膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

CADM(臨床的に筋症状を欠く皮膚筋炎);臨床的な特徴、薬剤反応性、悪性腫瘍のリスクファクター

論文の中身より、その疾患概念の勉強としてまとめました。皮膚科にこういう人は行きますが、内科の対診が重要と改めて実感。

Clinically amyopathic dermatomyositis: clinical features, response to medications and malignancys-associated risk factors in a specific tertiary-care-centre cohort.
 Br J Dermatol. 2016 Jan;174(1):158-64.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=26490490

 


要約翻訳(一部自分の補足あり)
バックグラウンド:CADM(臨床的に筋症状を欠く皮膚筋炎)は、筋炎を伴わないが、皮膚筋炎に典型的な皮膚症状を特徴とする病態で、皮膚筋炎(DM)の一亜型である。ピアレビューされた先行研究は、CADMの特徴に関して詳しくない。
目的:単一施設(アメリカ:クリーブランドクリニック)で2004-2014年にDMの病名がついた患者を後ろ向きに調査し、CADM患者の臨床的特徴・薬剤への反応性・悪性腫瘍のリスクファクターを調べた。
方法: 
治療開始前に得られていた臨床データ・血清学的データをに基づき、CADMの患者44人を対象にレトロスペクティブレビューを実施しました。
(658人中、249人が臨床データ・血清学的データ利用可能。その他は除外。そのうち44人がSontheimerの基準に該当しCADMと診断)

CADMの診断基準:(本文には J Am Acad Dermatol 2002; 46:626–36. から引用したとの表記あるがそちらを読んでも、見る限りはCADMの「診断基準」自体は書いてない…。イントロでは以下の通りに表記あり)
以下の3つを満たす
1.大項目3つを満たすor大項目2つ+小項目1つ以上を満たす
 大項目:ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候、ゴットロン丘疹
 小項目:首/胸上部の激しい紅斑、腰部外側/大腿部の激しい紫の紅斑(violaceous erythema)、機械の手、 石灰化、掻痒症、皮膚潰瘍)
2. 皮膚DMと一致する生検結果
3. 皮膚疾患の発症から6か月以内に筋炎の臨床的/血清学的特徴がない
(元論文 J Am Acad Dermatol 2002; 46:626–36. には”Amyopathic Dermatomysitis”の定義として皮膚症状出現後の6ヶ月以内に免疫抑制療法を行なった期間が2ヶ月以上もの・スタチン等の薬剤性DMの原因となる薬剤を使用しているものは「除外」する、とは書いてある)

結果: 

・CADMの患者は、DM全体の18%(44/249)を占めていた。
・大多数の患者は初期治療で改善を示したが、その大半はCADMのコントロールに追加の投薬が必要だった。44人中6人に関連する悪性腫瘍がありました。は、悪性腫瘍がないことと関連していることがわかった(それぞれP=0.03, P=0.02)。悪性腫瘍関連CADMの患者は、悪性腫瘍のない患者よりも初期治療で皮膚反応を起こす可能性が高いことがわかった(P=0.04)。
結論: 

CADMは、DMの重要な亜型である。従来のDMと同様に、CADMの皮膚症状には治療上の課題が残っている。CADM患者の一部には悪性腫瘍が潜在しており、古典的DMとは異なるのかもしれない。CADM患者のうち悪性腫瘍の有無で、血清学的異常・皮膚症状初期治療への反旺盛が異なることがわかり、CADM内で異なる病態があることが示唆された。このコホートによって、CADMというDMの亜型に関する知識が広がる。

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(考察)
・CADMはDMの内の5ー20%と言われている。本研究でも同様。
・CADMは女性に多いようである。
・診断時点では筋症状なくても、あとで出てくることもある。→フォローが大事
・血液データは特記所見なし。癌関連CADMに多い自己抗体も特になかった。
・癌関連CADM患者は、ANA以外の自己抗体が陰性であった(といっても5人だが…):自己抗体が癌の病態を制御しているのかもしれない

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・多くは初期治療に反応したが、追加投薬が必要な場合が多かった。ただ3人はステロイド軟膏だけで治った。→CADMの中にも色々な型があると思われる。
・CADMといえばMDA5交代による重症間質性肺疾患(ILD)だが、本研究では5/44しかILDはいなかった。(先行研究より比率は低い)…三次医療機関のため、ほかで治療されているのかもしれない
・CADMに関してはまだまだ分からないことだらけである


(感想)
 いろいろ調べてみたが、現時点ではCADMの診断基準に統一されたものは(今の所)ないようで、「筋症状はないものの、皮膚筋炎様の皮疹があり、自己抗体陽性・生検結果等から皮膚筋炎と思われるもの」を臨床的にCADMと判断しているものが多い印象がある。
  つまりは「皮膚筋炎らしい皮疹」があるものの他に乏しい一群である。本文でも紹介されている通り、この一群は抗MDA-5抗体陽性・致命的な間質性肺炎(diffuse alveolar damage:DAD)を合併する群が多い、ことが重要であり、だからこそこういう一群が注目されているわけである。もちろん、癌も合併しうるということも重要だが。
 だからこそ、ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候、ゴットロン丘疹、爪周囲紅斑「があるだけ」という一群にこそ注意すべきなのである。患者が筋症状がない時にこそ注意。抗核抗体陰性であってももちろんCADMは否定できない。MDA5抗体提出と間質性肺炎のスクリーニング(・癌スクリーニング)は実施したいところ。
Fig1(本論文 Br J Dermatol. 2016 Jan;174(1):158-64.より引用)

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a:ゴットロン徴候(文献によりけりだが、この場合は手以外の関節、とくに肘、膝、足の伸側に出現する紅斑を指す)
b:ゴットロン丘疹(MCP-DIPの伸側の紅斑)
c:爪周囲紅斑(本論文では癌患者にはない所見と書かれているが、どうなのやら)
Fig2(本論文 Br J Dermatol. 2016 Jan;174(1):158-64.より引用)

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a:ヘリオトロープ疹(上眼瞼の紅斑、時々眼瞼浮腫を伴う)
b:photodistributed rash(日光露光部の紅斑、本症例の場合はタンクトップのため上腕にできている)


まとめ
(論文)
・CADMの患者は初期治療が著効するかもしれないが追加投薬が必要となることが多い
・悪性腫瘍・臨床学的な特徴という観点でCADMは通常のDMとは異なるのかもしれない
・CADMのうち、臨床的・血清学特徴、治療に対する反応性が悪性腫瘍の有無で異なり、病態生理の違いを示唆している。
(感想)
・筋症状のない皮膚筋炎:CADMこそ注意が必要な皮膚筋炎
・CADM患者のうち身体所見や抗体の有無は癌の有無の判別に役立つかもしれない
・さらなるCADMの解明により、細分化したグループ分けの完成に期待したい