膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

75歳以上のANCA関連血管炎へのRituximabの有効性・安全性

ANCA関連血管炎(AAV)へのRituximab(RTX)はkey-drugと化しており、RTXを使うことができればステロイド用量を大幅に削減できることがわかっている。一方で75歳以上への適応は不明な部分があり、RTX使用をためらうシーンは多々ある。
それに関してJAMAに報告(JAMA Netw Open. 2022;5(7):e2220925.)があったので、最近のトレンドを紹介しつつまとめてみた。
 
結論的には、75歳以上でもRTXはステロイド漸減効果・寛解導入・維持効果があるものの、重篤感染症に注意が必要

ガイドラインにおけるAAVに対してのRTX】

ANCA関連血管炎(AAV)へのRituximab(RTX)の適応範囲はどんどん大きくなっており、「AAVを見つけたら全員にRTX使うことを考える」という風潮になりつつある
ACR2021年推奨では

 
更に新しいEULAR2022年推奨(EULAR2022で公表)では、非重症例でもGC+RTX考慮となった

 

ただ、GC+RTXの免疫抑制は相当強いため、ニューモシスティス肺炎(PjP)等の日和見感染症の懸念もある。このため、EULAR2022年推奨では「RTX・シクロホスファミド(CyC)・高用量GC治療を受けているAAV患者は、PjP予防としてのST合剤使用を推奨する」という推奨も追加となった
  • 実際、RTX使用患者へのST合剤使用によるPjP予防は有効という報告は多い…ST合剤1T/day用量でPjP発生率・死亡率大幅低下(Chest. 2022;161(5):1201-1210.など)
 

◎まとめ

AAVへの寛解導入療法におけるRTXは、非重症例含めて積極的に使用する風潮になっている。一方でPcP予防に留意が必要。
 

寛解導入におけるRTX併用時のステロイド用量】

RTXを併用する場合では寛解導入におけるGC用量は少なくても問題はなさそう、という風潮もできつつある
ACR2021推奨ではPEXIVAS-ReducedプロトコルでのGC漸減を推奨している
  • ACRエキスパートオピニオン的には「平均的な体格の成人の場合、プレドニゾン(PSL)40-60mg/dayで開始→4週までに20mg/day、12週までに10mg/day、16週までに5mg/dayに漸減し、5−6ヵ月で中止が望ましい」となっている
 
EULAR2022年推奨では、「患者体重に応じてPSL50-75mg/dayで開始し、漸減プロトコル(下図)に準じて漸減→4-5ヶ月でPSL5mgまで減量する」ということになった
 
またLoVAS trialでは、「初期用量からPSL0.5mg/kg/dayに減らしても、6ヶ月時点での寛解率は非劣性で、GC関連有害事象が少ない」という報告があった(JAMA. 2021;325(21):2178-2187.)
  • 特にLoVAS trialは日本の低体重・高齢者MPAが多くentryしており、外的妥当性的にもありがたい報告である
  • ただしPEXIVASと異なり、再発例、eGFR<15の重症糸球体腎炎・肺胞出血等の重症例は除外されていることに注意
 

◎まとめ

AAVにおけるGCレジメンは、RTX併用下であれば急速漸減・低用量スタートも可能(※重症度と相談が必要)
 

【75歳以上へのRTXの有効性・安全性は?】

JAMA Netw Open. 2022;5(7):e2220925.
ここからが本編。
RTXを使用すればGC用量は少なくできることはわかっているが、高齢者であってもRTXを安全に使用できるのか?ということには不安が残る。
日本のAAVは顕微鏡的多発血管炎(MPA)が主体ということもあり、高齢者に多い疾患である。しかしGC+RTXを検証した各臨床試験では参加者年齢中央値は50-60歳程度のため、そのまま適応して良いのか不明である
コホート研究で75歳以上のAAV患者へのRTXによる寛解導入・維持療法の効果及び有害事象を評価
 

◎Method

フランス血管炎レジストリからの多施設コホート研究
P:患者群…MPA・GPAと診断され、75歳以降で寛解導入or維持療法としてRTX投与を少なくとも1回受け、6ヶ月以上フォローされったor死亡した患者
  • MPA・GPAへの分類は2012年CHCC基準を使用
  • 寛解はBVAS ver3で0点、PSL内服<7.5mg、活動性の症状が完全に認められないことと定義
  • 治療プロトコルに関しては以下と定義。完遂できなかった場合はプロトコル中止したものと定義
    • 寛解導入療法…RTX375mg/m2/week x4回 or RTX1000mg/2w x2回
    • 維持療法…RTX500mg/6ヶ月 x4-5回→初回投与から28ヶ月後までフォロー
Outcome…寛解、再発、投薬中止、死亡、重篤感染症有無
 

◎Result

患者ベースライン…93名が解析対象
  • RTX初回投与時の年齢中央値は79.4(76.7-83.1)歳
  • GPA55.9%、MPA44.1%と欧米のデータにしてはMPA多め
  • 32.3%が寛解導入療法、29.0%が維持療法、38.7%が導入療法・維持療法の両方を実施
  • フォロー期間中央値は2.3年
寛解導入療法…87.9%が寛解導入プロトコル完遂し、大半が寛解
  • 86.4%が寛解、3.0%が再発
  • 中止理由…RTX投与完遂前に死亡(9.1%)、フレイルと判断(3.0%)など
維持療法…57.1%が維持療法完遂、大半が寛解維持
  • RTX中止理由…フォローアップできなかった(17.5%)、免疫抑制療法の温存(11.1%)など
  • 28ヶ月以内の死亡は6例(9.5%)
RTX投与中の重篤感染症RTX投与を行った患者では有意に重篤感染症罹患率が高い?
  • 多くは寛解導入療法開始から数ヶ月以内に発生
    • 導入療法としてのRTX初回投与から6ヶ月以内に重篤感染症が発生したのは66例中13例(19.7%)、発生率は100患者年当たり46.6(95% CI、24.8-79.7)
    • 維持療法としてのRTX投与では,28ヶ月以内に 63 例中 9 例(14.3%)に重篤感染症が発生,発生率は100 患者年当たり8.4(95% CI,3.8-15.9)
  • 6ヶ月無感染生存率は,導入療法としてRTX投与を受けた患者で 0.79(95% CI, 0.70-0.90)、 維持療法としてRTXを投与を受けた患者で 0.95(95% CI, 0.90-1.00)
  • PSL初回投与量での重篤感染症…PSL<1mg/kg患者で少ない傾向があったが有意差なし
    • 初回PSL>1mg/kgでの発生率…100患者年当たり55.1(95%CI, 27.5-98.6)
    • PSL< 1mg/kg(中央値 0.60 [0.33-0.75] mg/kg)での発生率…100 患者年当たりの重症感染症発生率は 33.7(95% CI,4.1-121.7)
  • ベースラインのγ-グロブリン濃度およびリンパ球数には,重篤感染症を発症者・非発症者間で差なし
 

◎Discussion

  • 75歳以上の患者でのRTX投与は寛解の達成・維持に有用と思われる…非寛解・再発はほぼいなかった
  • 一方で重篤感染症は多くなり、大半は寛解導入療法から数ヶ月以内に発生している→高用量GCとの併用が問題?
  • →高齢者へのRTX投与は最初の数ヶ月は重篤感染症予防に集中する必要がある
  • 若い患者の場合、RTX投与で重篤感染症は増えないという報告とは対照的(Rheumatology (Oxford). 2019;58(3):401-409.)
 

◎感想

  • 日本のAAVは間質性肺炎を抱えたフレイルな高齢者のMPAが中心ということもあり、かなり感染症が心配な例が多い
  • このため非重症の場合、RTX投与するか躊躇する例が多数ある。
  • ただ最近の風潮・本研究の内容を加味すれば、高齢者であってもRTX投与によってステロイド減量・寛解が期待できる以上、(感染症リスクと相談しつつ)RTXをトライしてみるのが良さそうである
  • ただPEXIVAS-reducedプロトコルであっても、ステロイドは多くなり感染リスクは相当に不安である
  • その際に治療を減量(手加減)することを考えるわけだが、方法としては以下が考えられる
    1. RTXはそのままでステロイドを減らす…LoVAS減量プロトコルなど
    2. RTXを減らす…RTX375mg/m2/w x4回→RTX375mg/m2/2w x2回など
    3. RTXを避け、ACRガイドラインに従ってMTX・アザチオプリンなどのcsDMARDs併用にする(日本での保険適応なし)
    4. 再発リスクが低そうな症例ではステロイド単剤→漸減
  • どれが優れているのかは不明で、症例毎にAAV重症度・重篤感染症リスクを天秤にかけての相談となるだろう
  • エビデンス的にはLoVASに準じてPSL0.5mg/kg/day + RTX375mg/m2/w x4回が一番勧めやすそうではあるが、色々な意見があって然るべき
    • 特に2022年現在Covid-19流行が続くと思われ、安易にRTX使い続けたい気分にもならないため、全例でRTX使用というのはやりすぎと思われる