膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ループス肝炎と自己免疫性肝炎

Am J Med Sci. 2017;353(4):329-335.
 
①前置き
  • 肝機能異常はSLE患者の約50%で出現するとされ、その原因鑑別は結構難しい
  • 免疫学的異常として2つ挙げられる
    1. ループス肝炎=”Lupic Hepatitis”
    2. 自己免疫性肝炎(AIH)="Lupoid Hepatitis"
 
この2つは非常に似ている割に予後が異なりかなり厄介
  

 

②ループス肝炎
  • SLE患者で肝酵素異常があった場合、まず薬剤性・ウイルス性肝炎・脂肪肝の除外を行う
    • 特に薬剤…アザチオプリン、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキンが頻度高い
  • 診断で最も有用なのは肝生検…補体(C1q)の沈着がループス肝炎を強く示唆する
    • リンパ球/好中球/形質細胞による軽度の門脈浸潤、肝細胞の水腫性変性なども見られる
 
③自己免疫性肝炎
  • 自己免疫性肝炎は肝細胞壊死・炎症を特徴とする自己免疫性疾患の一種
  • 無症候性の検診異常で発見されることが多いが、ときに劇症肝炎を起こす可能性あり
  • 自己免疫性肝炎は他の自己免疫性疾患を合併することが多い
    • リウマチ性疾患…SLE、MCTD、強皮症、シェーグレン症候群、関節リウマチ
      • 46人の自己免疫性肝炎患者の内16人(34.8%)が自己免疫性疾患合併あり(Rev Gastroenterol Peru, 34 (4) (2014), 305-310)
    • それ以外…自己免疫性血小板減少症(ATP)、自己免疫性甲状腺炎、滑膜炎、潰瘍性大腸炎など
  • Ⅰ型自己免疫性肝炎は女性に多く、高ガンマグロブリン血症、抗核抗体陽性が多い→SLEと鑑別必要
    • ※Ⅱ型自己免疫性肝炎…小児・地中海出身者に多く、抗核抗体陰性が多い
 
④ループス肝炎と自己免疫性肝炎の鑑別
 
比較すると下記の通りでかなりループス肝炎とⅠ型自己免疫性肝炎は似ているが、予後は大きく異なる
 
ループス肝炎
自己免疫性肝炎
抗核抗体
大半で陽性
Ⅰ型の80%で陽性
抗平滑筋抗体
陽性の可能性あり
Ⅰ型で陽性
抗LKM抗体
陰性
Ⅱ型で陽性
抗肝-膵抗原
陰性
Ⅲ型で陽性
リボソームP抗体
陽性
陰性
進行
良性
肝硬変へと進行
予後
良好
5年生存率…治療例で80%、非治療例で25%
 
  • 症状・所見もよく似る(多関節痛、高ガンマグロブリン血症、抗核抗体陽性の自己免疫疾患)
  • しかもSLEと自己免疫性肝炎のオーバーラップ症例があるため、さらにややこしい
    • 自己免疫性肝炎の内3%はSLEの古典的基準を満たすという報告あり
鑑別フローチャート一案は以下の通り

鑑別ポイント
  1. 組織学…肝生検の結果が異なる
    • ループス肝炎…小葉浸潤、リンパ球に乏しい門脈浸潤
    • 自己免疫性肝炎…門脈域への単核球の浸潤、piecemeal necrosis、線維化
  2. 採血検査
    • IgG上昇・抗核抗体陽性は両方に見られる
    • リボソームP抗体はかなり有用…ループス肝炎患者の44%で陽性だが、自己免疫性肝炎では陰性
    • 抗dsDNA抗体陽性は自己免疫性肝炎の約30%にあるとされ、鑑別に役立たない場合あり
      • 自己免疫性肝炎+原発性胆汁性胆管炎(AIH+PSC)オーバーラップ症候群の~60%では、抗dsDNA抗体・抗ミトコンドリア抗体が両方陽性になる
 
⑤治療
  • 米国ガイドラインでは、自己免疫性肝炎の治療適応としてAST≧正常値x5倍、γグロブリン≧正常値x2倍時に治療を推奨している
  • 治療は高用量ステロイド±アザチオプリンが多い→SLEに似る
  • SLE-AIHオーバーラップ症候群はステロイド治療への反応性が良いとされる
 
⑥まとめ・感想
  • SLEとAIHは様々な面で似て鑑別が困難
    • 自己抗体…抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性
    • 症状…肝酵素異常のみもありうる
    • 両方のオーバーラップもありうる
  • 鑑別としては肝生検・自己抗体(抗リボソームP抗体など)がある
  • 予後が大きく変わるため、鑑別は重要