"Glucocorticoid induced adrenal insufficiency." BMJ. 2021;374:n1380.
ステロイド長期使用で必ず問題となる医原性副腎不全に関してのレビュー。
非常に長いが、実践的な内容が詰まった非常にいいレビューなので、アプローチのところだけでも読んでほしい。
◎Key Point
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ステロイド誘発性副腎不全のリスクを患者ごとに層別化し、適切なアプローチを行う
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副腎不全患者に関しては、患者教育と定期的なフォロー及び治療を行うことが重要
- ◎Key Point
- 【疫学】
- 【視床下部-下垂体-副腎カスケードの抑制と回復】
- 【ステロイド誘発性副腎不全のリスクとアプローチ】
- 【投与経路別注意点】
- 【副腎クリーゼと症候性ステロイド誘発性副腎不全】
- 【視床下部-下垂体-副腎カスケードが抑制状態の患者の臨床症状】
- 【ステロイド漸減アプローチとステロイド誘発性副腎不全のマネジメント】
- 【視床下部-下垂体-副腎カスケードの評価】
- 【感想】
【疫学】
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全身性ステロイド長期使用患者さんの率は0.5-1.8%程度であり、慢性使用例は多い
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経口ステロイドによって誘発されるGI-AIの絶対リスクは48.7%で、血液悪性腫瘍患者・腎移植後の患者でリスクが高い
【視床下部-下垂体-副腎カスケードの抑制と回復】
【ステロイド誘発性副腎不全のリスクとアプローチ】
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様々なリスクが有り、以下を層別化して患者ごとのリスクを評価することが重要
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以下の要因・リスク分類を活用して患者を評価→リスク別にアプローチ
ステロイド誘発性副腎不全(GI-AI)のリスクに影響を与える要因
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投与経路
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【全身投与】
【吸入ステロイド】
【経皮ステロイド】
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半減期・効力
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(特に全身投与)
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投与量
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高用量使用がリスク(特に長期間・毎日投与の場合)
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薬物相互作用
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◎CYP3A4阻害薬
CYP3A4はステロイドを不活させる主要な経路
→CYP3A4阻害薬はステロイドの全身暴露を増加させる
→CYP3A4阻害薬はGI-AIリスクを上げる
◎CYP3A4誘導薬
CYP3A4誘導薬はステロイドの全身曝露を減少させる
→CYP3A4誘導薬は元々GI−AIがある場合、コルチゾール欠乏症の症状を発現させるリスクがある
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他の薬の併用
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GI-AIリスク
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全ての投与経路
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全身投与(経口・静脈・筋肉内投与)
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吸入投与
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関節内投与
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非常に高い
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副腎皮質クリーゼ歴があり、ステロイド使用中の患者
Cushing病様の特徴があり、ステロイド使用中の患者
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高
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副腎不全を示唆する徴候・症状があり、最近または現在外因性ステロイドを使用している患者
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(成人)PED≧5mg、4週間以上の毎日投与
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高用量使用(プロピオン酸フルチカゾンは高リスク)
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確固たるエビデンス不十分
視床下部-下垂体-副腎カスケード抑制は、注射後約2ヶ月ある
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(小児)PED≧2-3mg/m^2、4週間以上の毎日投与
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12ヶ月以上の継続治療
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強力なCYP3A4阻害薬の併用
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長期の眠前投与
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経口ステロイド等との併用
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中
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長期ステロイド治療を中止して1年未満の無症状患者
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(成人)PED≧5mg、2-4週間の毎日投与
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6〜12ヶ月間の低/中用量使用
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(小児)PED≧2-3mg/m^2、2-4週間の毎日投与
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(成人)PED<5mgでの毎日投与
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(小児)PED<2-3mg/m^2での毎日投与
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2週間未満の毎日投与の繰り返し
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2週間未満の毎日投与
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低
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長期ステロイド治療を中止して1年以上の無症状患者
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2週間未満の毎日投与を単回
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6ヶ月未満の低/中用量使用
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パルス療法
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上記アプローチに加えて患者教育を行う
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全患者
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ステロイド減量時の副腎不全リスクを説明する
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中リスク〜
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患者・周囲の人に副腎不全の症状について説明する
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ステロイドを自己判断で中止しないように教育する
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副腎不全のリスクについての説明用紙を渡す(※ファイザーホームページより:https://pfizerpro.jp/cs/sv/pfizerpro/r/Page/1259675672740?aid=top_gn_tool)
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高リスク〜
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シックデイについて説明する
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必要な症例には、ステロイド緊急注射キットを提供する
【投与経路別注意点】
①全身投与ステロイド
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就寝時投与・複数回の分割投与もGI-AIリスクが高い
種類
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薬品名
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PSL換算(PSL5mgと等価)
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低力価・短時間作用型
(半減期<12時間)
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ヒドロコルチゾン
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20mg
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酢酸コルチゾン
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25mg
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デフラザコート
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6mg
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中力価・中時間作用型
(半減期12−36時間)
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プレドニゾン
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5mg
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5mg
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メチルプレドニゾロン
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4mg
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トリアムシノロン
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4mg
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高力価・長時間作用型
(半減期36−54時間)
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0.50mg
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ベタメタゾン
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0.50mg
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②吸入ステロイド
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※訳注:日本ではフルタイド®・アドエア®等に用いられている
③関節内・硬膜外ステロイド注射
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関節注射
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全身吸収・副作用リスクが全身投与と比較して少ないが、一過性の副腎抑制はよく起こる
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ただし、頻回注射ではGI-AIリスクは上昇する
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1年間に3回以上の注射を行った場合、持続的なステロイド誘発性副腎不全は中〜高リスク
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炎症性関節炎の場合、血管が豊富な部分への注射となるのでGI-AIはリスクが高い
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硬膜外
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高用量(80mg)酢酸メチルプレドニゾロン注射投与ではGI-AIリスクが高い
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短期間で改善する
④局所・直腸ステロイド
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GI-AIの報告はあるが、ほぼ逸話的
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経皮吸収は、粘膜・眼瞼・陰嚢で高いので注意
【副腎クリーゼと症候性ステロイド誘発性副腎不全】
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副腎クリーゼでの死亡・入院報告はいくつかある
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ステロイド誘発性副腎不全は、他の原因での副腎不全よりも副腎クリーゼ発生率が高い(Clin Endocrinol Metab 2021;106:e1408-19.)
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最も一般的なトリガーは感染
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一部の患者は外因性のステロイドの減量・中止後に副腎クリーゼを発症した
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ステロイド中止後の死亡率は、中止直後の数ヶ月で著しく上昇する(BMC Endocr Disord 2017;17:58.)
【視床下部-下垂体-副腎カスケードが抑制状態の患者の臨床症状】
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ステロイド誘発性副腎不全の患者は、症状がないもの〜致死的な副腎クリーゼまで様々な程度に分けられる
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医原性Cushing病・医原性副腎不全の両方を同時に呈する場合がある
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ステロイドの中止・補充用量以下への減量によって、副腎不全症状・副腎クリーゼを起こしうる
病態
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症状
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医原性副腎不全
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医原性Cushing
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副腎クリーゼ
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致死的な緊急疾患であり、医原性副腎不全・医原性Cushing患者では起こるリスクが有る
以下のうち2つ以上を呈する
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【ステロイド漸減アプローチとステロイド誘発性副腎不全のマネジメント】
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確立した方法があるわけではないが、以下の推奨事項・管理方法が提示されている
ステロイド誘発性副腎不全のリスクを減らすための推奨事項
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ステロイド全身投与
(経口含む)
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※訳注…あくまで副腎不全対策としての漸減方法てあり、原病の病勢に関しては考慮していないと思われるの注意 |
吸入ステロイド
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関節内ステロイド
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患者教育
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プロバイダー教育
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患者の医療記録・推奨事項・説明カード等を患者に渡しておく
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ステロイド漸減に関しての考慮事項
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初期のステロイド急速漸減
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その後のステロイド漸減
(ステロイド離脱症候群の重症度に応じて適応可能)
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視床下部-下垂体-副腎カスケードの回復評価
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ステロイド誘発性副腎不全のマネジメント(内科医)
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ステロイド誘発性副腎不全のマネジメント(患者)
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※ステロイド離脱症候群
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糖質コルチコイドの漸減中に発生する可能性のある離脱反応
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症状としては、副腎不全とほぼ同様の症状を起こすため、鑑別は困難
【視床下部-下垂体-副腎カスケードの評価】
【感想】
非常に実戦的な良いレビュー。ステロイドを出すのはかんたんだが、やめるのは常に難しい。ただ、ステロイドを出す以上はきちんとした「やめ方」も知って然るべきであり、内分泌内科領域に近いことであっても各医師が適切に行うことが重要である。その方針を示す良い論文だった。
ただ、相対的副腎不全についての言及はなかったので注意は必要だろう。