"Inappropriate Prescription of Proton Pump Inhibitors in the Setting of Steroid Use: A Teachable Moment."
JAMA Intern Med. 2016 May 1;176(5):594-5.
「60代女性が突発性難聴の診断でPSL60mg投与され、消化管潰瘍予防目的でPPIが併用された。9日後、彼女はPPIによる重症薬疹(DRESS症候群)で入院となった。この患者にPPIは必要だったのか?」
という教育用資料である。それに乗っていたエビデンスが気になっていろいろ調べてみました。
いろいろな本で「ステロイド投与と消化管潰瘍は相関なく発生率はまれ」というエビデンスのもととなっているのが→Ned Tijdschr Geneeskd. 2013;157(19):A5540 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23657097
簡単に言えば「26の研究のメタ解析」である。その結果としては、
・消化管潰瘍は、ステロイド患者の0.4〜1.8%にしか起こらないまれな合併症である
・NSAIDsの使用によってリスクは上昇するが、それを除けばステロイドと消化管潰瘍に有意な相関なし、という意見であった。
また重症患者に関して絞った研究もあり、
Acta Anaesthesiol Scand. 2018 Oct;62(9):1321-1326. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29797714
というところであった。
英語のメタ解析で引っかかったのが↓
BMJ Open. 2014 May 15;4(5):e004587. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24833682 で、オープンジャーナルだがメタ解析としてよくまとまっていた印象。
159の研究(合計33,253人の参加者)のメタ解析
・入院患者に関しての研究ではステロイド単独で消化管潰瘍リスク増(OR1.42(1.22-1.66))
・外来では相関なし
・NSAIDs・消化管潰瘍既往・胃保護薬の使用に関しては、それぞれについて解析してみれば有意な相関はない。
ということでこの研究に限れば、ステロイド使用患者における消化管出血/潰瘍は外来治療ではリスク増加なし、入院患者では統計的に優位、という結果であった。
ステロイドによる消化管潰瘍の機序だが、”Ned Tijdschr Geneeskd. 2013;157(19):A5540”に考察があり、紹介。
・ステロイドはCOX-2の阻害を起こし、胃保護物質の酸性を低下させる→COX-1も阻害するNSIADsの併用により、NSAIDs潰瘍のリスクを増大させる
・胃粘膜再生を阻害する
・ヘリコバクター・ピロリ感染においてのリスクになる(かもしれない)
という3点が紹介されている。
(感想)
機序を考えてみると、NSAIDs併用がとにかく危険、という理由には一応の納得がいく。
・潰瘍の発生率というものは上記のように非常に低く、そのためにPPIを飲ませる意味はあるのか?
・PPIによる副作用リスクを考慮しているのか?
といったところが問題になり、非常に難しい話となっている。少なくとも「ステロイドユーザーに全例PPI」ということにはなんの意味もなく、色々議論の余地がある話なのだろう。各々の症例でそれぞれ必要性を吟味すべき、というのが妥当と思った。
まとめ
・PPIは各々の症例のリスクを吟味して処方すべきと思われる。