膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

偶発性関節リウマチ間質性肺疾患とメトトレキサート治療の関連

Is incident rheumatoid arthritis interstitial lung disease associated with methotrexate treatment? Results from a multivariate analysis in the ERAS and ERAN inception cohorts
BMJ Open. 2019; 9(5): e028466.
オープンジャーナルではあるが、結構面白い論文だと思ったので紹介。

 

まえがき:
・MTX(メトトレキサート)はRA(関節リウマチ)治療における「アンカードラッグ」であり、RA 患者の心血管系リスク含めた死亡率軽減に貢献していると考えられている(Am J Cardiol. 2011 Nov 1;108(9):1362-70. )。
・しかしその有害事象として過敏性肺炎等のILD(間質性肺障害)をきたすリスクが知られている。
・一方でRA自体もILDを起こすことが知られており、ILDを起こすとMTXは控えがちになってしまう。
MTX使用によってincidental ILD(偶発的に見つかったものも含めたILD)のリスクはどう変わったのかを調べたコホート研究
 
対象:RAと新たに診断された2701人…イングランドウェールズアイルランド等の23病院・25年間(1986-2012)
計92人がILD症例 →コホート解析
MTX暴露あり:1578人の中ILD症例39人(2.5%)
MTX暴露なし:1114人の内ILD症例53人(4.8%)
RA診断後のILD発生例のみでの解析(n=67)
 ・MTX暴露とincident RA-ILDは関連しなかった 
 ・MTX暴露とILD診断の遅延の関連なし
RA診断前のILDを含んだ解析(n=97)
 ・MTX暴露はRA-ILD発症リスクを低下させる   
 ・MTX暴露はRA-ILD診断までの時間短縮となる
Incident RA-ILDの独立リスク:RA発症年齢が高齢、喫煙歴、男性

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RA-ILD発症リスクのロジスティクス解析

RA-ILD発症と関連する因子としては、RA高齢発症・喫煙歴・リウマトイド結節・男性・ESR・最初のRA症状からの二次医療機関初診までの時間が長い であった。

MTX暴露は発症と関連しない、ないしはリスクを低下させている傾向であった。

(考察)
MTX暴露とincident RA-ILDの関連性は乏しかった。おれどころかMTX暴露はincident RA-ILDの有意な減少と関連していた。→RA-ILDリスクでMTXを控える意味はない、それどころかMTXはRA-ILD発症を遅らせている可能性がある、と筆者は主張
リスクを考えると、喫煙歴のある高齢男性のRA患者はRA-ILD発症に特に注意する必要がある。
RA症状からの最初の受診までの時間とRA-ILDの発生率は有意な関連性がある→治療の遅れに伴ってRA-ILDのリスクは上がっている?
別研究ではCCP抗体陽性とILDが強い関連を示していたが、本研究ではn数的に解析できなかった。
(結論)
・RA-ILD発症と関連する因子としては、RA高齢発症・喫煙歴・リウマトイド結節・男性・ESR・最初のRA症状からの二次医療機関初診までの時間が長い というものがあった
・incident RA-ILDとMTX暴露の関連はなかった。
・MTXはRA-ILDの発症を遅らせるのかもしれない。
 
(感想)
RAはよくILDを起こすが、その原因が
 ・薬剤性
 ・RA-ILD
 ・感染  のうちどれが原因なのかはっきりわからないことが多い印象。
・MTX肺炎頻度としては0.2-11.6%といわれているが(Ann Intern Med 1997;127(5):356-64)、確たるものはない。
・投与後32w以内の発生が半数を占め、導入比較的早期が多い(J Rheumatol 2001;28(3):502-8)。
・起こる原因もよくわかっていないようであるが、
  1. 過敏性肺炎
  2. 直接毒性
  3. ウイルスに伴うもの があげられている。(up todate "Methotrexate-induced lung injury" 2019/10/9閲覧)

この論文見る限りは、肺障害が過剰に心配されている気がしてならない。実際海外でもその論争はずっとやっている模様(https://www.mdedge.com/rheumatology/article/199909/rheumatoid-arthritis/methotrexate-pneumonitis-called-super-rare)…MTX肺炎は滅多にないと主張

ほぼすべてのRA治療薬が肺障害リスクあるため、RA-ILDが見つかるとPSL(+あえていえばタクロリムス)以外積極的には使用しがたい風潮があり、この辺の研究がもっと進むとRA-ILD患者のQOL向上につながるのになー、と思う。

 

まとめ

・MTXの肺障害は思ったよりもないのかもしれない

・RA-ILD患者のRA治療に関しては、今後影響を与えうるのかもしれない