膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

Tocilizumabと下部消化管穿孔リスク

Risk for lower intestinal perforations in patients with rheumatoid arthritis treated with tocilizumab in comparison to treatment with other biologic or conventional synthetic DMARDs. Ann Rheum Dis. 2017;76(3):504-510.
最近適応が広がり知名度も上がっているTocilizumabだが、CRPをマスクしてしまうことの他に「下部消化管穿孔リスクがある」という問題点がある。
 下部消化管穿孔リスクを評価したコホート研究。
結論:確かにTCZは下部消化管穿孔リスクを上げる

【前置き】

  • 関節リウマチと消化管穿孔リスク関係は昔から言われており、昔は高用量ステロイドとNSAIDsの使用が主な原因であった
  • 治療の進歩で高用量ステロイドの使用頻度は減り、最近ではTocilizumab(TCZ)等のIL−6阻害薬が消化管穿孔のリスクとして指摘され、腸管憩室がある例では慎重投与とされている
    • TCZの臨床試験の長期観察報告で、TCZ暴露群の消化管穿孔例が26例(100人年あたり2.8例)と高率であったことが根拠となっている(Arthritis Res Ther 2011;13:1–13.)
  • ただ、実臨床で消化管穿孔がどれくらい起こるのか?というのはわかっていない
    • ※表:ランダム化比較試験(RCT)でのIL-6による消化管穿孔(EULAR2019推奨より、Ann Rheum Dis. 2020;79(6):760-770.)
      • ほとんど観察期間中に消化管穿孔が起こった例がなく評価が難しい
  • データベースからの観察コホート研究でどれくらいの頻度で起こるのかを調べてみた 

【方法】

  • 患者:ドイツの生物学的製剤の投与を受けている関節リウマチ患者データベース(RABBITデータベース)を使用(〜2015年10月31までのデータ)
  • 収集データ:ベースライン及び定期的なフォローアップ時のデータ…DAS28等の疾患活動性、治療内容、NSAIDsの併用有無、ステロイドの投与量、有害事象など
  • Outcome
    • Primary: TCZ、csDMARDs、TNF阻害薬(TNFi)、Abatacept(ABA)、Rituximab(RTX)を投与された患者における下部消化管穿孔(lower intestinal perforations: LIP
    • Secondary: 下部消化管穿孔の臨床徴候・症状
      • ※下部消化管穿孔は、十二指腸空腸接合部(トライツの靭帯)の下に局在する穿孔のみと定義した
      • ※bDMARDs(生物学的製剤)暴露は、下部消化管穿孔の3ヶ月以内(RTXは9ヶ月)に1回以上の薬物投与を受けた場合に暴露と定義
 

【結果】

  • 13,310人の患者がRABBITデータベースに登録
      • TNFi群は若干年齢若い
      • 非TNFiバイオ群(TCZ・ABA・RTX)は治療期間が長く、以前の治療失敗が多く、また以前にTNFiを使用している頻度が高い
      • ベースラインの消化管疾患患者はcsDMARDs(非bDMARDs)群で最も低く、ABA群で高い
        • うち、慢性憩室症患者は33人いた
        • ベースラインの消化管疾患患者全員、フォロー中に消化管穿孔を起こさなかった
  • 消化管穿孔発生率
    • 消化管穿孔の可能性がある141の有害事象が報告→内外部のレビューの結果44例の消化管穿孔あり
    • 44例中、7例が上部消化管穿孔・37例が下部消化管穿孔
      • 上部消化管穿孔は3例TNFi・4例csDMARDsで、TCZ・ABA・RTX群では発生しなかった
      • 37例の消化管穿孔のうち、結腸/S状結腸に32例・虫垂に4例・回腸末端に1例発生
    • TCZ群での下部消化管穿孔発生率は有意に高かった…1000人年あたり2.7例(95%CI 1.4〜4.8)
  • 治療内容:下部消化管穿孔患者での臨床的特徴に関して群間での有意差はなかった
    • 下部消化管穿孔を起こした患者37例中28例でステロイドを併用し、うち12例では>7.5mg/day
    • TCZ群はTNFiと比較してステロイド平均投与量は少なめ
  • 単変量解析…高齢、TCZでの治療、現在及び累積ステロイド投与、累積NSAIDsが下部消化管穿孔のリスク
    • 性別、疾患活動性(DAS28)、BMI、生物学的製剤の使用経験数は相関なし
  • 多変量解析
    • 高齢、TCZでの治療、現在及び累積ステロイド投与、累積NSAIDsが下部消化管穿孔のリスク
    • csDMARDs群と比較してTCZ暴露は下部消化管穿孔のリスクが4.5倍(95%CI 2.01~9.99)になった
      •  
  • 下部消化管穿孔の症状
    • TCZ群の下部消化管穿孔での急性腹症の訴えは27%(3例)しかなく、TNFi・csDMARDs群と比較して低めである
    • TCZ群は下部消化管穿孔を起こしてもCRPが高くならない(CRP上昇は1例のみ)
    • 下部消化管穿孔は複雑性憩室炎に分類されるが、TCZ群は憩室炎のうち消化管穿孔を起こす割合が他群よりも有意に高い
      • TCZ群は憩室炎の発生率・消化管穿孔での30日死亡率も有意差はないが高め
 

【Discussion】

  • csDMARDs・他bDMARDsで治療された患者と比較して、TCZで治療された患者は下部消化管穿孔のリスクが高まる
  • 下部消化管穿孔自体は稀なイベントではあるが、死亡率は高い
    • 消化管穿孔の発生率は以前のコホート研究とほぼ同様
  • 下部消化管穿孔のリスクとしては、TCZの他に高齢・ステロイド・NSAIDsが挙げられる
  • IL-6阻害薬で消化管穿孔が多くなる仮説…IL-6受容体は腸のバリア機能において重要な役割を持っており、炎症を起こした憩室を保護する役割を持っているため?
  • Limitation
    • 憩室炎・慢性憩室症等のリスクを元々持つ患者はだれも下部消化管穿孔を発症しなかったが、以前の報告ではリスクとして報告されており、バイアスになっている可能性あり
    • 下部消化管穿孔数が少ないことに注意

【結論】

  • TCZは下部消化管穿孔のリスクで、1000人年あたり2.7例発生する
  • TCZ使用中に下部消化管穿孔を起こした患者は、誰も憩室炎の病歴がなかった
  • TCZ使用中の下部消化管穿孔は、比較的軽い症状しか起こさず、CRPも上昇しにくいことに注意が必要→リウマチ専門医以外に対して、その特徴を把握するようにアドバイスする必要がある
 

【感想】

  • bDMARDs導入の際にCTで偶発的に大腸憩室が見つかったからと言ってTCZを避けたほうがいいのだろうか?と思って読んでみたが、積極的に避ける必要があるかというと微妙なところではある
    • ※本研究では憩室症がある症例での下部消化管穿孔発生例はなかった。サンプル数が少ない可能性には注意。
    • 逆に下部消化管穿孔が起こった症例は、全例消化器疾患がなかったのでTCZ投与されている全例で下部消化管穿孔に注意が必要
  • ただ、TCZ導入での下部消化管穿孔及び死亡リスクは高くなることには注意が必要
    • とはいっても、1000人年あたり2.7例という稀な合併症である点には留意
  • とはいっても、臨床的には「TCZしか使えない」という場面が多くあるので、注意しようがないような気はする
    • RAならまだ避けようがあるが、巨細胞性動脈炎等の治療選択肢がない患者では特に難しい
    • 他の下部消化管穿孔リスクとして高齢・NSAIDs・ステロイドがあるが、個人的にはTCZ入れる人は大体その3つがあるような気がしてならない
  • そういう症例でのTCZ導入はリスクを天秤にかけて導入する・リスクは患者にきちんと説明する、とかが方法なのだろうか?