膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

IgG4関連疾患レビュー

Nat Rev Rheumatol 16, 702–714 (2020).
 
IgG4関連疾患の(IgG-RD)の病態生理・治療方針についての2020年レビュー
近年病態の理解が進み、治療法が変わりつつあることを反映してアップデートされている。

①総論

  • IgG4関連疾患は慢性的な免疫活性化・組織線維化を特徴とする自己免疫性疾患で、ときに致死的となりうる
  • 腫瘍に似た臓器腫大を起こし、多臓器に渡る
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IgG4関連疾患の臓器別症状
高頻度
涙腺:非症候性の腫脹、対称性が多い

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唾液腺:非症候性の腫脹、対称性が多い
膵臓:びまん性腫脹、糖尿病、外分泌低下
後腹膜:大動脈周囲の軟部組織腫大
中頻度
眼窩:症候性の腫瘤、外眼筋筋炎が多い
肺:腫瘤、結節、気管支壁の肥厚
胆道:肝内・肝外胆管の狭窄
腎臓:局所的な腫瘤、多発性が多い
低頻度
硬膜:造影効果を伴うびまん性肥厚
甲状腺:非症候性の腫大、対称性が多い
大動脈:壁肥厚、動脈瘤を起こすこともある
  • 日本の有病率は10万人あたり0.28-1.08人で、新規診断数は336−1300人/年

 

②臨床的な特徴

  • 慢性経過が特徴的で、急性・劇症・高度炎症反応はみられない
  • 多くは画像精査・病理検査で偶発的に発見される
    • →潜伏期間が長いため、IgG4-RD患者の60%は診断時に不可逆的な臓器障害を呈している
    • IgG4-RD患者が診断前に体重減少している→自己免疫性膵炎による外分泌腺機能障害・糖尿病が原因のことが多い→診断前に膵不全になっていることがある
  • びまん性腫大・壁肥厚が特徴的で、画像も典型的な例が多い…ソーセージ型膵臓、後腹膜線維症など
    • ソーセージ型膵
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    • 大動脈周囲の軟部組織腫大を伴う後腹膜線維症
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  • ステロイドへの反応性が非常に良いことも特徴的
    • ステロイドへの反応性が乏しい」ということは重要な除外基準

③病理的な特徴

  • "storiform"と呼ばれる不規則で渦巻き状の線維化パターンが特徴的(日本で言うところの花筵状線維化)
    • "storiform"…ラテン語で「織られたマット」の意味
  • 線維化部分の細胞外マトリックスにIgG4+形質細胞・CD4+T細胞が豊富なリンパ形質細胞が密集している
  • IgG4+:IgG+形質細胞比が重要…50個/HPF以上のIgG4細胞、IgG4+細胞が40%以上があるとかなりIgG4-RDらしい
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      • 前立腺HE染色:"storiform"に包まれたリンパ形質細胞浸潤
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      • 顎下腺IgG4染色:IgG4+形質細胞(茶色)が豊富
  • ただ「IgG4細胞が多い」=「IgG4-RD」ではないため、必ず臨床・血清学・画像評価と総合して評価する必要がある
    • 例)ANCA関連血管炎…腎臓・肺などにIgG4+形質細胞が蓄積していることがある→鑑別に注意
 

④IgG4-RDとB細胞

  • IgG4-RDはB細胞の病原性が病因に関わっている
    • IgG4-RD患者から自己反応性のあるBcellクローンが発見された→IgG4-RDは体液性免疫が自己抗原に対して攻撃することで起こっている?
    • IgG4-RD未治療患者の疾患活動性と活性B細胞の増殖は相関している→リツキシマブ(RTX)投与によるB細胞枯渇が有効?
 

⑤IgG4の抗炎症作用

  • 役割は未確定だが、観察研究で以下のことはわかっている
    • 診断時の血中IgG4濃度が高い場合、臓器障害高度・再発リスク高い
    • ただし、血中IgG4濃度はIgG4-RDの診断への特異性は低く、線維化との相関も乏しい
    • 治療するとIgG4濃度が正常するわけではない
  • 疾患→IgG4が抗炎症作用で増加→一次免疫応答を抑えようとするがうまく行かない→IgG4濃度がどんどん増加していく という仮説が立てられている
 

⑥IgG4-RDにおける自己抗体反応

  • T細胞(BAFT+TFH細胞)がB細胞に結合→抗体分泌細胞への分化を促進している
    •  

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    •  
      1. BAFT+TFH細胞がIgM+B細胞と結合
      2. IL-10によって(?)IgG4+メモリーB細胞・形質細胞に分化
      3. IgM+B細胞・IgG4+メモリーB細胞によってIgE+形質細胞が発生
      4. IgG4+/IgE+形質細胞がそれぞれ長期生存型形質細胞(LLPC)に分化し、骨髄内に循環する

⑦IgG4-RDの線維化メカニズム

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    1. 活性化B細胞が炎症を起こした組織に移動し、活性化CD4+T細胞に抗原提示
    2. CD4+T細胞が増殖し、CTL(細胞傷害性T リンパ球)への分化を促進→CTLが標的細胞のアポトーシスを誘導する
    3. CTLはTGFβを分泌し、マクロファージによるエフェロサイトーシス(アポトーシスした細胞の除去)が行われる
    4. B細胞からPDGFの分泌
    5. CD4+CTLからのIL-1β等の分泌
    6. マクロファージからのIL-10等の分泌→4−6によって線維芽細胞が活性化し、組織の線維化が起こる
    7. この結果、臓器の腫大が起こり、病理学上線維化・リンパ形質細胞浸潤が起こる
 

⑧IgG4-RDの治療

疾患機序の理解から急速に治療法が進歩している
 
⑧−1. 糖質コルチコイド(ステロイド
  • IgG4-RD治療の第一選択だが、漸減していくと再発することが非常に多い
    • 一方で長期使用は様々な問題を起こす…特に高齢者
  • ほぼ全患者がステロイドに対して反応するが、<40%の患者が5mg/dayでも完全寛解に至らない・1年以内に再発しているGut 58, 1504–1507 (2009). )
  • ステロイド+膵線維化による糖尿病が問題となることが多い
 
⑧-2. ステロイド以外の免疫抑制剤
  • 低用量シクロホスファミド(CY)とミコフェノール酸モフェチル(MMF)を使用した臨床試験があるが、併用しても再発率は結構高い
    1. 低用量シクロホスファミド(CY)Sci. Rep. 7, 6195 (2017).
      • ステロイド単剤 vs ステロイド+低用量CY50-100mg/day
      • →1年後の再発率は有意に低く(38.5% vs 12%)、2型糖尿病・骨髄抑制の発生率も低かった
      • ステロイド単剤群は10mg/dayを1年間投与したのに治療失敗率が39%もいる→ステロイド単剤での治療はかなり難しい
      • ※CY長期使用による影響には注意
    2. ミコフェノール酸モフェチル(MMFRheumatology 58, 52–60 (2019).
  • その他、アザチオプリン・メトトレキサート・ヒドロキシクロロキンを使用した報告はあるが、有用性は不明
免疫抑制剤を用いてのステロイドfreeの寛解維持は相当難しい
 
⑧-3. B細胞標的療法
  • リツキシマブ(RTX:CD20阻害薬)によるB細胞枯渇療法が非常に効果的
    • 腫瘤が消失することさえあるが、線維化した部分はそのまま?
    • 殆どの患者はRTXによる寛解導入療法で6ヶ月は寛解が持続し、18ヶ月続くこともある(PLoS ONE 12, e0183844 (2017). )
    • 現在維持療法についての研究も行われているが、非常に優れた効果が示されている(Eur. J. Intern. Med. 74, 92–98 (2020). )
  • RTX療法は、血清IgG4濃度・形質芽球数、血中・組織中CD4+ CTL数、線維化血清マーカー、組織線維芽細胞活性化を低下させる
  • RTXの効果は、IgG4−RDのメカニズムがB細胞に深く関わっているためと考えられている
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        • B細胞を枯渇→炎症組織へのCD4+CTLの遊走を阻害など
  • RTXの他、モノクローナル抗CD19抗体(XmAb5871)・abatacept・SLAMF7抗体(elotuzumab)などの治験が現在実施/計画中である
 

⑨結論

  • IgG4は免疫介在性の線維化疾患である
  • 特徴として、慢性経過・腫瘍のような腫瘤・特徴的な病理所見(線維化組織内のB細胞・T細胞・マクロファージの沈着)・ステロイドとB細胞枯渇療法に対する顕著な反応性が挙げられる
  • 活性化B細胞・CD4+T細胞の双方が病態の中心と考えられている
  • 機序の理解から新しい治療が徐々に現れつつあり、治療アプローチが大幅に変わる可能性がある
 

⑩感想

  • 慢性経過で自覚症状なく発見される疾患だが、発見された時点で不可逆的な臓器障害を呈している可能性がある、という点は恐ろしいことである
  • 病態へのB細胞の関与からRTXの有用性が確立しているが、現時点で日本では適応がない…
  • このためステロイド単剤での治療を余儀なくされるケースが多いが、副作用も多ければステロイドを減らすこともできないという状況になることが多いため、辛い
  • 今後の新規治療薬に期待したい