膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

淋菌性関節炎・非淋菌性関節炎

Rheum Dis Clin North Am. 2009;35(1):63-73.
 
淋菌性関節炎・非淋菌性関節炎についてのリスク・病態・臨床症状・診断・治療まとめ

【リスク】

  • 正常関節は通常感染症に対して強いので、リスクファクターを理解することが重要
  • 特に重要なリスクは、関節リウマチ・人工関節置換術後
    • 関節リウマチはもともと関節症状があるため敗血症性関節炎の診断が遅れがちになるため注意
 
敗血症性関節炎のリスク(Rheum Dis Clin North Am 2003;29(1):61–75.)
全身疾患
糖尿病、関節リウマチ、肝臓疾患、慢性腎不全、悪性腫瘍、静脈内薬物濫用、血液透析アルコール依存症、AIDS、血友病、臓器移植、低ガンマグロブリン血症
薬剤…免疫抑制剤ステロイド、生物学的製剤
局所因子
関節外傷、直近の関節手術、開放骨折の治療、関節鏡、敗血症性関節炎における関節リウマチ、変形性関節症、人工関節
社会因子
動物への職業的接触ブルセラ)、低所得(結核
年齢
80歳以上、新生児

【病態】

  • 大半は潜伏していた菌血症が関節に広がることで発症する
    • 滑膜は、血管が多く基底膜が非制限的→感染に弱い
  • 貫通外傷によって起こることもある…動物咬傷・釘が刺さる・違法薬物など
  • その他医原性もある…関節鏡・関節注射・関節手術・人工関節置換術など
  • グラム陰性桿菌性の敗血症性感染症は全体の10%しかない→グラム陽性菌による敗血症性関節炎が大半
  • 敗血症性関節炎による関節損傷は、細菌の侵入、宿主の炎症、組織の虚血に起因する→治療が遅れることで軟骨破壊・骨量減少が起こり、関節損傷リスクが高まる
 

【臨床的特徴】

  • 急性感染性関節炎は大半が単関節炎だが、他の関節炎と重複する場合があり注意
  • 単関節炎が多い→外傷・結晶性関節炎の2つが主な鑑別
・非淋菌性関節炎
    • 高熱、白血球増多、熱感・腫脹・疼痛を伴う単関節炎、大関節が多く50%以上は膝に発症する
    • 関節リウマチ(RA)・変形性膝関節症(OA)等の慢性疾患がある場合は多関節炎となりうる→鑑別が難しくなる
・淋菌性関節炎
  • sexual activityの高い若年、女性が多い(3:1で女性優位)…女性の淋菌感染は無症状のことが多い→未治療で放置されやすいから?
  • 3要素が特徴的
    • 移動性の多発性関節痛
    • 斑点・丘疹として現れる皮膚病変
        • Intern Med. 2011;50(18):2039-2043.
    • 複数関節で同時に出現する腱鞘炎(特に手関節、手指、足関節、足趾)
  • 非対称性の多関節/少関節炎も起こりうる(膝・足関節・手関節に多い)→淋菌性関節炎の関節炎の臨床像は多彩
  • 関節炎前に性的活動があった場合、淋菌性関節炎を積極的に疑う
  • 淋菌を培養検査で検出できる確率は低い(50%以下)
  • 滑液グラム染色が陽性であっても、子宮頸部・尿道・直腸の培養も行い淋菌の存在を補強する必要がある
 
 
淋菌性関節炎
非淋菌性関節炎
患者像
sexual activityの高い若年層
女性が多い
新生児
慢性疾患のある高齢者(糖尿病・RA・OA)
症状
移動性多関節炎、皮膚炎、腱鞘炎
単関節の症状
関節炎パターン
〜50%が多関節炎
〜90%が単関節炎
培養陽性
50%以下
約90%
予後
適切な抗菌薬治療を行えば良好
通常予後不良で、大半の症例で関節ドレナージが必要

【診断】

  • 以下の場合に感染性関節炎を疑う
 
感染性関節炎を疑う臨床・検査所見
臨床データ
最近の発熱
全身倦怠感関節痛、滑膜炎(単関節・多関節)
感染性関節炎のリスク…関節疾患、静脈注射での薬物乱用、免疫抑制、高齢など
関節液
細胞数 ≧50,000/mL
90%以上の多核白血球
Gram染色・培養陽性
糖低値、乳酸高値
 
  • 診断の柱は病原体そのものの培養・分離
  • 淋菌性関節炎・非淋菌性関節炎(敗血症性関節炎)を鑑別することが重要
  • 滑液Gram染色
    • 敗血症性関節炎の場合、特異度は高いが感度は低い
    • Gram染色陽性率
      • グラム陽性球菌:71%
      • グラム陰性桿菌:40-50%
      • 淋菌性関節炎:25%以下
  • 淋菌性関節炎は、培養での同定困難…滑液培養50%以下、血液培養3分の1以下→淋菌性関節炎を疑うなら泌尿器系からの検体採取で証明するほうが容易
  • 非淋菌性敗血症性関節炎の起因菌は75-80%がグラム陽性球菌、15-20%がグラム陰性桿菌
    • 最多が黄色ブドウ球菌で、ついでレンサ球菌群が起因菌として多い
    • グラム陰性桿菌による関節炎は、静脈注射での薬物乱用患者・免疫抑制患者・超高齢患者で起こる
    • グラム陰性桿菌で多いのは大腸菌緑膿菌
    • まれに嫌気性菌による関節炎も起こる→悪臭を放つ滑液・関節腔内の空気がある場合は嫌気性菌による関節炎を疑う
  • 敗血症性多関節炎はめったに起こらないが、RA等の合併症がある場合は注意
  • 感染関節の単純X線写真は正常であることが多いが、骨髄炎・併発する関節疾患が存在することがある→撮影を推奨
  • その他の検査としてシンチグラフィ、超音波、CT、MRIがあり、仙腸関節のような深い関節の検査に向いている
    • 特にMRIは関節液の早期検出において高感度であり、軟部組織構造の描出においてCTよりも優れている
 

【治療】

  • 臨床評価完了及び適切な培養検体採取後速やかに開始する
  • 治療の柱は非経口的抗菌薬投与+十分な関節ドレナージ
  • 抗菌薬の選択は地域によって異なるが、MRSAの関与には十分注意する必要がある
  • 早期の関節リハビリテーション・関節モビライゼーションは、特に筋萎縮と関節拘縮の予防において固定よりも良い結果をもたらす
 

【予後】

  • 感染した関節をできるだけ早く診断し、治療できるかどうかが、良好な予後を得るための鍵となる
  • 敗血症性関節炎の死亡率は約10%で、不可逆的な関節障害はほぼ半数に起こる
  • 基礎疾患がある場合予後不良となるため、潜在的な敗血症性関節炎リスクのある患者には適切なスクリーニングによる迅速な診断・治療が必要