膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

ステロイド誘発性副腎不全

"Glucocorticoid induced adrenal insufficiency." BMJ. 2021;374:n1380.
 
ステロイド長期使用で必ず問題となる医原性副腎不全に関してのレビュー。
非常に長いが、実践的な内容が詰まった非常にいいレビューなので、アプローチのところだけでも読んでほしい。
内服ステロイドのみならず、あらゆるステロイド製剤を処方する医師に読んでもらいたい。
 

◎Key Point

  • ステロイド誘発性副腎不全のリスクを患者ごとに層別化し、適切なアプローチを行う
  • 視床下部-下垂体-副腎カスケード評価には早朝血中コルチゾール測定が簡便だが、負荷試験併用を考慮する
  • 副腎不全患者に関しては、患者教育と定期的なフォロー及び治療を行うことが重要
外部からのステロイド投与による副腎不全(glucocorticoid induced adrenal insufficiency; GI-AI)はコルチゾール欠乏症の原因として多いものの一つである。
長期のステロイド治療によって副腎不全は発生し、ステロイド中止を妨げる要因となる
 

【疫学】

 

視床下部-下垂体-副腎カスケードの抑制と回復】

  • 外部から投与されたステロイドは、視床下部から分泌されるCRH(コルチコトロピン放出ホルモン)・下垂体から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)に対して負のフィードバックをかける
  • →この結果、副腎からのコルチゾール分泌を抑制
  • 長期間のステロイド暴露によって、副腎皮質の形成不全・萎縮が発生する
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  • ステロイドを中止すると、まずACTHが回復し、次にCRH、最後にコルチゾール・アンドロゲンが回復する
  • ただし、長期間のステロイド暴露におってコルチゾール分泌異常は長期間続く可能性がある
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ステロイド誘発性副腎不全のリスクとアプローチ

  • 様々なリスクが有り、以下を層別化して患者ごとのリスクを評価することが重要
  • 以下の要因・リスク分類を活用して患者を評価→リスク別にアプローチ
ステロイド誘発性副腎不全(GI-AI)のリスクに影響を与える要因
投与経路
【全身投与】
  • GI-AIリスク上昇
    • 2-4週間以上の毎日投与
    • 1日複数回の分割投与
    • 就寝時の内服
  • GI-AIリスク低下
    • 隔日投与
    • パルス投与
【吸入ステロイド
【関節注射ステロイド
【経皮ステロイド
  • GI-AIリスク上昇
    • 大量・高用量ステロイドの長期/頻繁の使用
    • 炎症を起こした皮膚・バリア機能の破綻した皮膚への長期使用
    • 密閉ドレッシング
    • 粘膜・眼瞼・陰嚢への使用
    • 体重に対しての体表面積が多い(小児)
半減期・効力
長時間作用型ステロイド・力価の高いステロイドの使用がリスク
(特に全身投与)
投与量
高用量使用がリスク(特に長期間・毎日投与の場合)
薬物相互作用
◎CYP3A4阻害薬
CYP3A4はステロイドを不活させる主要な経路
→CYP3A4阻害薬はステロイドの全身暴露を増加させる
→CYP3A4阻害薬はGI-AIリスクを上げる
  • 強い阻害薬…クラリスロマイシン、イトラコナゾール、ケトコナゾールなど
  • 中等度の阻害薬…アミオダロン、シメチジン、シクロスポリン、ジルチアゼム、エリスロマイシン、フルコナゾール、グレープフルーツジュース、イマチニブなど
◎CYP3A4誘導薬
CYP3A4誘導薬はステロイドの全身曝露を減少させる
→CYP3A4誘導薬は元々GI−AIがある場合、コルチゾール欠乏症の症状を発現させるリスクがある
他の薬の併用
  • 酢酸メゲストロール(黄体ホルモン類似薬)は糖質コルチコイド活性あり→副腎抑制リスク高くなる
  • 高用量酢酸メドロキシプロゲステロンはACTH放出を阻害し、弱い糖質コルチコイド活性を発揮する可能性あり
 
投与経路別リスク分類 ※ステロイド用量はプレドニン等価量(PED)
GI-AIリスク
全ての投与経路
全身投与(経口・静脈・筋肉内投与)
吸入投与
関節内投与
非常に高い
副腎皮質クリーゼ歴があり、ステロイド使用中の患者
Cushing病様の特徴があり、ステロイド使用中の患者
副腎不全を示唆する徴候・症状があり、最近または現在外因性ステロイドを使用している患者
(成人)PED≧5mg、4週間以上の毎日投与
高用量使用(プロピオン酸フルチカゾンは高リスク)
確固たるエビデンス不十分
視床下部-下垂体-副腎カスケード抑制は、注射後約2ヶ月ある
(小児)PED≧2-3mg/m^2、4週間以上の毎日投与
12ヶ月以上の継続治療
強力なCYP3A4阻害薬の併用
長期の眠前投与
経口ステロイド等との併用
長期ステロイド治療を中止して1年未満の無症状患者
(成人)PED≧5mg、2-4週間の毎日投与
6〜12ヶ月間の低/中用量使用
(小児)PED≧2-3mg/m^2、2-4週間の毎日投与
(成人)PED<5mgでの毎日投与
(小児)PED<2-3mg/m^2での毎日投与
2週間未満の毎日投与の繰り返し
2週間未満の毎日投与
長期ステロイド治療を中止して1年以上の無症状患者
2週間未満の毎日投与を単回
6ヶ月未満の低/中用量使用
パルス療法
 

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【投与経路別注意点】

①全身投与ステロイド
  • 半減期が長く効力の高いステロイドはGI-AIリスクが高い
  • 就寝時投与・複数回の分割投与もGI-AIリスクが高い
  • 高用量ステロイドの短期投与(<2週間)でGI-AIが起こるリスクは低いが、繰り返し投与を受ける症例(化学療法・COPD/喘息の急性期治療など)ではGI-AIリスクが有る
種類
薬品名
PSL換算(PSL5mgと等価)
低力価・短時間作用型
半減期<12時間)
ヒドロコルチゾン
20mg
酢酸コルチゾン
25mg
デフラザコート
6mg
中力価・中時間作用型
半減期12−36時間)
プレドニゾン
5mg
5mg
4mg
トリアムシノロ
4mg
高力価・長時間作用型
半減期36−54時間)
0.50mg
ベタメタゾン
0.50mg
 
②吸入ステロイド
  • 吸入ステロイドは肺・消化管等から直接吸収され、肝臓での初回通過代謝されても残っている場合は全身に影響を与える
  • 吸入ステロイドのみを用いた喘息・COPD患者のGI-AIリスクは6.8%とされ、投与量・治療期間と正の相関あり(J Clin Endocrinol Metab 2015;100:2171-80.)
  • 吸入ステロイドでGI-AIを起こした患者の大半はプロピオン酸フルチカゾンを使用している半減期が高く、糖質コルチコイド受容体に対しての結合力が高い
    • ※訳注:日本ではフルタイド®・アドエア®等に用いられている
 
③関節内・硬膜外ステロイド注射
  • 関節注射
    • 全身吸収・副作用リスクが全身投与と比較して少ないが、一過性の副腎抑制はよく起こる
    • ただし、頻回注射ではGI-AIリスクは上昇する
      • 1年間に3回以上の注射を行った場合、持続的なステロイド誘発性副腎不全は中〜高リスク
    • 炎症性関節炎の場合、血管が豊富な部分への注射となるのでGI-AIはリスクが高い
  • 硬膜外
    • 高用量(80mg)酢酸メチルプレドニゾロン注射投与ではGI-AIリスクが高い
    • 短期間で改善する
 
④局所・直腸ステロイド
  • GI-AIの報告はあるが、ほぼ逸話的
  • 経皮吸収は、粘膜・眼瞼・陰嚢で高いので注意
  • ステロイド浣腸は炎症性腸疾患(IBD)で使用される
 

【副腎クリーゼと症候性ステロイド誘発性副腎不全】

  • 副腎クリーゼでの死亡・入院報告はいくつかある
  • ステロイド誘発性副腎不全は、他の原因での副腎不全よりも副腎クリーゼ発生率が高い(Clin Endocrinol Metab 2021;106:e1408-19.)
    • 最も一般的なトリガーは感染
    • 一部の患者は外因性のステロイドの減量・中止後に副腎クリーゼを発症した
  • 長期経口ステロイドの中止で発生するリスクが高いのは、低血圧・消化器症状・低血糖・低ナトリウム血症であった(PLoS One 2019 ; 14:e0212259.)
    • 発症リスクが高いのは、高用量ステロイドを長期間使用している高齢患者、感染症状態の患者
  • ステロイド中止後の死亡率は、中止直後の数ヶ月で著しく上昇する(BMC Endocr Disord 2017;17:58.)
 

視床下部-下垂体-副腎カスケードが抑制状態の患者の臨床症状】

  • ステロイド誘発性副腎不全の患者は、症状がないもの〜致死的な副腎クリーゼまで様々な程度に分けられる
  • 医原性Cushing病・医原性副腎不全の両方を同時に呈する場合がある
  • ステロイドの中止・補充用量以下への減量によって、副腎不全症状・副腎クリーゼを起こしうる
病態
症状
医原性副腎不全
  • 全身倦怠感・疲労・虚弱
  • めまい(体位性めまい含む)
  • 消化器症状(嘔気・嘔吐・下痢・腹痛・食欲低下)
  • 体重減少
  • 低血圧(起立性低血圧含む)
  • 頭痛(通常朝)
  • 関節痛(特に手関節)、筋痛
  • 繰り返す改善の遅い呼吸器感染症
  • 非常に白く淡い皮膚
  • 低成長(低身長・低体重)(小児)
  • 低血糖(小児で頻発)
  • 低ナトリウム血症
  • リンパ球減少・好酸球増加
医原性Cushing
  • 近位筋の筋力低下
  • 体重増加・中心性肥満
  • 不均衡な鎖骨上窩・頚背部のfat pad
  • 満月様顔貌
  • 皮膚萎縮・アザができやすい・皮膚線条
  • 多毛、創傷治癒遅延
  • 神経過敏、記憶障害、うつ病
  • 高血圧、糖代謝異常
  • 月経不順(女性)
  • 低成長(小児)
副腎クリーゼ
致死的な緊急疾患であり、医原性副腎不全・医原性Cushing患者では起こるリスクが有る
以下のうち2つ以上を呈する
  • 低血圧or循環血液量減少性ショック
  • 嘔気・嘔吐
  • 重度の倦怠感
  • 発熱
  • 意識障害…無気力、錯乱、傾眠、神経衰弱、せん妄、昏睡、けいれんなど
検査異常(低血糖・低ナトリウム血症・リンパ球減少・好酸球増加)
 

ステロイド漸減アプローチとステロイド誘発性副腎不全のマネジメント】

  • 確立した方法があるわけではないが、以下の推奨事項・管理方法が提示されている
ステロイド誘発性副腎不全のリスクを減らすための推奨事項
ステロイド全身投与
(経口含む)
  • ステロイドは可能な限り最短期間・最小有効量を使用する
  • 中〜長時間作用型ステロイドを使用する場合、可能な限り1日1回投与にする
  • 可能な限り就寝時のステロイド投与を避ける
  • 治療期間が2週間未満なら、ステロイド漸減は行わず中止する

※訳注…あくまで副腎不全対策としての漸減方法てあり、原病の病勢に関しては考慮していないと思われるの注意

  • ステロイドは可能な限り最短期間・最小有効量を使用する
  • スペーサー・うがい薬を使用し、消化管からのステロイド吸収を減らす
  • 可能な限り注射回数を減らし、ステロイド注射を控える
  • 可能な限り、複数関節への同時注射を避ける
  • ステロイドの最小有効量を使用する
  • 関節内貯留期間が長いため、トリアムシノロンヘキサセトニドをトリアムシノロンアセトニドよりも優先する
    • (※日本にトリアムシノロンヘキサセトニド製剤はない)
 
ステロイド漸減アプローチとステロイド誘発性副腎不全のマネジメント
患者教育
ステロイド離脱症候群・ステロイド誘発性副腎不全の症状・対処について教育
プロバイダー教育
患者の医療記録・推奨事項・説明カード等を患者に渡しておく
ステロイド漸減に関しての考慮事項
初期のステロイド急速漸減
  • 1日投与量の漸減(PSL換算)
    • PSL>40mg…20mg/dayまで5−10mg/週ずつ減らす
    • PSL20-40mg…20mg/dayまで5mg/週ずつ減らす
    • PSL10-20mg…ステロイド漸減をゆっくりと進める
  • PSL分割内服または夕方内服→PSLを1日1回、朝内服に変更
  • デキサメタゾンを使用している場合、PSLの同等量に変更する
その後のステロイド漸減
ステロイド離脱症候群の重症度に応じて適応可能)
  • ステロイド急速漸減後またはPSL≦20mg/日の患者
    • PSL10-20mg…10mg/日まで1-2.5mg/週ずつ漸減(重度のステロイド離脱症候群がある場合は2ヶ月毎の漸減考慮)
    • PSL5-10mg…5mg/日まで1mg/週ずつ漸減(重度のステロイド離脱症候群がある場合は1-2ヶ月毎の漸減考慮)
    • PSL5mg…視床下部-下垂体-副腎カスケードの回復が確認されるまでステロイドの中止・漸減は止める
      • 回復が遅れている場合、ヒドロコルチゾン20mg(15mg朝・5mg夕)への変換考慮
視床下部-下垂体-副腎カスケードの回復評価
  • 再評価のタイミング…PSL5mgまたはヒドロコルチゾン(15mg朝・5mg夕など)への変換後1−4週間後にのみ行う
  • 再評価頻度…2−3ヶ月ごと。1−2年前から副腎機能が回復していない場合、3-6ヶ月おきに再評価することを検討する。
  • 検査…ステロイド治療から24時間後の朝に以下を行う
ステロイド誘発性副腎不全のマネジメント(内科医)
  • 症状・ステロイドの過剰/過小補充がないかの定期的な臨床評価
  • 副腎機能回復に関しての定期的な検査
  • 患者への最適投与経路(経口・注射など)の確認
  • ステロイド治療、特殊な状況(妊娠など)、シックデイ対応についての患者カウンセリング
ステロイド誘発性副腎不全のマネジメント(患者)
  • 慢性的なステロイド補充
    • ヒドロコルチゾン(例:起床時15mg、6−8時間後に5mg)
    • PSL起床時4-5mgなど
  • シックデイルール
    1. 発熱等の病気がある際・軽度の手術を受ける際、ステロイド投与量を2-3倍にする
    2. 重度外傷・胃腸炎等でステロイド経口内服ができない場合や副腎クリーゼ発症時に、ステロイド自己注射を行う
  • メディカルアラートブレスレット/ネックレスを着用する
  • ステロイドカード・医療記録を携帯する
  • ステロイド誘発性副腎不全の管理に慣れる
  • ステロイド注射の練習
ステロイド離脱症候群
  • 糖質コルチコイドの漸減中に発生する可能性のある離脱反応
  • 症状としては、副腎不全とほぼ同様の症状を起こすため、鑑別は困難
 

視床下部-下垂体-副腎カスケードの評価】

  • PSL換算で<5mg/日のステロイド服用患者でのみ評価する必要がある
  • 朝の血中コルチゾール>270nmol/L(10µg/dL)であれば、ステロイド離脱症候群・副腎クリーゼと関連はないとされている→簡易的な評価方法として役立つ可能性がある(Clin Endocrinol (Oxf) 2018;89:721-33.)
  • ただ朝の血中コルチゾール値は、絶対的な指標ではない負荷試験のほうが正確性はある
    • 測定方法・患者ごとの概日リズムで正常値が異なる
    • 経口エストロゲン製剤内服患者では高値となる
    • 肝硬変・重篤疾患患者では低値となる
 

【感想】

非常に実戦的な良いレビュー。ステロイドを出すのはかんたんだが、やめるのは常に難しい。ただ、ステロイドを出す以上はきちんとした「やめ方」も知って然るべきであり、内分泌内科領域に近いことであっても各医師が適切に行うことが重要である。その方針を示す良い論文だった。
ただ、相対的副腎不全についての言及はなかったので注意は必要だろう。