膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

メトトレキサートと葉酸投与量

メトトレキサート(MTX)はリウマチ性疾患治療のキードラッグで、葉酸との併用が基本である。
スタンダードな投与方法は週1回・MTX内服後24-48時間後に葉酸5mg内服だが、どう飲ませるのがベストかは案外わかっていない。よく質問されるので、自分なりにまとめてみた。

①MTX作用と葉酸

MTXの作用機序は様々で、葉酸依存性機序・葉酸非依存性機序に分かれる。
葉酸の関連する機序として代表的なものは「プリン・ピリミジン合成阻害作用」である(Nat Rev Rheumatol. 2020;16(3):145-154.)
 

  1. メトトレキサートは、還元型葉酸担体 1 (RFC1) を介して細胞に取り込まれる
  2. フォリルポリグルタミン酸シンターゼ (FPGS) によってポリグルタミン化する(MTX-PGになる)
  3. MTX-PGは細胞内に蓄積し、ジヒドロ葉酸レダクターゼ (DHFR)等の様々な酵素反応を阻害する
  4. この結果プリン・ピリミジンの合成が阻害される
これらの作用を葉酸の内服によって抑えることで副作用が減っているものとされている。
 

②各国ガイドラインでの葉酸内服方法

葉酸をどのくらい・どのタイミングで内服すればベストなのかはよくわかっていない

※UpToDateでは葉酸1mg/日・毎日摂取が推奨されている(UpToDate "Use of methotrexate in the treatment of rheumatoid arthritis")
 
MTXの副作用軽減に効果があるのは確かで、Cochraneの解析的には
  • 吐き気、嘔吐、腹痛などの消化器系副作用を減らす…26%相対リスク(絶対リスク9%)減少(RR 0.74、95%CI 0.59~0.92;P=0.008 )
  • MTXによる血清トランスアミナーゼの異常上昇に対しても保護的?…相対リスク76.9%(絶対リスク16%)の減少(RR 0.23, 95% CI 0.15~0.34; P < 0.00001)
  • MTX離脱を防ぐ
  • 口内炎抑制は統計的には優位ではない
という結論が出ている。(Cochrane Database Syst Rev. 2013;2013(5):CD000951.)
また、MTXによる葉酸欠乏による大球性貧血も注意が必要である(Arthritis Rheum. 1989;32(12):1592-1596.)
 
内服量を増やせば副作用(消化器症状・肝機能上昇)は少なくなる一方、MTXの作用が弱くなるという懸念がある
完全に確立した内服方法があるわけではないが、
  • 葉酸の内服によってMTX副作用を軽減できる
  • 葉酸を飲めば飲むほど効くわけでもない
  • MTXと葉酸を同日に内服すると、MTX作用が減弱する(懸念がある)
という3点からMTX内服→24-48時間後に葉酸5mg内服が推奨されている
 

葉酸の投与方法

葉酸の量

多ければ多いほどいいかというとそういうわけでもない。5mgとそれ以上を比較した研究的には大した差はない。

 

◎MTX内服日の葉酸スキップは意味あるか?

理論上の懸念からMTX内服日の葉酸スキップを行うことが多いが、あまり大したデータはない。最近では同日内服でもいいのでは?という報告も多い
  • 葉酸5mg/weekから1.25mg/day(フォリアミン®1/4錠)で有害事象減少(Mod Rheumatol. 2021;31(1):108-113.)
  • 動物実験(ラット)…葉酸をMTXと同日で投与しても関節炎への効果効果は変わらない?(Rheumatology (Oxford). 2022;keac579.)
 
ということで、葉酸増量によるMTX効果減弱・副作用低下に関しては、無意味というデータと有効というデータが別れている
週1内服を毎日内服にしたらコンプライアンスが上がるのかというのも正直疑問。MTXが週1−2内服を強制する以上、葉酸だけ毎日にしてどれくらい価値があるのかはよくわからない。MTX+葉酸合剤で週1内服にするというのは夢がある話だが…
 

◎活性型葉酸(ロイコボリン®)について

  • ジヒドロ葉酸レダクターゼ酵素(DHFR)の作用を必要としないため,重篤な副作用の救済の際には投与が推奨される
  • 一方で活性型葉酸投与によるMTX効果減弱の報告が多い・薬価が高いという2点から、レスキュー目的以外で使用されることはほぼ無い(Ann Rheum Dis. 1991;50(12):913-914.など)
 
※薬価(2022年)
フォリアミン®5mg…9.8円
パンビタン®1g…6.3円(※パンビタン1g中に葉酸0.5mg)
ロイコボリン®5mg…611.3円
 

④結局どうするのか?

私見としては以下の通り
  1. ガイドライン通りの葉酸使用方法(葉酸5mg/ 週)で開始する
  2. MTX有害事象と思われる症状が出たときMTX減量or葉酸増量を考える
    1. 特に有害事象が軽度、消化器症状・肝機能異常が出ているときは葉酸増量を考慮する
    2. 特に高齢者の場合、葉酸欠乏が多いので注意(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2003;58(4):354-361.)
  3. 増量については正直なんでもよい…フォリアミン®10mg/週、フォリアミン®2.5mg/日、パンビタン®2g/日など
  4. 葉酸増量が無効・有害事象が軽度ではない場合、MTX減量を考慮する
 
葉酸を増やせば何でも解決するわけではない
葉酸の処方方法にそんなに拘る必要もない というのが現状だろう。
 

参考:患者向け資料 

www.ryumachi-jp.com