(abatacept, apremilast, guselkumab, ixekizumab, secukinumab, tofacitinib, upadacitinib, ustekinumab)と定義(guselkumab, upadacitinibは使用数が少なく評価はできなかった)
  • 治療反応性…治療開始6ヶ月後の治療継続群におけるDAPSA28低活動性(≦15)・寛解(≦4)
 

【Result】

計12,792人のPsA患者がEntry…TNF阻害薬 16,976コース、新規b/tsDMRDs 4,767コース
  • 各群間差は不明
  • 平均年齢は50歳前後、平均罹病期間は5−6年、平均腫脹圧痛関節は3−5程度、平均CRPは1前半/mg/dL
時系列変化
  • 2014年以降は新規b/tsDMARDs使用率が上昇し、2018年頃にプラトーになった
  • TNF阻害薬使用率は変化なく、2剤目以降では新規b/tsDMARDs使用率上昇
  • スイッチ患者のベースライン特徴はあまり差なし
◎治療継続率
  • b/tsDMARDs 全体の 1年間継続率は 58%-83%で、特に継続率の高い薬剤はなかった。
  • abatacept, apremilastの1年間継続率はadalimumabよりも低い。4コース目以降ではusutekinumabも継続率低い。
 
◎治療反応性
  • 10,426コース中10,388コースで6ヶ月以上のフォローアップあり、反応性解析の対象とした
  • 薬剤別
    • adalimumabはabatacept, apremilast, usutekinumabと比較してLDA・寛解達成率が高い
    • ixekizumabは2/3コース目、4コース目以降ではadalimumabと比較してLDA・寛解達成率が低い
    • secukinumab, tofacitinibはadalimumabと有意差なし
  • 4コース目時点で、どの薬剤を使っていても約30%の患者はLDA達成できていなかった
 

【Discussion】

  • 観察研究ではあるが、abatacept, apremilast( ,usutekinumab)はAdalimumabより有効性が低い可能性がある
  • Adalimumab vs 他b/tsDMARDsの先行研究はいくつかあるが、関節炎への有効性は差がなかった→本研究と一致
  • 4剤目(4コース目)までスイッチした患者が17.7%存在し、それでもLDA達成できない患者が多かったtreat-to-targetアプローチ・薬剤スイッチをすればいいというだけではなく、他の難治性原因の特定(喫煙・肥満・線維筋痛症合併など)・非薬物療法運動療法など)が重要なのかもしれない
 

【感想】

  • PsAの活動性指標は付着部炎・軸性病変・皮膚などがあるが、この研究では関節腫脹圧痛・VAS・採血データしか見ていないので、評価できているかはわからない
  • 所詮はデータベース研究であり、薬剤継続をしていても全然治療がうまく行っていない人・治療効果以外の理由で薬剤を中止している人がいる可能性には注意が必要
  • バイオを使わざるを得ないPsA患者の内、30%は何を使っても(正確には4種類のb/tsDMARDs使っても)LDA達成できないという事実は非常に悲しい
  • PsA治療薬は増え続けているが、アンメットニーズはまだあると思われる。
  • ただRA同様、非炎症性要素に注意が必要
  • 日本ではPsAにAbataceptは保険適応外であり、Apremilastも活動性PsAに使う頻度は少ない(私見)→どのb/tsDMARDsを使っても関節炎改善には差がなさそう・どの薬剤も効かない(効果不十分な)患者がいて、変えてもしょうがないという事実は抑えておいていいと思われる。