膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

難治性EGPAに対する生物学的製剤

Canzian A, Venhoff N, Urban ML, et al. Use of Biologics to Treat Relapsing and/or Refractory Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis: data from a European Collaborative Study [published online ahead of print, 2020 Oct 1]. Arthritis Rheumatol. 2020;10.1002/art.41534. doi:10.1002/art.41534
 
再発性/難治性EGPA(好酸球性肉芽腫症)に対するコホート研究のまとめ
 
ANCA関連血管炎は過去10年で治療が大幅に変わったが、EGPAの治療は未だにステロイドを中心とした治療のままで、難治例の対処は難しい。
ANCA関連血管炎に対してのリツキシマブのように、EGPAも難治例では生物学的製剤が使われる。
EGPAに使われうる生物学的製剤として
  • リツキシマブ(RTX、リツキシマブBS®)…抗CD20抗体、ANCA関連血管炎(MPA・GPA)には適応あり
  • メポリズマブ(MEPO、ヌーカラ®)…抗IL-5抗体、日本でもEGPAに適応あり
  • オマリズマブ(OMA、ゾレア®)…抗IgE抗体、喘息には適応あり
がある。
ヨーロッパでの過去研究のコホート。対照群もなにもなく、「難治例に投与してみた」という報告のまとめでしかないが…
⇨RTX・MEPOは有効性あり、という印象

乾癬性関節炎に対する薬剤治療EULAR recommendation2019

"EULAR recommendations for the management of psoriatic arthritis with pharmacological therapies: 2019 update." Ann Rheum Dis. 2020 Jun;79(6):700-712.
 
PsA(乾癬性関節炎)のEULAR recommendationが4年ぶりに改訂。マイナーチェンジが多いがアルゴリズムがわかりやすいのでまとめ。

難治性SLEへのDaratumumab "Targeting CD38 with Daratumumab in Refractory Systemic Lupus Erythematosus."

NEJM最新号で謎のループス祭りがあり
・ループス腎炎へのBelimumab有効性 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32937045/
・難治性SLEへのDaratumumab https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32937047/
が出ていた。その後者の方の論文。
 
Ostendorf L, Burns M, Durek P, et al. Targeting CD38 with Daratumumab in Refractory Systemic Lupus Erythematosus. N Engl J Med. 2020;383(12):1149-1155. doi:10.1056/NEJMoa2023325
 
2例の症例報告ではあるが、「自己免疫疾患に対するplasma cell標的治療が実臨床で行われ、ある程度の成果を出した」という点が重要なのだろう。

巨細胞性動脈炎に対してのトシリズマブは中止できるか?

Adler S, Reichenbach S, Gloor A, Yerly D, Cullmann JL, Villiger PM."Risk of relapse after discontinuation of tocilizumab therapy in giant cell arteritis. "Rheumatology (Oxford). 2019;58(9):1639-1643. 

巨細胞性動脈炎の患者でトシリズマブ単剤(ステロイドフリー)を経験したが、「やめれるのか?」という疑問があったので読んでみた

※巨細胞性動脈炎へのトシリズマブについては↓参照ctd-gim.hatenablog.com
 ①背景

 巨細胞性動脈炎(Giant Cell Arteritis: GCA)はステロイド治療中の再発例/難治例に対して抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(Tocilizumab:TCZ、アクテムラ®)が頻用され、その効果はGiACTA試験等によって実証されている。 
 ただ、寛解後TCZをやめることができるか?」という疑問が出てきた⇨TCZ使用後寛解したGCA患者に対してTCZを中止し、前向きに追跡調査した 
②方法
 以前のGCAに対するTCZでの維持療法のRCT(Lancet. 2016;387(10031):1921-1927)に参加したTCZ群20人のうち、17人が参加。
  • 52週間のトシリズマブ治療が完遂し、寛解維持状態である
    • 寛解定義…以下の「再発」がないこと
      • ESR1hrが20mm以下から40mm以上に再上昇またはCRP>10mg/L
      • GCA所見が1つ以上出現(頭痛、頭皮/側頭動脈の痛み・圧痛、舌・顎跛行、側頭動脈所見、TIA、MRA所見異常、PMR症状、1週間以上38℃以上の発熱持続)
  • MRA・血清マーカーを実施
    • CRP, ESR, 決算
    • 炎症マーカー…IL6, soluble TNF receptor 2, soluble CD163, MMP-3, soluble intercellular adhesion molecule-1, Pentraxin-3.
 ③結果
  • 平均フォローアップ期間は、最終TCZ投与から28.1ヶ月
  • 17人中9人が平均29.3ヶ月間、臨床的・血清学的寛解を維持(長期寛解維持)
  • 17人中8人が平均6.3か月で再発(非寛解維持)
    • 8人中6人はTCZ中止後5ヶ月以内に再発
    • 残り2名は13,14ヶ月で再発
  •  f:id:CTD_GIM:20200911210212p:image 
 再発例と無再発例の比較
  •  f:id:CTD_GIM:20200911210215p:image 
    • 再発例は非再発例と比較して若年だった(平均年齢64.6歳vs 76.4歳; P = 0.006)
    • その他は有意差なし(性別、新規/再発かどうか、頭蓋部の症状、側頭動脈生検での陽性所見)
無再発例の血清マーカー
  • CRP・ESRは全員正常(無再発の条件のなので当然だが・・・)
  • IL-6値は正常化(TCZやめたので当然か)
  • MMP-3はTCZ中止前にわずかに高値⇨TCZ中止後に正常化
  • その他のマーカーは健常群との違いなし(soluble TNF receptor 2, soluble CD163, soluble intercellular adhesion molecule-1, Pentraxin-3)
  • ⇨血清マーカーに関しては健常者と差がない
MRA
  • 再発例は非再発患者よりも、RCT前からMRA上での血管炎領域数が多い(77% vs 63%)
    • 比率はRCTが終了するまでほぼ安定(77% vs 61%)
  • MRAでの血管壁信号増強は再発との相関なし
  • 治療によって経時的に増強領域が減少する傾向があるが、非再発例全員がMRA増強継続あり
  • 非再発例では鎖骨下動脈、腋窩動脈、大動脈弓、腸骨動脈領域での血管炎が少なかった
 ④Discussion
  • 患者の半数が2年間長期寛解していた⇨TCZが急性期反応の制御だけでなく、病原の細胞事象そのものに大きな影響を与えているということの示唆?
  • 逆に、半数は再発した⇨GCAにはIL-6に反応しない免疫経路が病原性に関与していることの示唆?
  • 治療中止時の再発予測因子は、若年であることと血管炎部位が多いことが示唆された
    • ただ、予測に使えるほどの価値はない
  • TCZの仕様でCRP/ESR正常化した患者で、再発を予測するバイオマーカーが求められており、研究中
 ⑤結論
GCAに対してのTCZはやっぱりやめにくい 
 
⑥感想
  • GCA患者へのTCZ使用はポピュラーだが、単剤になった例までいくとあまりない。この論文のnが少ないのはこういう難病の論文ではつきものなので仕方ないのだが、厳しい現状がわかったという以上に得るものはあまりない。
  • 現状TCZ使う例は再発/難治例だからやめにくいのは仕方ないことだが、やはり「TCZのやめにくさ」というのはネックであり続けそう。
  • GCAではどんなに良くてもTCZをやめると半分くらい再発する
  • 現状再発予測できるものはなさそう
  • MRAでの血管壁増強効果は寛解例でも持続する
ということは覚えておいてよさそう。もっと大規模な追跡調査/良いマーカーが出ればわかることも増えるだろうが…
 

巨細胞性動脈炎(GCA)・リウマチ性多発筋痛症(PMR)の長期管理

巨細胞性動脈炎(GCA)・リウマチ性多発筋痛症(PMR)の長期管理
Camellino D, Matteson EL, Buttgereit F, Dejaco C. Monitoring and long-term management of giant cell arteritis and polymyalgia rheumatica. Nat Rev Rheumatol. 2020;16(9):481-495. doi:10.1038/s41584-020-0458-5
GCA/PMRのフォローで悩むことが多いので読んでみた
 
 
①モニタリング
 
②バイオマーカー
CRPを始めとした血清マーカー・超音波等の画像マーカー両方を利用して管理していく。
血清マーカー
長所
短所
ESR(血沈)
頻用される
再発患者の20%以上はESR正常
TCZ使用下では偽陰性になりうる…貧血、年齢、感染症、高γグロブリン血症
頻用される
再発患者の20%以上はCRP正常
TCZ使用下では偽陰性になりうる
IL-6
疾患活動性と正の相関あり
TCZ使用患者では、再発の予測に使えるかもしれない
感染症の他、ステロイド・TCZによる影響を強く受けるため、使いにくい
Calprotectin
ESR・CRPよりも感度がよく、TCZ使用中の疾患活動性に使えるかもしれない
研究途上で結果に差があり、臨床での役割は限られる
PTX3
疾患活動性・視力障害に対して正の相関あり
PMRと健康なコントロール群の間で差がなかった
一般的でない
Osteopontin
疾患活動性と正の相関があり、IL-6とは部分的に独立?
一般的でない
 
画像マーカー
所見
長所
短所
超音波(US)

a:血管壁肥厚⇨"halo sign"
複数の血管壁を1回で評価できる
被爆もなく、利便性が高い
疾患活動性との関係性が不明
検者の腕前に依存
VHR-US
UHF-US
(高精度の超音波)
 
標準的な超音波検査同様
+血管外膜/中膜/内幕の解析ができる
疾患活動性との関係性が不明
一般的でない
造影CT

上行大動脈壁肥厚
短時間で可能、幅広く利用されている
寛解した患者でも壁肥厚が持続する
造影剤/被爆リスク
MRI、MRA

大動脈血管壁肥厚
血管形態が評価できる(動脈瘤・狭窄)
被爆なし
疾患活動性との相関は不明
撮影時間が長い、米国では利用しにくい
FDG-PET-CT

上行大動脈・右内頚動脈・腋窩動脈の高吸収
疾患活動性と相関している?
治療中止後の再発、大動脈拡張の予測ができる
他の炎症の原因を調べられる(感染症・癌など)
低疾患活動時の血管への弱い取り込みの意義が不明
一般的でなく、高額
FDG-PET-MRI
 
疾患活動性と相関している?
血管形態が評価できる(動脈瘤・狭窄)
他の炎症の原因を調べられる(感染症・癌など)
技術的なハードルが高い
全く一般的ではない
③長期管理
再発リスクとしては色々いわれている
GCAの再発リスク
  • 女性、治療前の疲労症状が強い
  • 発熱・体重減少・ESR高値・貧血(ステロイド治療長期化リスク)
  • CRP高値(>2.5mg/dlで治療失敗リスク増加)
  • CT・PET-CTでの大血管病変
PMRの再発リスクは、大血管病変・ベースラインの関節所見とは相関しない
 
  • 眼症状がある場合はステロイドパルスを検討
  • EULAR2018推奨
    • PSL40~60mg/dayで投与⇨2~3ヶ月以内に15~20mg/dayに漸減⇨1年後には<5mg/dayにする
  • GiACTAプロトコルのサブ解析…PSL単剤ではPSL26週漸減と比較して52週漸減プロトコルのほうが再発が少ない
      1. 60~40mg:10mg/wで漸減
      2. 40~20mg:5mg/wで漸減
    • N Engl J Med. 2017;377(4):317-328.
PMR
  • PSL12.5-25mg/dayで開始⇨4~8週間以内に10mg/dayまで漸減⇨4週間毎に1.0-1.25mg/dayずつ漸減
  • 経口薬の代わりにメチルプレドニゾロン筋肉注射(初期用量:120mg/3week)というのもオプション
 
ステロイド以外の治療
 
⑥治療の漸減・再発マネージメント
  • 1年以内でのPSL<5mg/dayが目標
  • TCZ併用によってステロイドは速やかに漸減することができる
    • PSL単剤では1年以上かかるが、GiACTAでは50%が約半年でPSL終了できている
  • 再発は、GCAの治療の漸減期および中止後に頻繁に起こる
    • TCZ併用有無に関わらず、PSL≦10mg/dayでフレアしやすい
      • N Engl J Med. 2017;377(4):317-328.
    • TCZ使用で寛解した患者も、TCZ中止すると47%が再発した
      • 中止後平均6.3ヶ月で再発
        • Rheumatology (Oxford). 2019;58(9):1639-1643.
    • ⇨TCZの立ち位置に関しては長期的な安全性の検証・費用対効果)まで一旦再増量することが勧められる
PMR
  • 再発率は31.5%とたかく、発症数ヶ月以内で高い
  • PSL<5mg/dayで維持できるようになるまでの中央値は1.44年と結構長い
  • ステロイドからの永久離脱までの期間中央値は5.95年(95%CI 3.37-8.88)
    • ただ、永久離脱できない人も多々いる…
  • 離脱が難しい要因…変形性関節症や副腎不全等の非炎症性疾患の悪化
  • 再発した場合は、最小有効量まで一旦増量or5-10mg増量
 

 
⑦合併症とのその治療
  • GCAの血管病変は、病期そのものだけでなく薬剤性(ステロイド副作用)・年齢等の多因子が絡むため、難しいものがある
    • そもそも、病気そのものよりもグルココルチコイド治療による合併症のほうが多い(Rheumatology 57, 322–328 (2018).)
  • ステロイド有害事象
    • PSL5mgでも感染症リスクは大幅に上がる(Ann Rheum. Dis. 75, 952–957 (2016).)
    • 代表的な有害事象…骨粗鬆症白内障緑内障、肺炎、糖尿病
    • メタ解析上PMR患者では、PPI併用群で心血管疾患・骨粗鬆症のリスクが高くなる(RMD Open 4, e000521 (2018).)
  • GCAの血管合併症
    • 動脈瘤・大動脈解離のリスクが上がる
    • 特にPET-CTで大動脈にFDG取り込み亢進があると、大動脈拡張が起こりやすくなる(Medicine 95, e3851 (2016).)
    • CT/MRIによる血管合併症スクリーニングを、診断時+一定期間おきに行う
      • 頻度に関しては不明瞭
      • フランスの大血管炎研究会推奨は2-5年おき
    • 心筋梗塞・脳血管障害・末梢血管障害リスクも増大する
      • 抗血小板薬/抗凝固薬でのリスク減少は実証されていない
合併症
予防
スクリーニング
治療
骨吸収阻害薬・VitD
運動、禁煙、減量
BMI、血清PTH値、血清補正Ca値
骨密度検査(DXA scan)
骨吸収阻害薬
VitD±経口カルシウムサプリ
運動・食事療法
血糖、HbA1c
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
糖尿病の薬物療法
高血圧
運動・食事療法
禁煙、減量
血圧測定
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
運動・食事療法
禁煙、減量
血中TChol・HDL・LDL・TG測定
脂質降下薬
体重増加
運動、減量
ステロイドの代替薬の使用、ステロイドの減量
PMRの場合ステロイド筋注への変更
ワクチン接種・禁煙
ツベルクリン検査・IGRA
肝炎の血清学的検査
結核・肝炎の治療
重度の場合はDMARDs中止
感染症状況に応じたステロイド減量
 
 
⑧まとめ
  • GCA/PMRの長期管理のポイントとしては以下の通り
    • 臨床症状、患者愁訴、血清/画像バイオマーカーを組み合わせた評価を行う
    • 再燃を抑える
    • ステロイドによる有害事象を最小限にする
    • 長期合併症を防ぐ
  • 主な臨床的疑問
    1. 画像診断をどの立ち位置で用いるか?
      1. 再発が疑われる場合、炎症マーカーが持続的高値の場合に実施する
    2. 画像診断の頻度と内容
      1. 超音波検査を最初に行い、必要に応じてMRI・PET-CT
      2. 基本的に2~3年ごとに検査(エビデンスなし、血管リスクのある患者ではもっと高頻度?)
      3. 特に炎症マーカー高値の場合PET-CTが有用
    3. GCAに対してトシリズマブをどういう場面で使うか?
      1. よくわかっていないが、トシリズマブ使用で確実にステロイドの量は減る
      2. ステロイド有害事象リスクが高い、難治性など?
    4. 今後の新規治療薬(GCAに関して治験中)
      1. JAK阻害薬…upadacitinib、Baricitinib
      2. GM-CSFα受容体阻害薬…mavrilimumab
      3. IL-6阻害薬…sarilumab
      4. IL-17阻害薬…secukinumab
 
あまり新しいことはないが、知識の整理にはなる。
  • どのタイミングでGCAにTCZを用いるかというのは、難しい疑問。手強そう/ステロイド入れることが危険ならさっさと入れるというのが望ましいだろうが、その線引きは難しい…
  • 大血管病変のGCAにTCZ入れると本当に指標が画像だけになってしまうので、注意が必要。ただこれ読む限り、画像だけでフォローするのも危険な気がする…

ANCA関連血管炎レビューNature

"ANCA-associated vasculitis"

Nat Rev RheumatolよりANCA関連血管炎の傑作レビュー
凄まじく長いが、一気読みできるほど内容は濃い。
  • "ANCA-associated vasculitis"
    • ①ANCA関連血管炎の種類
    • ②疫学
    • ③発症リスク
    • ④発症メカニズム
    • ⑤診断と定義・症候
    • ⑥疾患活動性の評価
    • ⑦画像と生検所見
    • ⑧予後
    • ⑨マネージメント総論
    • 寛解導入
    • 寛解維持
    • ⑫EGPAの治療
    • ⑬疾患活動性のモニタリング
    • ⑭並存疾患の治療
    • QOL
    • ⑯今後の展望

SLE2019年基準における性別・罹病期間・人種差

Ann Rheum Dis. 2020;annrheumdis-2020-217162. 
2019年SLE分類基準の検証コホート研究
 
SLEにはACR1997年基準・SLICC2012年基準が存在したが、感度特異度の問題があり、2019年ACR/EULAR基準にアップデートが施された。
 
この基準を実症例に対して検証コホートを実施し、人種間・性別間・罹病期間での差がないかどうかを検証してみた
⇨特に大きな差はなく、以前の基準よりも優れていた
ACR1997年基準
SLICC2012年基準
2019年ACR/EULAR基準

 
2019年基準は、1997年基準よりも感度に優れ、2012年基準よりも特異度に優れる