膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

JAK阻害薬から他JAK阻害薬へのスイッチは有効なのか?

Ann Rheum Dis. 2022;annrheumdis-2022-222835.
 
関節リウマチ(RA)の治療薬はどんどん増えており、その代表歴はJAK阻害薬である。
ただJAK阻害薬も全てのRAが治るような薬剤ではない。臨床試験によって結果は微妙に異なるが、他bDMARDsと同じくらい寛解達成する、というのが現状である
  • 例)JAK-pot study…どの生物学的製剤・JAK阻害薬も同等の継続率(Ann Rheum Dis. 2022;annrheumdis-2022-222586.)
また有害事象のため中止せざるを得ないこともある。
EULARの新しいガイドラインでも「bDMARD・tsDMARDsが無効の場合、他のbDMARDs・tsDMARDsによる治療を検討すべきである」という内容になっている。
 
ただJAK阻害薬(tsDMARDs)が治療失敗した後、他bDMARDsに変更する(Switching)か、2種類目のJAK阻害薬に変更する(Cycling)のどちらが良いかということはわかっていない。
→データベースからどちらが有効かを調べてみた
結論:JAK阻害薬から他JAK阻害薬に変更することはbDMARDs変更同様に有効だが、1剤目のJAK阻害薬で有害事象が出た患者は2剤目のJAk阻害薬でも有害事象が出る。

【Method】

17カ国の国際レジストリ(JAK-pot collaboration)を利用したコホート研究
P(患者):JAK阻害薬治療が失敗したRA患者
I(介入群):2種類目のJAK阻害薬に変更(Cycling)
C(比較群):bDMARDsによる治療に変更(Switching)
O:Primary outcome…薬剤継続率
    Secondary outcome…①1剤目のJAKiを中止した理由と2つ目の治療の中止理由の関連、②CDAIの経時的な変化
  →共変量解析を実施
 

【Result】

JAK阻害薬無効RA患者2000人→Cycling(JAK→JAK)が365人、Switching(JAK→bDMARDs)が1635人

◎患者ベースライン

  • 1剤目JAK阻害薬はTofacitinib(約62%)が最多、次いでBaricitinib(約37%)で他はごくわずか
  • Cycling患者はSwitching患者と比較して、高齢、疾患期間が長い、Seropositive例が多い、過去のbDMARDs投与数が多い、1剤目のJAK阻害薬継続期間が長い、JAK阻害薬単剤投与が多い
  • Cycling・Swithingの間で、1剤目のJAK阻害薬の種類・中止の理由、疾患活動性は差なし
 

◎Primary outcome :薬剤継続率

  • 単変量解析…両群とも2年間の薬剤継続率はほぼ同じ。理由別に見てもほぼ同じ。
  • ただ調整後分析を行うと、CyclingはSwitchingより維持率が高かった…中止ハザード比は0.82(95%CI:0.68~0.99)
 

◎Secondary outcome①:1剤目のJAKiを中止した理由と2つ目の治療の中止理由の関連

  • 1剤目のJAKiを中止した理由と2つ目の治療の中止理由は関連していた
    • 1剤目のJAKiの中止理由が有効性の欠如の場合、2つ目の治療も有効性の欠如が原因で中止することが多い(Figure2上)
    • 1剤目のJAKiの中止理由が有害事象の場合、2つ目の治療も有害事象が原因で中止することが多い
 

◎Secondary outcome②:CDAIの経時的な変化

  • CDAIの経時的な改善は、2群で同程度
  • 2群どちらも改善に関しては個人差が大きい
 

【Discussion】

JAK阻害薬中止後の他bDMARDsに変更(Switching)・2種類目のJAK阻害薬に変更する(Cycling)は同程度の効果がある
  • 調整後の解析では、Cyclingの方が維持率がわずかに高い(※正直記述するほどの差はない)
Cycling群の患者の特徴
  • 高齢・罹病期間が長く、より多くのbDMARDsを投与され、最初のJAKi治療への曝露期間が長かった→Switching群と比較してより複雑な症例が多い
  • JAK阻害薬単剤投与が多く、単剤投与の患者はCyclingになりやすかった→csDMARDs使用不能の患者に置いて、JAK阻害薬・IL-6阻害薬は他bDMARDsと比較して有利という推奨を反映しているのかもしれない
1剤目のJAK阻害薬で有害事象が出た患者は2剤目のJAk阻害薬でも有害事象が出る事が多い
limitation
  1. サンプルサイズが小さく、国別で利用可能な薬剤が異なる可能性がある
  2. Primary outcomeが薬剤継続率となっているが、薬剤継続率は治療オプション数・患者集団の特徴などに影響されうる
  3. 患者群は現実データであり、不均一な集団である
  4. Upadacitinib, Filgotinibを使用している患者がほぼいない(※Peficitinibは0)
 

【結論】

1剤目のJAK阻害薬が無効の場合、AK阻害薬内で他薬剤に変更する(Cycling)とJAK阻害薬から他bDMARDsに変更する(Switching)どちらも同程度に有効
 

【感想】

個人的にはJAK阻害薬をbDMARDsに優先して治療することはほぼ無く、使うとしたら大体3パターン
  1. bDMARDsを1−2剤程度使用→JAK阻害薬変更(これが最多)
  2. 患者が(高価・帯状疱疹リスク説明しても)内服を強く希望
  3. csDMARDs内服困難(特にMTX)でTocilizumab等が無効
ということで、「追い詰められてJAK」というパターンが多いので、JAK阻害薬が無効だったときはJAK阻害薬内で変更(Cycling)を行うことが個人的には多く、その根拠にはなると思う。
今後「じゃあどのJAKに変更するか?」という話にはなりそうであるが、そこについてデータが出る気がしない。
 
表:JAK阻害薬一覧(2022年度版)