膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

関節リウマチ治療薬と帯状疱疹リスク

 
Risk of herpes zoster (shingles) in patients with rheumatoid arthritis under biologic, targeted synthetic and conventional synthetic DMARD treatment: data from the German RABBIT register [published online ahead of print, 2021 Jul 28]. Ann Rheum Dis. 2021;annrheumdis-2021-220651.
 
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)の治療薬は大きく分けて
  • csDMARDs…メトトレキサートなど
  • bDMARDs…生物学的製剤
  • tsDMARDs…JAK阻害薬
の3種類に分かれるが、治療に伴う有害事象として帯状疱疹(Herpes zoster: HZ)がある。
特にtsDMARDsでの帯状疱疹リスク増加は顕著で、EULAR(欧州リウマチ学会)はリウマチ性疾患の高リスク患者は帯状疱疹ワクチン接種検討を推奨している(Ann Rheum Dis 2020; 79: 39 - 52)
→治療ごとでの帯状疱疹リスクをデータベースから調査
 
◎ポイント

【方法】

  • ドイツの関節リウマチデータベース(RABBIT)を利用した前向き長期追跡コホート
  • 2007年以降登録された患者が対象
  • 登録時から継続的にデータを収集
◎患者データ
  • 帯状疱疹罹患を病名ベースで調査
  • DMARDs治療をカテゴリー化
    • モノクローナル抗TNF抗体…adalimumab,(ADA) certolizumab(CPZ), golimumab(GLM), infliximab(IFX)
    • 可溶性TNF受容体融合タンパク質…etanercept(ETN)
    • T細胞共刺激モジュレーター…abatacept(ABT)
    • B細胞標的療法…rituximab(RTX)
    • IL-6阻害薬…tocilizumab(TCZ), sarilumab(SAR)
    • JAK阻害薬…tofacitinib(TOF), baricitinib(BAR), upadacitinib(UPA)
    • csDMARDs
  • 報告された帯状疱疹発症は、進行中またはイベントの1ヶ月以内に終了した治療と結びつけた
  • 患者データを収集…収集年齢、性別、罹病期間、DAS28-ESR、身体能力評価、RF/抗CCP抗体(ACPA)、CRP値、過去のDMARDs使用歴、ステロイド投与量、併存疾患有無・数
2007-2020年に前向きに検討
◎統計解析
  • 帯状疱疹の暴露調整イベント率(Exposure-adjusted event rates: EAERs)を計算
  • 適応症による交絡を調整し、薬剤との関連を調査
 

【結果】

  • 13991人の患者データを分析→533人の患者で559の帯状疱疹イベントが報告された
  • ベースラインの患者データ
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    • 平均年齢57.7歳
    • 抗TNF抗体群は他治療群と比較して若く、JAK阻害薬はやや高齢
    • B細胞標的療法(RTX)群はRF/ACPA陽性率が高く、ステロイド使用率が高い
    • T細胞共刺激モジュレーター治療(ABT)群がMTX併用率が一番高い
    • RTX・ABT群は罹病期間が長めで、身体機能が低く、活動性が高い、骨粗鬆症も多めでcsDMARDs治療回数も多い
    • 骨粗鬆症以外の併存疾患は群間で同等
帯状疱疹の暴露調整イベント率(EAER)
  • 全体での1000人年あたりのイベント発生率は8.9(95%CI 8.2~9.6)
  • 治療群別の帯状疱疹発生率
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      • tsDMARDsが発生率最多…21.5、95%CI 16.4〜27.9
      • 次いでB細胞標的療法(Rituximab)…10.3、95%CI 8.0〜13.0
      • 抗TNF抗体…9.3、95 %CI 7.7〜11.2
      • IL-6阻害薬…8.8、95%CI 6.9~11.2
      • 可溶性TNF受容体融合タンパク質…8.6、95%CI 6.8〜10.8
      • T細胞共刺激モジュレーター…8.4、95%CI 5.9〜11.8
      • csDMARD…7.1、95%CI 6.0〜8.3
    • 61例で発生し、発生率は全体で1000人年あたり1.0(95% CI 0.7〜1.2)
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      • RTX群・JAK阻害薬群で重症帯状疱疹発生率が高めだった
帯状疱疹リスク
  • 年齢・性別・グルココルチコイドの使用量を調整し、リスクを計算
  • csDMARDsと比較してTNF阻害薬(抗TNF抗体・可溶性TNF受容体融合タンパク質)、RTX、IL-6阻害薬、JAK阻害薬で帯状疱疹リスクが有意に増加
    • tsDMARDs…HR 3.66、95%CI 2.38~5.63
    • モノクローナル抗TNF抗体…HR 1.63、95%CI 1.17~2.28)
    • B細胞標的療法…HR 1.57、95%CI 1.03~2.40
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ABT群以外の全群でcsDMARDsと比較して帯状疱疹リスクが高かった
 
◎治療経過別でのサブグループ解析
  • 経過中の治療切替に関して解析
    • 「ベースラインの治療がcsDMARDs」の場合csDMARDs群に入るが、経過中に他薬剤に切り替える場合がある→切り替えた期間はその治療群に入れることでサブグループ解析を実施した。
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      • サブグループのデータ
  • このサブグループに対して、年齢・性別・グルココルチコイドの使用量を調整した解析を実施
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    • モノクローナル抗TNF抗体群・RTX群・JAK阻害薬群ではcsDMARDsと比較して帯状疱疹リスク上昇
    • 可溶性TNF受容体融合タンパク質群・ABT群ではcsDMARDsと比較して帯状疱疹リスク上昇なし
    • 高齢・女性・ステロイドの使用は、帯状疱疹リスク増加と関連あり

【Discussion】

  • ヨーロッパの大規模な前向きコホートで行った関節リウマチ治療と帯状疱疹リスクを解析した研究
  • JAK阻害薬と帯状疱疹リスク上昇には有意な関連性あり
  • モノクローナル抗TNF抗体(IFX・ADAなど)とRTXは、帯状疱疹リスクを上げるかもしれない
    • →これまでの研究とほぼ同様
  • TNF阻害薬内で、モノクローナル抗TNF抗体は帯状疱疹リスクを上げるが、可溶性TNF受容体融合タンパク質では上がらない
    • モノクローナル抗TNF抗体は膜貫通型TNFと結合するが、可溶性TNF受容体融合タンパク質は結合しないから?
  • 年齢・ステロイド使用で帯状疱疹リスクが上がるのも既報通り
  • ステロイド投与量の多い高齢者・JAK阻害薬使用が予定されている患者は、帯状疱疹リスクが高いため帯状疱疹ワクチンを検討すべきであることを示唆している
    • Tofacitiniba投与を受けたRA患者において、ワクチン接種でリスク軽減できる可能性は示唆されている(Arthritis Care Res 2019;71:1249–54.)
  • Limitation
    • ワクチン接種状況に関しては考慮されていない
    • MTX使用状況に関しては調整していない
 

【感想】

  • JAK阻害薬で帯状疱疹リスクが上がるので帯状疱疹ワクチンを受けたほうがいいと言う流れが最近主流になっていた
  • ただ、それだけではなくPSL使用・高齢・RTXやモノクローナル抗TNF抗体使用といったリスクを複数持つ患者にも帯状疱疹ワクチンを考慮してもいいかもしれない
  • ただ免疫抑制治療を受けている患者は生ワクチン接種できないので、不活化ワクチン(シングリックス®)しか接種できない
  • シングリックス®は大体1回21,000円x2回(2ヶ月間隔)で高価。JAK阻害薬も高いので、「高い治療を始めるにあたって、高い予防を行う必要がある」という悲しい現実が最大の問題である
  • ただ帯状疱疹罹患するとQOLも下がり治療費も高いので、先行投資と思ってやってもらえると治療側としては助かるのだが…
参考:

 

ctd-gim.hatenablog.com