菊池藤本病(KFD、以下「菊池病」で統一)は亜急性壊死性の局所的なリンパ節腫脹を特徴とする原因不明の疾患である。
予後の良い疾患であるが、しばしば軽度の発熱・全身症状を伴う場合がある。
名前は有名だが、まとまったレビューはあまりなかったので、自分なりにまとめてみた。
【Key-point】
-
菊池病はアジア人若年者への急性発症の頚部リンパ節炎が典型例だが、皮膚症状・全身症状をおこす場合もある
-
診断において最も重要なのはリンパ節生検…豊富な核残渣を伴う壊死組織・壊死組織端の組織やT細胞の浸潤
-
最大の鑑別はSLEで、リンパ節生検をしても鑑別困難な場合がある。菊池病の経過中にSLEを発症する場合もある。
-
治療は基本的には対症療法で問題なく、数ヶ月で自然軽快することが多い
【疫学】
-
初報告は日本人で、アジア人で有病率が高いとされるが、すべての人種で見られる
-
若年(40歳未満)に多く、男女比はほぼ1:1だが女性に若干多いとされる
【臨床所見】
◎臨床症状
-
急性-亜急性疾患で、数週間の経過で発症する
-
最多症状は後頚部のリンパ節腫脹(60-90%)で、腋窩・鎖骨リンパ節病変もありうる
-
リンパ節は軟・有痛性、リンパ節サイズは0.5-3.5cm程度
-
全身リンパ節腫脹を起こすことは非常に稀
-
-
リンパ節腫脹とともに発熱を併発することが多い
表:菊池病の皮膚病変(Int J Dermatol. 2016;55(10):1069-1075.)
典型的
|
非典型的
|
稀
|
非特異的な発疹
小紅斑、丘疹、プラーク
顔面・上肢・体幹病変
|
蕁麻疹様病変
口腔内潰瘍
脱毛症
白血球破砕性血管炎
頬部紅斑
掻痒感
眼瞼浮腫
口唇浮腫
落屑
多形紅斑
|
膿疱
下肢病変
|
◎検査所見
-
正常のことが多いが、軽度貧血・CRP/血沈上昇が見られる症例もある
-
白血球…減少(特に顆粒球減少)も増加もありうる
-
頻度に関しては白血球減少のほうが多い?(Clin Rheumatol. 2007;26(1):50-54.)
-
異型リンパ球増殖が見られる場合あり
-
LDH・AST/ALT上昇もありうる
-
自己抗体(RF・抗核抗体など)は基本的には陰性
-
抗核抗体に関しては陽性率30%とする報告もある(Medicine (Baltimore). 2014;93(24):372-382.)
◎画像検査
-
CT・エコー等…リンパ節腫脹が見られるが、頚部以外のリンパ節にも見られることがある
-
FDG-PET…リンパ節への強い集積が特徴的
-
両側頸部・右鎖骨上・両側腋窩・腹部・両側鼠径リンパ節への集積(J Int Med Res. 2021;49(7):3000605211032859.)
【原因】
-
正確な原因は不明だが、感染症・自己免疫疾患が原因と推察されている
-
感染症…主にはウイルス感染?
-
自己免疫性疾患…SLE様の自己免疫反応?(Am J Pathol. 1982;107(3):292-299.)
-
SLEの他、マクロファージ再活性化症候群(MAS)・シェーグレン症候群・Basedow病等とも関連あり
-
AOSDとの関連・オーバラップ症候群の可能性も提唱されている(Clin Rheumatol. 2021;40(12):4791-4805.)
-
遺伝的感受性が高い人がT細胞性免疫反応を過剰に起こすことが原因?
-
菊池病患者はHLA-DPA1,DPB1の保有率が高く、この遺伝子はアジア人に特異的
【病理・免疫組織】
-
リンパ節組織
-
濾胞過形成を伴い、部分的に保たれた構造を持つ
-
傍皮質は拡張・斑点状の壊死組織が見られる
-
組織球の集積・壊死部分(矢印)によって拡張した傍皮質を伴うリンパ節(HE染色x40)
-
壊死部分…豊富な核残渣が見られ、壊死部分の端には組織球の集積が見られる
-
壊死領域(HE染色x40)(Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341-1346.)
-
壊死部分の組織球は小型リンパ球・T細胞・形質細胞が中心で、好中球・好酸球はほぼ見られない
-
組織パターン…増殖性、壊死性、黄色腫性の時系列をとる
-
増殖性パターン…組織球および形質細胞様樹状細胞のシート、小型リンパ球、核破片が混在する拡大した傍皮質が特徴
-
壊死性パターン…壊死が特徴的
-
黄色腫性パターン…病変部に泡沫性組織球が大量に存在
-
免疫染色…悪性リンパ腫との鑑別に有用なことがある
-
組織球…CD68、CD163、CD4 に陽性
-
組織球、ミエロペルオキシダーゼ染色陽性(x200)(Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341-1346.)
-
リンパ球…大半がCD3 陽性 T 細胞。CD4 <CD8で、CD20 陽性 B 細胞はごく少数
-
形質細胞様樹状細胞…CD123陽性
【鑑別診断】
-
リンパ節炎としての鑑別として重要なものは、感染性リンパ節炎・自己免疫性リンパ節炎(特にSLE)、非ホジキン悪性リンパ腫の3つである
表:菊池病の鑑別診断
分類
|
疾患
|
ヒストプラズマ
猫ひっかき病
梅毒
Yersinia enterocoliticaリンパ節炎
非特異的な細菌性リンパ節炎
単純ヘルペス性リンパ節炎
|
|
自己免疫性疾患
|
全身性エリテマトーデス
(SLE)
|
リンパ腫
|
B細胞型非ホジキン悪性リンパ腫(例:びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL))
T胞型非ホジキン悪性リンパ腫(例:末梢性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫)
古典的ホジキンリンパ腫
|
その他
|
骨髄肉腫
|
表:菊池病の鑑別疾患と鑑別ポイント(BMC Oral Health. 2019;19(1):223.)
|
疼痛
|
発熱
|
自然消退
|
臨床的な特徴
|
組織学的特徴
|
菊池病
|
軽度
|
不規則
|
○
|
本文参照
|
ミエロペルオキシダーゼ/CD68陽性
核破片を伴う壊死
|
あり
|
再発性
|
✗
|
フローサイトメトリー
|
悪性過形成、単クローン性リンパ球
|
|
結核性リンパ節炎
|
軽度
|
間欠的 |
✗
|
結核曝露歴
ツベルクリン反応陽性
|
乾酪性壊死、結核性肉芽腫
|
猫ひっかき病
|
あり
|
不規則
|
○
|
猫の飼育歴
|
中枢性壊死、肉芽腫性炎症
Warthin-Starry染色陽性
|
SLE
|
軽度
|
不規則
|
✗
|
抗核抗体陽性
血球減少など
|
ヘマトキシリン体など
|
表:菊池病を疑った際行う検査(Medicine (Baltimore). 2014;93(24):372-382.)
診察
|
包括的な病歴聴取・身体所見
|
血液・尿検査
|
|
血清検査
|
HIV、EBV、CMV、Toxoplasma gondii、HHV6、HHV8
|
自己抗体
|
抗核抗体、リウマトイド因子
|
画像検査
|
胸部X線写真
|
リンパ節生検
|
標準染色、免疫組織化学、標準培養、Ziehl-Neelsen染色、結核菌培養
|
オプション
(鑑別次第)
|
血清検査…猫ひっかき病、パルボウイルスB19、Yersinia enterocolitica
CT検査
FDG-PET(不明熱精査の場合など)
|
①感染症
一部の感染症は壊死性リンパ節炎を起こしうる
鑑別ポイントは以下の通り
-
壊死部分の組織形態が異なる
-
壊死部分への浸潤細胞が異なる…菊池病の場合、小型リンパ球・T細胞・形質細胞
-
免疫染色等の特殊染色で鑑別
②SLE
菊池病の鑑別疾患としては、最も鑑別困難な疾患…組織学・免疫組織化学的に菊池病と鑑別困難な例がある
→検査での鑑別が必要であり、菊池病を疑った際は常にSLEを鑑別診断に入れる必要がある
◎SLEのリンパ節組織の特徴
-
組織球に囲まれた傍皮質の壊死で、好中球・好酸球は見られない→菊池病とほぼ同様
-
SLEによるリンパ節炎:核崩壊砕片(karyorrhectic debris)を伴う組織球に囲まれた傍皮質(HE染色x200)(Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341-1346.)
-
ヘマトキシリン小体(核DNA・多糖類・免疫グロブリンの凝集体)が最もSLEに特徴的
-
アポトーシスの残渣とヘマトキシリン小体(中央)を伴う広範な壊死(HE染色x400)(Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341-1346.)
-
壊死部分でのAzzopardi現象(ヘマトキシリン染色での核の凝集)を起こした血管が見られる場合がある
③悪性リンパ腫
組織による鑑別が重要
-
B細胞性リンパ腫…菊池病はB細胞関与がほぼ無いため、除外可能
-
T細胞性リンパ腫…両方ともT細胞が中心だが、菊池病の場合組織球のミエロペルオキシダーゼ陽性で鑑別可能
※リンパ節針生検…菊池病に典型的な組織を採取することは非常に困難→非推奨。切除リンパ節生検を行うべき。
【治療・予後】
-
通常対症療法のみで数ヶ月以内に治癒し、再発率は3-4%と低い
-
重症例・再発例では短期間のステロイド治療が行われる(投与量/期間の推奨はない)
-
再発・難治例…ヒドロキシクロロキン、重症例にはIVIG報告あり(Eur J Pediatr 2010; 169: 1557–1559.)
-
経過中にSLEを発症する(菊池病がSLEの先行症状だった)症例もあるため、長期フォローする必要がある
-
SLE発症高リスク群…関節痛・皮膚症状・皮膚炎があった症例、体重減少があった症例、血清検査陽性など(Medicine 2014; 93: 372–382)
参考:Arch Pathol Lab Med. 2018;142(11):1341-1346.