膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

RA患者でのステロイド/PPI併用による骨折リスク増加

Abtahi S, Driessen JHM, et al. "Concomitant use of oral glucocorticoids and proton pump inhibitors and risk of osteoporotic fractures among patients with rheumatoid arthritis: a population-based cohort study." Ann Rheum Dis. 2020 Dec 11:annrheumdis-2020-218758.
 
経口糖質コルチコイド(以下ステロイド)とプロトンポンプ阻害剤(以下PPI)は、RA患者によく出されるセット処方である。
ステロイドは言わずとしれた骨粗鬆症性骨折のリスクである一方、PPIも骨折を増やすのではないか?と言われている
→併用すると骨折リスクがどうなるかを大規模データベースで検証した
 
先に結論:RA患者にステロイドPPI併用すると、骨粗鬆性骨折はPPI非併用と比較して1.6倍になる

前置き

  • 関節リウマチ(RA)そのものが骨粗鬆症のリスクであり、ステロイド投与によって5年後骨折率は最大35%に上昇する
  • ステロイドの他、NSAIDs・PPIもRA患者にはよく処方されるが、骨粗鬆症リスクを高めることが知られている
    • PPIによるカルシウムの吸収低下が原因と思われる
  • PSL≧15mgとPPI併用すると、大腿骨骨折リスクが2.4倍になると先行研究で示されている(Osteoporos Int 2011;22:903–10.)
  • →RA患者ではどうだろうか?
 

方法

P:1997〜2017年の間にClinical Practice Research Datalink(イギリスのプライマリケアデータベース)に登録された50歳以上のRA患者でのコホート研究
  • 除外条件
    • RA診断から1年以内にステロイドPPI使用している患者
    • 診断前に骨粗鬆性骨折のあった患者
I:ステロイド内服・PPI併用
C:ステロイド内服・PPI非併用
O:Primary…骨粗鬆症性骨折(股関節、椎骨、上腕骨、前腕、骨盤、肋骨)の発生率
    Secondary…ステロイド/PPIの1日平均投与量・累積投与量
ライフスタイルパラメータ、併存疾患、合併症調整後時間依存Cox比例ハザードモデルに組み込んで解析
  • 交絡因子…BMI、喫煙飲酒、併存疾患、併用薬剤など
 

結果

  • 死亡・除外条件を覗いた結果、RA患者12351人が対象→1411 件の骨粗鬆症性骨折が発生
  • PPI併用群は非併用群と比較して、1.5歳若い・BMI高め・NSAIDs併用多め・ステロイド使用歴短めという特徴があった
  • 併用群は非併用群と比較して、骨粗鬆性リスクが1.6倍に増加(調整後HR 1.60、95%CI:1.35~1.89)
    • GCPPIの単独使用では骨粗鬆性リスクが1.2倍に増加→併用によって統計学的有意に骨粗鬆症が増加した

  • 骨折部位別に見ても、併用によって殆どの部位で骨折増加
    • ステロイド/PPI併用で椎体骨折リスクが2.8倍、骨盤骨折リスクが2.5倍、肋骨骨折リスクが4倍
    • 上腕骨・前腕(橈尺骨)骨折リスクは上げなかった
  • ステロイドPPI用量別の骨折リスク…PPI用量での骨折率変化なし、PPI短期使用は骨折リスクが上がるが長期使用は骨折と相関なし
      • 当然だが、ステロイド用量が上がると骨折リスクは上がる
 

Discussion

  • RA患者でのステロイド/PPI併用は骨粗鬆症性骨折リスクを上げる
  • 非RA患者に対する観察研究メタアナリシス…PPI使用で股関節・脊椎の骨折リスクは増加する(Am J Med 2011;124:519–26.)
  • 他研究ではRA患者でのPPI使用で骨折増えるということは言われていない→BP製剤使用が多いため?
  • ステロイドPPIはそれぞれ別の経路で骨粗鬆症リスクを上げていると思われる
    • ステロイド…骨代謝への影響+長期使用による筋萎縮・白内障→骨折リスク増大
    • PPI…おそらくは吸収不良によるものだが、よくわかっていない
  • この研究の強みは
    • 大規模データベースで実施したこと
    • 追跡期間がかなり長い(9.1年)
    • バイアスを避けるために詳細な解析を行った
    • 薬剤の投与量・頻度等を層別化した
  • limitation
    • RAの活動性を評価していない→交絡因子となっている可能性ある(RA活動性高いと骨折リスクが高い)
    • データベース上の処方しか評価していない→市販薬に関しては不明
    • PPIの骨折リスクが増加する理由は現状不明(リスクが上がることは証明されているが)→正確に交絡因子を除去できているか評価できない
  • 結論
    1. ステロイドPPIの併用は骨粗鬆症性骨折のリスクを上げる
    2. RA患者に経口ステロイドPPIを併用している場合、骨折リスク評価を検討すべき
 

感想

  • PPIは「消化管潰瘍予防」として頻用されるが、弊害ももちろんある
  • PPIによるリスクは肺炎、骨折、Clostridium difficile 感染、CKD、認知機能障害がある
    • "Proton pump inhibitors: Overview of use and adverse effects in the treatment of acid related disorders" UpToDateより
  • この論文でも補強されるように、「RA患者だから」「ステロイドを飲んでいるから」という理由でのPPIはやめたほうがいいだろう
    • もちろん消化管潰瘍リスクが有るなら入れたほういいに決まっているが…
  • 少なくともこのセット処方をするなら骨粗鬆症対策だけはしっかりやったほうがいいだろう
以下余談
  • PSLそのもので消化管潰瘍リスクは上がらないとは言われている(Ned Tijdschr Geneeskd. 2013;157(19):A5540)
  • このためPSL全例でPPI処方する必要はないのだが、メタ解析を見てみるとPSLでの消化管潰瘍リスクを上げるのは「入院」(OR1.42(1.22-1.66))(BMJ Open. 2014 May 15;4(5):e004587.)というデータはある→入院患者には短期的に出してもいいのかもしれない…