膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

TAFRO症候群とCT画像所見

 

 

 

"Computed tomography findings of early-stage TAFRO syndrome and associated adrenal abnormalities."

Eur Radiol. 2020 Oct;30(10):5588-5598.

 

 

 

 

TAFRO症候群基礎知識

 

TAFRO症候群は多中心性Castleman症候群(MCD)の一亜型の症候群で、

  • Thrombocytopenia(血小板減少)
  • Anasarca(大量胸腹水)
  • Fever(発熱)
  • Reticulin fibrosis(骨髄線維化)
  • Organomegaly(肝脾腫・リンパ節腫脹) を特徴とする

 

  • 診断基準はIwaki基準とMasaki基準があるが、確立したものはない
  • Masaki基準はリンパ節生検が必須ではないというのが特徴(※ただ実施を推奨している)
    • f:id:CTD_GIM:20201015200332p:image
    • f:id:CTD_GIM:20201015200323p:image

 

背景

 

TAFROは希少疾患で画像所見としては
  • 全身浮腫
  • 肝脾腫
  • 軽度のリンパ節腫脹 が多い
ただ、副腎の異常もいくつか報告されている ⇨後ろ向きに解析TAFRO症候群と診断された13人の患者を解析
  • すべて日本人
  • 男性8人・女性5人、平均年齢54.9歳(24〜76歳)
  • 上記診断基準のうちどちらかを満たしている
  • 検査データ・画像データを評価
    • 画像に関しては以下を解析
      • 全身浮腫…胸水、心膜浮腫、腹水、皮下浮腫、副腎壁浮腫、腸間膜浮腫、腎浮腫など
      • 臓器腫大…肝臓、脾臓、副腎
      • その他…腎虚、前縦隔病変、骨病変、リンパ節腫脹
 

結果

①13例の患者特徴
  • f:id:CTD_GIM:20201015200329p:image
    • 13例中7例で副腎病変あり…腫大7例、虚血5例、出血1例
    • 当初の診断はリンパ腫が最多
②初期CT画像(発症後3週間以内)
  • f:id:CTD_GIM:20201015200347p:image
  • CT撮像に至った初期症状…発熱・CRP上昇(7例)、腹痛(3例)、リンパ節腫脹(2例)、胸痛(1例)
  • 13例中5例は死亡、8例は寛解
  • 多かったCT所見
    • 傍大動脈浮腫・軽度リンパ節腫脹(13/13⇨100%)
    • 次いで多かったのは腎周囲浮腫(92%)
      • 一方で胸水(38.5%)・腹水(53.8%)・皮下浮腫(53.8%)は案外少なめ
  • 多かった所見…発熱、CRP増加、ALP増加、eGFR減少、血小板減少症
  • 副腎所見…13例中6例で副腎病変あり…腫大6例、虚血4例
③典型的な画像所見
 
傍大動脈浮腫
f:id:CTD_GIM:20201015200404p:image
傍大動脈浮腫
左副腎腫大(矢印)
f:id:CTD_GIM:20201015200351p:image
a:(発症7日前)
 傍大動脈浮腫
 両側副腎部分虚血(白矢印)
b:(発症32日後)
 萎縮を伴う両側副腎石灰化
 ⇨梗塞後の所見
f:id:CTD_GIM:20201015200359p:image
a:(発症9日前)
 傍大動脈浮腫
 門脈周囲浮腫(黒矢印)
 両側副腎部分虚血(白矢印)
b:(7ヶ月後)
 萎縮を伴う両側副腎石灰化
 ⇨梗塞後の所見
 胸腹水出現
f:id:CTD_GIM:20201015200355p:image
グリソン鞘浮腫(黒矢印)
脾梗塞を伴う脾腫(白矢印)
腹水
f:id:CTD_GIM:20201015200338p:image
腹水・皮下浮腫 f:id:CTD_GIM:20201015200645p:plain
胸水
f:id:CTD_GIM:20201015200320p:image
心嚢水・胸水
f:id:CTD_GIM:20201015200342p:image
 
④後期のCT(診断基準が満たされる前後1か月以内かつ、発症後3週間以降)
  • f:id:CTD_GIM:20201015200407p:image
  • 胸水、腹水、皮下浮腫がすべての症例で観察された(浮腫多発
  • 副腎…1例で新規副腎虚血、1例で両側副腎腫大
    • 初期の副腎虚血4例のうち、1例は増強改善、2例で副腎の萎縮と石灰化、他は増強不変
⑤初期/後期でのCT所見の違い
  • f:id:CTD_GIM:20201015200723p:plain
    • 胸水・腹水・皮下浮腫・骨病変が後期に有意に多い
    • 前縦隔病変は早期では少ない傾向あり

Discussion

  • TAFRO症候群の発症早期CTで、傍大動脈浮腫と軽度のリンパ節腫脹が全症例に見られた
    • また大半で腎周囲浮腫が見られた一方で、胸腹水・皮下浮腫のない症例あり(46.2 –61.5%)
  • 早期CT所見因子は、寛解群よりも死亡者の方で有意に多い⇨発症早期でCT所見がたくさんあるTAFROは予後不良
  • 初期段階でも副腎異常が高頻度(53.8%; 7/13)で観察された
    • TAFROの鑑別疾患であるiMCD-NOS(TAFRO以外の特発性多中心性Castleman病)、POEMS症候群、悪性リンパ腫にはない特徴⇨副腎異常はTAFROに比較的特徴的な所見?
    • 副腎異常の鑑別としては、感染・凝固異常(抗リン脂質抗体症候群・真性多血症・本態性血小板血症)・心不全など
  • 副腎異常の理由の仮説
    • 副腎は複数の動脈から血流が供給さるが、排液静脈は1つしかない⇨副腎梗塞・出血は静脈性が多い
    • TAFROはリンパ系のうっ血を起こしている?
  • TAFROの浮腫はまず傍大動脈周囲に発生し、その後胸腹水・皮下浮腫が発生する
  • TAFROの浮腫の原因
    1. 炎症性サイトカインによる血管透過性の増加
    2. 静脈・リンパのうっ滞
  • 筆者によるTAFROのメカニズムの仮説
    1. 原因不明だが、大動脈周囲の静脈・リンパの廃液不良が起こる⇨鬱血による副腎虚血を促進する
    2. うっ血が解剖学的に近い腎臓に広がる⇨腎障害をおこし、全身循環に影響
    3. 全身浮腫へ

結論

  • 傍大動脈浮腫・軽度リンパ節腫脹は、TAFRO症候群早期で最も一般的な異常なCT所見
  • 早期のCT所見でTAFROのCT所見が多いと予後不良
  • 副腎障害はTAFROに特徴的な所見であり、鑑別に役立つ

感想

13例のCT画像の検討でしかないが、TAFROには特徴的なCT所見があり、その一つが「副腎の異常である」、というのは覚えておいて良いと感じた。