膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ベッド上安静の危険性と問題点

全くリウマチ関係ないですが、ホスピタリストとして好きな論文。
Inpatient Notes: Bedrest Is Toxic—Why Mobility Matters in the Hospital
Ann Intern Med. 2018;169(2):HO2-HO3.
 

 

ベッド上安静を防ぐ3ステップ
1.入院時のADLの評価を必ず行う
2.ADL評価後、どの程度の運動を行うか目標を立てる
3.日々コメディカル・患者とmobility planに関して議論する
 
1944年の論文から「症状安静は非常に危険なことであることを認識し、特定の状況でのみベッド上安静とし、できる限り早く中止しなければならない」と言われているように、昔からベッド上安静の危険性は認知されている。(JAMA. 1944;125:1083-85.)
特に高齢者(65歳以上)はそのリスクが高い。退院後、高齢者の3分の1にADL(日常生活動作)の低下が見られる。(JAMA. 2011;306:1782-93. )
 
それを助長するのが、「離床センサー」

  • 離床センサーをつけると、活動量は大幅に減る。
  • 離床センサーつけると普通のADLの人ですら平均45分しか離床しない(J Am Geriatr Soc. 2009;57:1660-5.)
  • 活動性の低下の「閾値」を超えると非常に危険。(Harmful Effect)=「毒」と呼べるレベル
ベッド上安静は入院患者を蝕む「毒」でありホスピタリストは対策を標準的に実施しなければならない
以下の3つを実施しよう
1.入院時のADLの評価を必ず行う
  • 例)Braden scale(褥瘡リスク評価スコア)を用いる
      • 6個の評価項目(知覚,湿潤度,活動性,可動性,栄養状態,摩擦)での評価
      • 15~16点:褥瘡低リスク(mild risk)
      • 12~14点は中リスク(moderate risk)
      • 12点未満は高リスク(serious risk)となる。
  • ※別にBraden scaleに限る必要はない
 
2.ADL評価後、どの程度の運動を行うか目標を立てる…mobility planの立案
  • mobility planは入院早期に計画する
  • mobility planはかなり軽視されており、そのせいで施設入所が多くなっている可能性あり(Intern Med. 2018;33:678-684. )
  • mobility planの実例は下図の通り(個人的にはこの図が一番重要と感じる)…ペンシルバニア大学で用いられる患者説明用の図
    • 「ベッド上時間」「座位時間」「歩行時間」から分類
    • ほぼベッド上(赤)…目標:ベッド上座位30分x3回/日
    • 10%座位・90%ベッド上(黃)…目標:椅子座位30分x3回/日
    • 30%座位/歩行・70%ベッド上(青緑)…目標:介助ありで、立って椅子に移動する
    • 70%座位/歩行・30%ベッド上(青)…目標:介助ありで、1日3回歩行
    • 70%座位/歩行・30%ベッド上(緑)…目標:1日3回歩行
  • 寝たきりの人以外はベッド上安静の指示を出してはならない
  • 体力が基準に達しない人はproblem listに「運動障害」「廃用」を追加することを推奨する
 
3.日々コメディカル・患者とmobility planに関して議論する
  • 回診の際に看護師・患者とともにmobility planを日々話し合うことをルーチンとする
  • 決して理学療法士作業療法士に全例相談(リハビリテーション依頼)する必要はなく、病院ボランティア等の患者の歩行/移動に関わる人と話し合うことが有用。
 
この3ステップによって、退院時のADLを向上させ、施設/療養型病院への転院数をへらすと思われる。逆にmobility planの軽視は入院中のADL低下の一因となる。
患者のADL向上・ベッド上安静という「毒」の中和にホスピタリストは主導的な役割を果たすべきである。
 
(感想)
高齢者の入院においてADLの低下はつきものではあるが、その対応策を論じた素晴らしい論文。たった2ページではあるが、いつも読み返させていただいている。
「どれだけ動けるか」「どれくらい動かせられるか」という問題は、決してリハビリテーション科、理学/作業療法士の方々だけの問題ではなく、入院管理をするものとして常に考えなければならないことである。