N Engl J Med. 2022;386(4):316-326.
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トファシチニブ(Tofacitinib)に代表されるJAK阻害薬は、経口薬ながら生物学的製剤(bDMARDs)と同じくらいの効果を持つ薬剤である
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ただ長期使用の有害事象については不明な点が多く、このORAL-Surveillance試験でようやく報告された
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以前からずっと製薬会社が報告していて、今更感ある内容ではある内容ではあるが、一応まとめ
【Key point】
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心血管リスクの高いRA患者に対してのTofacitinib投与は、TNF阻害薬と比較してMACE(major adverse cardiac events)・癌リスクが高い
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その傾向は65歳以上の患者で顕著
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Tofacitinibは、TNF阻害薬と比較して帯状疱疹リスクが高い
【Intro】
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関節リウマチ(RA)に対しての治療選択肢としてJAK阻害薬の台頭は著しい
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JAK阻害薬の一種であるTofacitinib(トファシチニブ)は、臨床試験中に血清脂質値上昇・リンパ腫等の癌の発生率上昇が観察された
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→これを受け、TofacitinibとTNF阻害薬の比較前向き試験(ORAL-Surveillance試験)が行われた
【Method】
2014年3月~2020年7月に30カ国・323施設で実施
無作為化、非盲検、非劣性、第3b・4相試験
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P(患者):以下の1つ以上の心血管リスク因子のあるRA患者
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心血管リスク因子…現在喫煙者、高血圧、血清HDL値<40mg、糖尿病、若年性冠動脈疾患の家族歴、RAの関節外病変、冠動脈疾患の既往
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除外基準…癌に罹患中、または既往あり(適切な治療の行われた悪性黒色腫以外の皮膚癌を除く)
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E/C(介入/比較):以下の3群に1:1:1で割付
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※途中で死亡率・肺塞栓症リスク高かったため、5mg2錠/日に減量
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Tofacitinib 5mg2錠/日
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Tofacitinib 10mg2錠/日
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TNF阻害薬使用(北米地域はAdalimumab40mg/2週、その他地域はEtanercept50mg/2週)
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O(結果)
【Result】
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6559人が参加→4362人が無作為化
◎Primary outcome
①MACE発生率
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Tofacitinib群3.4% vs TNF阻害剤群2.5%
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→Tofacitinibは、TNF阻害薬群に対して非劣性を示さなかった(ハザード比1.33; 95%CI, 0.91 ~ 1.94)
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Tofacitinib 5mg2錠群とTofacitinib 10mg2錠群間では非劣勢(ハザード比1.00; 95%CI, 0.70 ~ 1.43)
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群ごとのMACE発生率…有意差そのものはない
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サブグループ解析
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MACE発生率は、65歳以上群で65歳未満群よりも高い
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65歳以上群内でのMACE発生率は、Tofacitinib群でTNF阻害薬群よりも高い
②癌発生率
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TNF阻害薬群2.9% vs Tofacitinib群 4.2%
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→Tofacitinibは、TNF阻害薬群に対して非劣性を示さなかった(ハザード比1.48; 95%CI, 1.04 ~ 2.09)
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群ごとの癌発生率…有意差そのものはない
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サブグループ解析
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癌発生率は、65歳以上群で65歳未満群よりも高い
◎Secondary Endpoint
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最多の重篤有害事象…肺炎
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Tofacitinib10mg2錠群は肺塞栓・DVT・死亡リスクが高かった
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◎RAへの有効性
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SDAI・HAQ-DIスコア…全群でほぼ同様に改善、有意差なし
【Discussion】
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50歳以上の心血管リスクを有するRA患者において、MACEと癌は、TNF阻害薬よりもTofacitinibで多く発生する
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特に65歳以上ではより顕著に多い
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Tofacitinib10mg2錠/日は肺塞栓・死亡率が高い→試験中にTofacitinib5mg2錠に切り替えた
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ただ、その機序自体は現状不明
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原因仮説…全身の慢性炎症、癌とRA患者の共通する環境・遺伝因子、RAの免疫抑制治療など
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RAそのものがMACE・癌リスクを上げる
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ただ、本研究では対照群がTNF阻害薬群しかなかった→他の対照群(csDMARDs群、他のbDMARDs、無治療)との比較は行っていない
【感想】
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JAK阻害薬は注射製剤と同じくらい効く経口薬という点で素晴らしい薬ではあるが、長期有害事象が不明な薬であっが、この試験によって少し見えてきた部分
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この試験に基づけば「高齢者・心血管リスクの高いRA患者にはJAK阻害薬の積極使用は避けたほうがいい」と感じる
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ただ、実臨床で一番困るのは合併症の多い高齢関節リウマチというのが悲しいところ
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様々な製薬会社がJAK阻害薬を宣伝し、「JAK阻害薬を積極的に使うことが良い医者の条件」みたいな説明会が多いが、私は全く同意しない
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もちろんJAK阻害薬を使ったほうが良い患者がいるのは確かだが、そういう症例は実際には多くない
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むしろJAK阻害薬を積極的に使っている症例は、JAK阻害薬不要or不適な症例が多いと個人的には感じる
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ただ疾患活動性の高いRA患者はそもそもMACE・癌リスクが高いので、RAをJAK阻害薬で治療してあげたほうが最終的にはMACE・癌リスクが低くなる、という考え方も正しい(と個人的には思う)
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あくまでこの試験は臨床試験であって、「JAK阻害薬が必要であるが導入していない高疾患活動性RA」と「JAK阻害薬を導入した高疾患活動性RA」を比較しないとそのあたりはわからない
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ただそんな臨床試験が出ることもないだろう
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今後他のJAK阻害薬でのデータ・実臨床での長期使用データが出てくれば、「JAK阻害薬を使うべき群」がはっきりしてくると思われる
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この研究は大半が肥満の白人なので、外的妥当性は低い
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参考(日本リウマチ学会からのお知らせ)