膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

足関節炎の鑑別

"Ankle arthritis - an important signpost in rheumatologic practice." Rheumatology (Oxford). 2020 Oct 24:keaa531.
足関節炎の鑑別review
 
足関節は、リウマチ業界では手・手指関節と比較してあまり関心が寄せられない関節だが、
・鑑別が多い
・関節構造が複雑
・罹患した際のQoL変化が甚大な割に治療が難しい
ということから難渋することが多い。
 
 
鑑別フローチャート(あくまで考慮レベルであることに注意)

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①足関節の解剖

  • 足関節は主に脛骨・腓骨・距骨の3つから成り立っている複雑な構造
  • 足関節の軟骨は膝と比べてかなり高密度で硬い⇨変形性関節症はかなり少ない
 

②変形性関節症(OA)

  • 他の関節(膝・股関節など)と比較して低頻度
  • 「変形性関節症」と間違えられている足関節症が多いため注意
    • 鑑別:関節リウマチ(RA)、ヘモクロマトーシス、血友病、距骨無血管性骨壊死
      • 例)ヘモクロマトーシス関節症
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          • 関節裂隙狭小化・骨棘形成
          • T2脂肪抑制…関節周囲骨髄浮腫、軟骨下嚢胞
      • 血友病…再発性関節内出血⇨関節破壊を起こす
        • 足関節・膝・肘に多い

②診断未確定の炎症性関節炎…単関節炎・多関節炎に分かれる

  • 単関節炎としての足関節炎は、膝・手関節についで3番目に多い
    • うち90%は痛風・変性疾患等で、外傷によるものが紛れ込んでいることが多い
    • 10%は慢性炎症性関節炎に移行⇨疼痛継続例に注意
  • 多関節炎
    • 足関節・多関節炎で多いのは脊椎関節炎(SpA)、反応性関節炎(ReA)、未分類関節炎(UA)、サルコイドーシス
      • RAは少ない…早期RA患者のうち足関節の単関節炎で発症したのは6%しかいない
    • 例)未分類SpA
      • f:id:CTD_GIM:20201031150630p:image

        • T1STIR…関節包の肥厚、滑膜炎、脛骨距骨関節の浸出液
 

③診断の確定した炎症性関節炎

  1. 軸性脊椎関節炎(axSpA)
    • 強直性脊椎炎患者147人のデータでは足関節が最多の罹患関節(39.5%)
      • 次いで股関節・膝関節
      • HLA-B27陽性例・若年例での強直性脊椎炎患者に多い
  2. 乾癬性関節炎(PsA)
    • 約10%に足関節炎があり、フォローしていくと26.4%にまで上昇する
  3. 炎症性腸疾患に伴うSpA
    • 膝同様足関節症状も多い
    • 潰瘍性大腸炎で29-34%、Crohn病で42-52%の頻度で足関節炎あり
  4. 関節リウマチ
    • 発症時に足関節炎があることは少ないが、経過中の足関節炎は多い
    • 韓国の2046人のRA患者コホートでは、21%に足関節圧痛・17%に足関節腫脹あり
    • SLE(Jaccoud関節)…手関節炎がある時、まれに足関節炎も起こる
    • 強皮症(SSc)…関節炎自体は少ないが、足関節炎が起こることもある
      • ただ、摩擦に伴う腱鞘炎が多いので関節炎と腱炎どちらなのかを鑑別する必要がある
 

④敗血症性関節炎

  • 最多は膝だが、足関節もなくはない
  • 186人の細菌性敗血症性関節炎患者のコホート…足関節は3番目に多い関節(12%)
    • 1位膝(48%)、2位股関節(21%)
  • ただ他の研究では少ないという報告あり⇨足関節で起こるようなら全身関節炎時が多い?
  • 例)黄色ブドウ球菌性敗血症性関節炎
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      • Xp…遠位脛骨・腓骨・距骨等の皮質不明瞭化
 

⑤ウイルス感染

 

結核性関節炎

  • 足関節はほぼいない(1-4%程度)
 

⑦結晶性関節炎

    • まず母趾MTPに起こることが多いが、足関節も相当に多い
    • MTP関節、足根関節についで多い模様(12-15%)
  • 痛風(CPPD)
    • 足関節OAが少ないため、CPPDも少ない
 

⑧Charcot関節

  • 糖尿病患者の末梢神経障害として足に影響するが、足関節自体には少ない
    • 多いのは中足骨
 

⑨関節周囲の腫脹…関節外組織(脂肪織・腱鞘・皮膚等の腫脹)

  1. サルコイドーシス
    • 急性サルコイド関節炎は、レフグレン症候群(Lofgren's syndrome)の一環として起こる
      • ※レフグレン症候群…結節性紅斑・両側肺門リンパ節腫脹(BHL)・発熱を伴う移動性多発性関節炎の三徴を満たし、40歳以下での発症が特徴的なサルコイドーシスの一種
    • ただし、レフグレン症候群は正確には「関節炎」ではなく、脂肪織炎・腱鞘炎が原因である
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        • A:外側、B:正中部、C:内側 すべて矢状断
        • 広範な皮下組織腫脹はあるが、関節そのものは問題なし
    • 病変部位は足関節が比較的多い
    • 慢性サルコイドーシスでの関節炎は低頻度
  2. 肺性肥大性骨関節症(HPOA)
    • 肺癌に合併する骨関節疾患で、ばち指・骨膜反応・手足関節の疼痛/圧痛が特徴
    • 非炎症性の浸潤を起こす
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        • 99mTcシンチグラフィでは、皮質骨での取り込み増加が特徴的("Tram line" sign
        • (BMC Musculoskelet Disord. 2018 May 14;19(1):145.)
    • 症例報告レベルだが足関節の報告あり
  3. 後脛骨筋腱機能不全(扁平足)
    • 40歳以上の女性に多い
    • 内顆後方・下方に圧痛があることが多い
    • 目視・歩行観察でわかる(BMJ. 2004 Dec 4;329(7478):1328-33. )
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        • 後脛骨筋の腫脹
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        • 後方から見ると、左足が外反している(左足のほうが見える指の数が多い)

(まとめ)

鑑別まとめ
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疾患別の足関節病変存在率
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(感想)

膠原病領域では
・下肢の痛みだけならSpA>RAと思って鑑別進める
・足関節症は炎症性疾患以外・感染症を丁寧に除外することが必要
・足のOAは珍しいので二次性を鑑別しなければならない
という3点は覚えておいてもいいかもしれない。