膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

血管炎ミミック

Mimics of vasculitis. Rheumatology (Oxford). 2021;60(1):34-47.
 
血管炎は迅速な診断が重要だが、「血管炎ミミック」も多々存在する
代表的なものとして
  • 大・中型血管炎…遺伝性疾患、血管障害
  • 中・小型血管炎…コレステロール塞栓症、血栓症、カルシフィラキシー
  • 中枢神経血管炎…可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
がある
 
影響を受ける
主な血管サイズ
血管炎を模倣した症状
鑑別のための検査
全サイズ
全身症状、急性期マーカーの上昇
多臓器不全、動脈瘤
ANCA産生
細菌・真菌の血液培養
Q熱の血清検査(Bartonella)
検査:HIVHBVHCV結核、梅毒、COVID-19
大血管の画像診断
必要に応じて組織生検(皮膚、腎臓)
外科的病理組織検査(可能な場合)
菌血症
全サイズ
多臓器不全、全身症状
ANCA産生
皮膚神経血管炎
Pauci-immune型糸球体腎炎
大動脈炎/動脈炎
微小動脈瘤
ウイルス
(HIV・Covid-19)
全サイズ
脳卒中、四肢の虚血、動脈瘤
血管閉塞、仮性動脈瘤
血栓症、凍瘡様病変、微小血栓
川崎病様の病態
真菌
全サイズ
全身症状、皮膚結節
肺症状、mycotic aneurysm
Treponema pallidum
全サイズ
脳卒中、大動脈炎、動脈瘤
冠動脈狭窄、心筋炎
血管障害
大・中型血管
脳卒中、臓器虚血
動脈異常(狭窄、動脈瘤、解離、破裂など)
急性期反応、脳脊髄液(必要に応じて)
大動脈・分枝画像
遺伝子検査(必要に応じて)
外科的病理検査(必要に応じて)など
遺伝性
Marfan症候群
大型血管
上行大動脈での大動脈基部拡張、大動脈逆流、大動脈解離
血管Ehlers-Danlos症候群
大・中型血管
大動脈及び分枝の解離・破裂
頸動脈-頸静脈洞瘻孔
Loeys–Dietz症候群
大・中型血管
大動脈および分枝の動脈瘤
動脈の蛇行
大動脈および分枝の解離
大・中型血管
大動脈および分枝の狭窄
動脈瘤・動静脈の異常などの動脈異常
非遺伝性
線維筋性異形成
大・中型血管
脳卒中、一過性脳虚血発作
腎梗塞、治療抵抗性高血圧
大動脈および分枝の狭窄・閉塞・動脈瘤・解離・多枝病変などの動脈異常
分節性動脈中膜壊死(SAM)
中型血管
急性腹腔内出血、急性腹腔虚血
腹腔内血管/脳血管の狭窄・閉塞・動脈瘤・解離・多枝病変などの動脈異常
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
中型血管
(中枢神経系)
脳卒中、痙攣、頭痛
脳画像・脳血管での画像異常
中・小型血管
全身症状
皮膚所見(結節・指尖部虚血、livedo reticularis)
急性腎障害、腸間膜虚血、脳卒中
一過性脳虚血発作
炎症マーカーの上昇、低補体血症
脂質異常、HbA1c
急性期反応、血算
補体…C3、C4
尿検査(好酸球性尿の評価含む)
眼科検査
可能であれば患部組織の生検
血栓症・凝固性疾患
中・小型血管
紫斑、livedo、皮膚結節
皮膚潰瘍、皮膚梗塞・壊死
動脈血栓症、腎不全
中枢神経系症状
血算、クレアチニン、尿検査
末梢血塗抹標本、ハプトグロビン、LDH、PT、APTT、D-dimer、フィブリノゲン
ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンβ2GPI抗体、ADAMTS13、腸内細菌の便培養
カルシフィラキシス
中・小型血管
皮膚潰瘍・皮膚壊死
クレアチニン、カルシウム、リン、副甲状腺ホルモン、病歴
生検はルーチンでは実施しない(創傷治癒不良のリスク)
 
悪性腫瘍
全サイズ
全身症状、皮膚症状
脳卒中、動脈狭窄、血栓症動脈瘤
急性期反応の上昇、ANCAの形成
心エコー、組織生検、皮膚生検
骨髄生検、PET-CT

感染症

  • 血管炎の重要なミミックで、あらゆるサイズの血管に影響しうる
  • 特に代表的なのが、感染性心内膜炎(IE)
    • 全身症状・炎症反応高値・糸球体腎炎等の臓器病変を起こす→ANCA関連血管炎に似る
        • a: 塞栓による指尖部潰瘍、b: 人工弁の疣贅
    • 特にBartonellaはANCA陽性かつ糸球体腎炎例が多い
  • HIV慢性感染…重篤な血管炎を起こしうる
その他多くの感染症でANCA陽性となりうる

1.Bartonellaによる培養陰性心内膜炎
  • グラム陽性球菌による感染性心内膜炎と比較してANCA陽性率が高い(特にC-ANCA、PR3-ANCA)
    • c-ANCA陽性(60%対23%)、PR3陽性(40%対5%)
  • Bartonella心内膜炎による糸球体腎炎もありうる
    • 鑑別点:Bartonellaによる糸球体腎炎は免疫複合体沈着を伴うが、ANCA関連血管炎による
  • その他紫斑等の皮膚病変・肺症状も起こりうる
2.グラム陽性球菌による感染性心内膜炎
  • C-ANCA陽性例が多い
    • 18%でANCA陽性(70%がc-ANCA)、MPO・PR3-ANCA陽性例はそれぞれ4%…フランスでの菌血症患者109人での研究
  • ANCA陽性IEは脳虚血病変の有病率が高い
3.その他の感染症
4.HIV
  • 血管炎・重度の血管障害の報告が多い
  • 主に大・中型血管に影響→動脈瘤・動脈閉塞・動脈血栓症を起こす
  • HIVによる中枢神経障害の原因は大動脈病変が最多、ついで日和見感染
5.COVID-19
  • 凍瘡様皮膚病変の報告が多い
      • J Am Acad Dermatol. 2020;83(2):486-492.
  • COVID-19の皮膚病変…斑状発疹(47%)、凍瘡様病変(19%)、蕁麻疹(19%)、小水疱性発疹(9%)、livedo/necrosis(6%)(Br J Dermatol 2020;183:71–7.)
  • 血栓性閉塞性血管炎・皮膚血管炎の報告もある
  • 小児では川崎病類似病態の報告もあり、心疾患・マクロファージ再活性化症候群を呈した症例報告あり
6.mycotic aneurysm
  • 感染性生物が動脈壁に直接侵入し、血管壁が脆弱化することで発症
    • ※"mycotic aneurysm”だが、真菌によって起こることは稀で主には細菌ブドウ球菌サルモネラ菌、レンサ球菌、大腸菌など)で起こる
    • 細菌以外の原因…Treponema pallidum、マイコバクテリウム、真菌
  • 培養陽性であれば確定診断できるが、陰性でも可能性は排除できない
  • 症状…発熱、疼痛を伴う拍動性の肥大化した腫瘤
  • 部位…頭蓋内動脈が最多だが、内頚動脈・四肢動脈にも発生しうる
    • 感染性大動脈炎にもなりうる
  • 画像診断(CT、MRI)が重要
    • 大動脈周囲のガス、水腫、腫瘤→大血管炎と鑑別
      • 大動脈周囲の軟部組織腫脹・L3椎体骨破壊(Radiographics. 2008;28(7):1853-1868.
 

【血管障害】

  • 脳卒中/梗塞、動脈閉塞、動脈解離を起こすことがある→大・中型血管炎のミミックとなる
  • 血管炎と異なり、通常全身症状・炎症マーカーの上昇はない
  • 原因には、遺伝性・非遺伝性に分かれる
  • 免疫抑制剤は基本的には無効
 
1.遺伝性病変
 遺伝性結合組織病で構成される
  • Marfan症候群
    • 常染色体優性遺伝で、大動脈基部の拡張・解離などの大血管症状を起こしうる
    • 診断…血管病変、FBN1遺伝子変異、水晶体亜脱臼など
  • 血管Ehlers-Danlos症候群
    • 常染色体優性遺伝
    • 他のEhlers-Danlos症候群と異なり、大関節の過可動性(ハイパーモービリティー)はない
    • 参考:

       

      ctd-gim.hatenablog.com

       

    • S状結腸・子宮などの内臓の穿孔が特徴
    • 大動脈及びその分岐の解離・破裂、頸動脈-海綿静脈洞瘻が多い
    • 40歳未満での動脈破裂/解離の家族歴、原因不明の内蔵穿孔・自然気胸がある場合疑う
  • Loeys-Dietz症候群
    • 常染色体優性遺伝
    • 動脈の蛇行と動脈瘤(特に大動脈)、斜視(目の間隔が広い)、二分口蓋または口蓋裂が特徴
  • 神経線維腫症1型(NF-1;von Recklinghausen病)
    • 常染色体優性遺伝
    • カフェオレ斑・神経線維腫などが特徴
    • 血管病変として血管狭窄・動脈瘤・動静脈奇形があり、特に大動脈などに多い
2.線維筋性異形成(Fibromuscular dysplasia: FMD)
  • 特発性、分節性の非動脈硬化性動脈疾患
  • 特に腎動脈・脳血管といった中型血管に好発→若年での脳卒中TIA・腎梗塞の原因となる→血管炎と鑑別必要
  • 患者の大半は女性で、平均年齢は46−53歳(Vasc Med 2019;24:164–89.)
    • 若年発症(35歳未満)または治療抵抗性の高血圧、腹部血管雑音、重症再発性頭痛、拍動性耳鳴、TIA脳卒中などの虚血性疾患の既往歴のある患者(特に女性)で疑う
  • 多い症状は高血圧、頭痛、拍動性耳鳴、脳卒中
  • 動脈解離、大動脈瘤なども起こす
    • 画像:腎動脈の数珠状病変(A)、腹部大動脈・右総腸骨動脈の解離(BC)
3.分節性動脈中膜壊死(Segmental arterial mediolysis: SAM)
  • 原因不明の非炎症性・非動脈硬化性疾患
  • 内臓動脈の中膜が分節状に融解することが特徴→動脈解離、動脈瘤、動脈狭窄・閉塞をおこす
  • 40−60代に好発し、性差はない
  • 好発部位は腹部内臓動脈(腹腔動脈・上腸間膜動脈・腎動脈)→腹部症状が多く、腹腔内出血を起こす場合がある
  • 血管炎の鑑別としては結節性多発動脈炎(PN)が挙がるが、PNのような全身症状・皮膚症状・関節痛はないことが多い
    • その他の鑑別点…病理(PNは壊死性動脈炎、SAMは中膜平滑筋細胞の空胞変性/炎症性浸潤を伴わなう外膜のフィブリン沈着)
        • SAM病理:中膜平滑筋細胞の空胞変性・外膜のフィブリン(Cardiovasc Pathol. 2009;18(6):352-360.)
4.可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible cerebral vasoconstrictive syndrome: RCVS)
  • PACNS(primary angiitis of the CNS、中枢神経原発動脈炎)のミミック
  • 雷鳴性頭痛、自然消退する脳動脈のびまん性・分節性血管収縮が特徴
  • 脳卒中・脳浮腫・けいれんを起こす
  • リスク…血管作動薬、違法薬物、産後、性交、労作、感情的な状態など
  • ◎RCVSとPACNSの鑑別点
    • 雷鳴性頭痛…RCVSでは多いが、PACNSでは殆どない
    • 髄液検査…RCVSでは正常例が多いが、PACNSでは異常多い
    • MRI…PACNSでは大半が異常、RCXSは正常の場合あり
    • 脳血管造影異常…RCVSでは全例で見られる
画像比較は以下の通り(Ann Neurol. 2016;79(6):882-894.)
RCVS
PACNS

  1. 脳病変なし
  2. 血管原性浮腫(PRES)
  3. 出血性病変
  4. 複数の病態
  1. 小病変・播種性の急性期梗塞
  2. 急性/慢性の白質梗塞
  3. 孤立性の白質・軟膜病変
  4. 腫瘤性病変
  5. その他(巨大梗塞など)
 

コレステロール塞栓症】

  • コレステロール結晶が動脈塞栓を起こす→末梢器官に損傷
  • リスク…従来の心血管系リスク、大血管への治療介入
  • 多くは大血管・腸骨/大腿動脈に発生する
  • 症状
    • 皮膚(網状皮斑、紫斑、結節、blue toe
        • (J Biomed Res. 2017;31(2):82-94.)
    • 腎臓(急性腎障害、コントロール不能な高血圧)
    • 消化管(腸間膜虚血)
    • CNS(TIAなど)
    • 眼(網膜血管の病変→Hollenhorst斑)
        • (J Biomed Res. 2017;31(2):82-94.)
  • 病理組織での確定診断が重要(塞栓結晶の証明)
      • 塞栓結晶(J Biomed Res. 2017;31(2):82-94.)

血栓症・凝固性疾患】

  • 紫斑、網状皮斑、潰瘍などの皮膚症状→中・小型血管炎のミミックとなる
  • 大半の症例では検査・症状・生検で鑑別可能
1.血栓性微小血管症(TMA)
  • 微小血管障害による溶血性貧血・血小板減少症・臓器障害が特徴
    • 腎病変・中枢神経症状・皮膚症状も起こりうる
  • 背景にSLE等の自己免疫性疾患があることがある
  • 病理:血管損傷・血管の微小血栓あり→血管炎と鑑別可能
2.抗凝固療法による後天的凝固亢進
  • ワーファリン誘発性皮膚壊死
    • ワーファリン治療後3−5日以内に発生
    • 乳房・殿部などの脂肪が多い部分に発生する
  • ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)
3.抗リン脂質抗体症候群APS
  • APS抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンβ2GPI抗体)が陽性となる
  • 症状としては、深部静脈血栓症・血小板減少・網状皮斑などがある
4.Livedoid vasculopathy
  • 下肢の非炎症性血管障害で、原因不明の疾患
  • 網状皮斑・紫斑・潰瘍を伴い、潰瘍治癒後に白色の萎縮性瘢痕を残す
紫斑・潰瘍
白色の萎縮性瘢痕

(J Am Acad Dermatol. 2013;69(6):1033-1042.e1.)
  • 病理:血管炎所見はなく、血管内血栓・血管壁のヒアリン化が特徴
 

【カルシフィラキシス

  • 小血管内のカルシウム・血栓によって起こる閉塞性血管障害
  • 非常に強い疼痛を伴う皮下プラーク・結節・網状皮斑を起こし、しばしば黒色斑点を伴う潰瘍を形成する→中・小型血管炎を模倣する
  • リスク…末期腎不全、Ca・P高値、PTH高値、ワーファリン使用など
  • 生検は基本的には推奨されない(創部治癒が悪くなる可能性がある)
 

【悪性腫瘍】

  • 血管内リンパ腫等の悪性腫瘍は腫瘍随伴性血管炎を起こす
  • 血管内リンパ腫
    • 全身症状・皮膚病変・中枢神経症状を起こしうる→小型血管炎と鑑別困難な場合あり
    • ANCA産生例も報告あり
    • 鑑別:皮膚生検、骨髄生検
  • 心臓粘液腫
    • 動脈異常、動脈塞栓症状を起こす
    • 鑑別:心エコーでの心臓内腫瘍の確認
 

【まとめ】

  • 血管炎を疑う際は、そのミミックを鑑別する必要がある
  • 病変血管のサイズに基づいてミミックを鑑別することが有用
  • 重要なミミックとして感染症の他、血管障害・血栓症のような日炎症性病変、悪性腫瘍がある
  • 血管炎と診断されていても免疫抑制療法に反応しない場合、再度ミミックを鑑別することが重要