"Immune-mediated necrotizing myopathy: clinical features and pathogenesis." Nat Rev Rheumatol. 2020 Oct 22.
免疫介在性壊死性筋症(Immune-mediated necrotizing myopathy: IMNM)は多発性筋炎と区別される筋症の一群で
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急激な下肢優位の近位筋力低下
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かなり治療抵抗性を示す
という特徴があり、大別して以下の3つに分類される
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抗HMG-CoAレダクターゼ(HMGCR)抗体陽性筋症
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抗SRP抗体陽性筋症
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抗体陰性筋症
①概念・歴史
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特発性炎症性筋症(IIM=筋炎)は、筋肉や他臓器(皮膚、関節、肺、消化管、心臓など)に影響を及ぼす稀な自己免疫疾患の一群で、当初皮膚筋炎・多発性筋炎に分類されていた。
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その後病理的な違いがある例・特異的抗体(myositis- specific antibody: MSA)が発見されたことで、
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→多発性筋炎の中から免疫介在性壊死性筋症(Immunemediated necrotizing myopathy: IMNM)という一群が分けられた
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特異的抗体の中でも特に重要な抗体が、抗SRP・抗HMGCR抗体である
②診断
昔は筋生検が診断の基本だったが、抗体が発見された現在は必須ではない
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2003年基準…筋生検で「多数の壊死性筋線維」が存在すること
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必須の特徴* 筋生検では壊死性筋線維が散在* 壊死の異なる段階が同時に見られる(筋貪食と再生)* マクロファージを主成分とする"Paucilymphocytic"な浸潤
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ただその後、重症例で筋炎症が顕著に起こることがわかった→診断基準見直し
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血清クレアチンキナーゼ(CK)値が上昇
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主に下肢に近位筋力低下がある
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抗HMGCR/抗SRP抗体がある
→抗HMGCR/抗SRP抗体筋症と分類され、筋生検不要の可能性がある。
しかし、抗体陰性・抗体検査ができなかった場合・臨床所見が非特異的な場合は、筋生検が必要+薬剤性筋症の除外もすべき
抗SRP抗体陽性筋症
1980年に発見され、特徴的な抗体の構造からsignal recognition particle (SRP)抗体と命名された
抗HMGCR抗体陽性筋症
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コレステロール生合成のステップのうち、HMGCoAをメバロン酸へと変換する触媒がHMGCRである
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スタチンもHMGCR阻害薬である
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横紋筋特異的なHMGCRの変異によって筋融解を起こす
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スタチンに暴露した患者の最大20%が筋症状を起こすが、大半はスタチンの直接的な毒性によるものでHMGCR抗体とは関係ないことが多い
→HMGCR抗体の有無によって、スタチン筋症の原因を免疫性か薬剤性かに分けることができる
③疫学
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免疫介在性壊死性筋症は未だに多発性筋炎と護身されることが多く、発生率は正確には不明
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発生率100万人あたり1.15-19人、有病率10万人あたり2.4-33.8人
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抗SRP抗体陽性筋症
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40-50代が好発年齢だが、若年でもある
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若年性特発性筋炎の4%で、女性・女児に多い
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発症リスクはよくわかっていない
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抗HMGCR抗体陽性筋症
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特発性筋炎の6-10%
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40歳以降の女性に好発するが、小児も多い
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スタチンが発症のきっかけになるといわれている
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血清抗体陰性筋症
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特発性筋炎の10~12%
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リスク/併存疾患として悪性腫瘍がある
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SRP抗体・HMGCR抗体陽性筋症と癌の関連はあまりない
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免疫介在性壊死性筋症のミミック
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特発性筋炎との鑑別は難しい…RNP抗体・Ku抗体陽性筋炎、全身性強皮症は壊死性筋炎の病理所見を示しうる
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筋外症状で鑑別する
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皮膚変化…強皮症の皮膚硬化
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関節痛・滑膜炎…SLE・MCTD
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間質性肺炎…強皮症・皮膚筋炎
④臨床症状
筋症状
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抗体陽性壊死性筋症…HMGCR、SRP
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3分の2以上が急性(数週間以内)~亜急性(6ヵ月未満)の発症である
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→遺伝子検査の前にSRP/HMGCR抗体検査を検討すべき
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下肢優位の近位筋筋力低下が多い
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SRP抗体陽性筋症は他と比較して嚥下障害が多く(30-70%)、筋力低下が重度で筋萎縮も頻繁に見られる
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HMGCR抗体陽性筋症での嚥下障害は25%未満
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CK著明高値は典型的…(6,000~8,000IU/l、正常値の上限値の30倍以上)→CK正常ならほぼ壊死性筋症は否定的
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ただ、罹病期間が長く重度の筋萎縮を持つ症例では低下していく可能性がある
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血清抗体陰性筋症
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急性経過が多い
筋肉外症状
…あまりない
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抗SRP抗体陽性筋症
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間質性肺疾患…大半は無症候性
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心筋炎…患者の20-40%に起こる
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胸痛、動悸、うっ血性心不全、心電図エコー上の変化などが起こる
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免疫療法での良好な反応が示されている
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抗HMGCR抗体陽性筋症
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ほぼ筋肉外症状はないが、心疾患が少数報告されている
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血清抗体陰性筋症…筋肉外症状についてはよくわかっていない
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抗SRP抗体
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抗HMGCR抗体
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筋症状
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||
重度の筋萎縮
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+++
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++
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血清CK値(IU/L)
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4000-8000
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4000-8000
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重度の筋損傷
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++
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++
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心筋炎
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+
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-
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筋外症状
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||
間質性肺疾患(%) |
20-40
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<5
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悪性腫瘍リスク
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-
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+/-
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④経過と予後
主な死因は悪性腫瘍と心疾患
⇨血清抗体陰性筋症・抗HMGCR抗体陽性筋症は悪性腫瘍スクリーニング、抗SRP抗体陽性筋症は心筋炎のスクリーニングを受ける必要あり
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血清抗体陽性筋症
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重篤な筋障害をきたし、治療開始から2年の時点で患者の25%が日常生活に支障をきたす
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発症年齢が若ければ若いほど筋力低下が重度
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HMGCR抗体陽性筋症患者のうち、治療開始後4年で完全な筋力回復を得たのは若年者(50歳未満)のたった半数(高齢者では大半が回復)
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筋損傷の重症度は、発症から治療開始までの時間・罹病期間に依存する
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特発性筋炎と比較して、免疫介在性壊死性筋症は大腿部の筋萎縮比率が高い
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抗SRP抗体陽性筋症は、HMGCR抗体陽性筋症よりも筋萎縮・脂肪変性が多い⇨SRP抗体のほうが重症例が多い
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患者の大半は長期での免疫抑制/調整薬での治療が必要
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血清抗体陰性筋症
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生命予後は血清抗体陽性筋症と比較して悪い(3年生存率97%vs83%; p<0.05)…悪性腫瘍との関連
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悪性腫瘍を伴う筋症の生存率は、悪性腫瘍のない筋症と比較して圧倒的に悪い
⑤病態
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抗体価は疾患活動性・血清CK値と相関している
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筋鞘への補体沈着・補体活性化徴候あり⇨筋壊死は抗体・補体依存性?
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抗体が細胞表面の自己抗原に結合⇨筋繊維に侵入+抗原への補体結合⇨筋壊死を起こす
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SRP/HMGCR抗体両方が筋繊維の萎縮を誘発することがin vitroで立証されている
⑥治療
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基本的に当初からステロイド(1mg/kg)+steroid-sparing agent併用療法を行う
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重症例では、血漿交換・リツキシマブ(SRP抗体陽性例のみ)・IVIG考慮
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ステロイドを減量していくが、治療抵抗性の場合IVIGを考慮する
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ほとんどRCTは組まれていない⇨治療はだいたい経験的なものが多い
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ステロイド単剤での治療は、大半で失敗する
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筋力低下がなく、血清CK上昇のみで早期診断された壊死性筋症ではステロイドを用いない治療導入が推奨される
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steroid-sparing agent
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最初にメトトレキサート(MTX)使用が推奨
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MTX使用できない例にはAZP・MMF考慮する
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SRP抗体陽性筋症にはリツキシマブ(RTX)の有効性が示唆されているが、HMGCR陽性筋症では目立った有効性なし
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HMGCR抗体陽性筋症患者に対して、治療6ヶ月以内に十分な治療効果がない場合はIVIG使用を考慮する
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ステロイドを使用していないHMGCR陽性筋症にもIVIGは有効
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スタチン誘発性HMGCR抗体陽性筋症の場合、スタチンの代替薬としてPCSK-9阻害薬使用を考慮する
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内科的な治療に加えて、理学療法を行うことが重要
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ステロイドによる筋萎縮に注意
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悪性腫瘍関連血清抗体陰性壊死性筋症
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免疫チェックポイント阻害薬は基本的には推奨されない
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⇨IVIG考慮
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今後の課題
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積極的な治療を行って血清CK値正常化しても筋損傷が不可逆的になる場合がある
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再発率が高く免疫抑制剤の増量が必要となる場合が多い⇨いつどうやって治療を中止するか予測することは困難
⑦まとめ
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抗SRP/HMGCR抗体の発見によって、免疫介在性壊死性筋症という概念ができた
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免疫介在性壊死性筋症は下肢優位の重度の近位筋筋力低下が特徴的で、大半は急性発症である
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抗SRP/HMGCR抗体陽性例では血清CKは高値であるが、筋肉外症状は少ない
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血清抗体陰性筋症では悪性腫瘍が関与している可能性がある
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免疫介在性壊死性筋症は、寛解しても筋力が回復しないことが多く、不可逆的な筋損傷が起こる
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一方で、免疫抑制剤を漸減・中止すると再発するリスクは高い
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補体カスケードの活性化が病態に大きく関与されていることが最近になってわかっており、今後補体阻害薬の使用による新規治療が出てくるかもしれない