EULAR recommendations for intra-articular therapies.
Ann Rheum Dis. 2021;annrheumdis-2021-220266.
関節症患者への関節注射に対するEULARからの推奨まとめ。
関節注射に関してはまとまったエビデンスは少なく、過去レビュー・専門家意見から推奨度を作成した
包括原則
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合意率(%)
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1.関節注射は関節疾患の管理に推奨され、広く使われている
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98
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2.関節注射の目的は患者を中心としたアウトカムを改善することである
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100
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3.効果的なコミュニケーション・患者の期待・処置が行われる環境などは重要であり、関節注射の効果に影響する
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93
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4.関節注射は、完全に個別化された情報と共有された意思決定プロセスの枠内で提供されるべきである
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97
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5.様々な医療専門家がこれらの関節注射手順を日常的に行っている
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94
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推奨
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合意率(%)
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エビデンスレベル
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推奨度
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1.患者は関節注射の主義内容・注射内容・潜在的なリスク/ベネフィットについて十分に説明される必要があり、インフォームドコンセントを得て地域のルールにしたがって文書化する必要がある
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99
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4
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D
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2.関節注射を行う場所は以下が望ましい
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85
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4
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D
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3.関節注射の精度は、関節・投与経路・医療専門家の専門知識に依存する。可能であれば超音波等の画像補助を用いると精度が向上する
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93
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1B-2A
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B
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4.妊娠中に関節に注射する際には、関節注射の成分が母体と胎児にとって安全かどうかを考慮する必要がある
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98
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4
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D
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5.関節注射を行うときは、常に無菌的な手法を取る
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98
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3
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C
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6.患者には局所麻酔を勧め、その利点と欠点を説明すべきである
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75
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3-4
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D
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7.糖尿病患者(特にコントロール不良)な患者には、糖質コルチコイド注射後の一過性血糖値上昇のリスクについて説明し、特に初日から3日目までは血糖値をモニターする必要があることを説明すべきである
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97
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1B
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A
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8.関節注射は、出血のリスクが高くない限り血液凝固・出血性障害・抗血栓薬内服中の患者に禁忌ではない
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89
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3
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C
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9.関節注射は人工関節置換術の術前3ヵ月前までは実施することができ、人工関節置換術後にも外科チームと相談の上、実施することができる
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88
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3
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C
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10.関節注射を再実施するかどうかは、前回投与時の効果・個別の要因(他の治療選択肢・使用薬剤・全身治療・併存疾患など)を考慮して決定すべきである
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93
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2
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B
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11.関節注射後24時間は駐車した関節の酷使を避けるべき。ただ関節固定は推奨されない。
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94
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1B
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A
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推奨
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患者は関節注射の主義内容・注射内容・潜在的なリスク/ベネフィットについて十分に説明される必要があり、インフォームドコンセントを得て地域のルールにしたがって文書化する必要がある
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内容…処置の内容、潜在的な利益、副作用、注射後のケアなど
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口頭同意か文書同意かは推奨範囲外
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関節注射を行う場所は以下が望ましい
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プロフェッショナルで、清潔・静かな・明るい個室
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患者が適切な体位を取りやすい部屋(理想的にはカウチや診察台があり、横になりやすい部屋)…迷走神経反射対策
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無菌処置が可能な機器がある
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他の医療従事者の助けが借りられる
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近くに蘇生用の器具がある
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関節注射の精度は、関節・投与経路・医療専門家の専門知識に依存する。可能であれば超音波等の画像補助を用いると精度が向上する。
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膝に関しては上外側アプローチが推奨されるが、他の関節に関して最適なアプローチ方法は決まっていない
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超音波ガイド下での関節注射は精度が改善するという報告あり(Phys Sportsmed 2011;39:121–31. など)
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妊娠中に関節に注射する際には、関節注射の成分が母体と胎児にとって安全かどうかを考慮する必要がある
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妊娠中の関節炎に対しての局所注射は全身投与よりも多くの場合で優れている
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一部の放射性医薬品を除けば、大体は使用できる
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関節注射を行うときは、常に無菌的な手法を取る
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関節注射後の敗血症性関節炎リスクは非常に低いが、最近の研究では0.035%(7900件の手術につき3件)程度の可能性があると報告されている(Ann Rheum Dis 2008;67:638–43.)
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血液培養や手術同様、手術用手袋・皮膚消毒・薬剤吸引から投与間での針の交換が有用と思われる
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患者には局所麻酔を勧め、その利点と欠点を説明すべきである
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皮膚に塗布、皮下組織に浸潤、関節内の針路に沿って注入、局所麻酔薬単独または糖質コルチコイドと混合して関節内に注入するなど
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麻酔クリーム、リドカイン・ピロカルピン混合物、塩化エチルスプレーなどを使うことで針でさす際の痛みを軽減することができる
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局所麻酔薬の推奨は、最も低い合意となった…患者は痛みの少ない方法を求めていたが、医療専門家の約50%が局所麻酔薬を使用したことがなかった
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加温した局所麻酔薬(37℃)は室温での注入と比較して局所浸潤の痛みを軽減することができる
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針を関節内に進めながら麻酔薬を注入しても処置の痛みは抑えられない
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糖質コルチコイドと局所麻酔薬を併用することで、局所麻酔薬単独よりもより長く痛みを改善することができる
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リドカインを注射してもあまり軟骨には影響ないと思われる
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ただしアレルギーには注意→投与前にアレルギー歴を聞く必要がある
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糖尿病患者(特にコントロール不良)な患者には、糖質コルチコイド注射後の一過性血糖値上昇のリスクについて説明し、特に初日から3日目までは血糖値をモニターする必要があることを説明すべきである
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関節注射は、出血のリスクが高くない限り血液凝固・出血性障害・抗血栓薬内服中の患者に禁忌ではない
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治療後の血友病・Von Willebrand病患者への観察研究から考えると、関節注射での血腫リスクは低いと思われる(Blood 2012;120:2954–62.)
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ワーファリン服用患者への後ろ向き研究では、INR2-3 の患者でもINR<2の患者でも関節注射での合併症リスクに差はない(Am J Med 2012;125:265–9.)
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DOAC服用患者に関しても合併症報告なし(Mayo Clin Proc 2017;92:1223–6)
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関節注射は人工関節置換術の術前3ヵ月前までは実施することができ、人工関節置換術後にも外科チームと相談の上、実施することができる
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手術後3ヶ月間の人工関節感染率は、人工関節全置換術の0〜3ヶ月前に注射を行った群で有意に高かった(J Arthroplasty 2016;31:166–9.など)
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報告的には人工関節置換術後の関節注射は多いわけではないが、日常診療では避けるべきであり、人工関節感染を厳密にスクリーニングした上で注射を検討すべきである
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関節注射を再実施するかどうかは、前回投与時の効果・個別の要因(他の治療選択肢・使用薬剤・全身治療・併存疾患など)を考慮して決定すべきである
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関節注射の適切な間隔・回数についてエビデンスは特にない
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関節注射後24時間は駐車した関節の酷使を避けるべき。ただ関節固定は推奨されない。
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過去の報告では包帯・ギブスなどでの固定はあまり意味がなかった(Br Med J 1979;1:986–7.)
疾患別関節注射へのEULAR推奨
疾患
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EULAR推奨
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変形性膝関節症
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「長時間作用型糖質コルチコイド関節内注射は、膝痛の急性増悪、特に滲出液を伴う場合に適応される」
「ヒアルロン酸はおそらく膝OAに有効であるが、効果の大きさは比較的小さく、適した患者は十分に定義されておらず、その治療の医療経済的側面は十分に確立されていない」
(Ann Rheum Dis 2003;62:1145–55.)
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(Ann Rheum Dis 2017;76:29–42.)
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関節リウマチ
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「モニタリングは頻繁に行うべきで、治療を調整すべきである」
「治療の調整には、MTX等のcsDMARDsの用量・投与経路の最適化、1つ〜少数関節の活動性疾患が残存する場合はステロイド関節注射が選択肢としてある」
(Ann Rheum Dis 2020;79:685–99.)
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手指変形性関節症
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「ステロイド関節注射は、手指変形性関節症には一般的に使用すべきではないが、指関節に痛みがある患者には考慮してもよい」
(Ann Rheum Dis 2019;78:16–24.)
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急性または最近発症した膝関節腫脹
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「ステロイド関節注射は、適切な診断がなされ禁忌症が除外されない限り、投与してはならない」
(Ann Rheum Dis 2010;69:12–19.)
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感想
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ありそうでなかった関節注射についての推奨だが、「当たり前の内容」が多いと思った
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関節注射愛好家としては、一応抑えておくべき内容だと思う
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超音波ガイド下での関節注射推奨・局所麻酔後の関節注射推奨というのは、結構目新しいなと思った
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ただ局所麻酔を行う手間が大変そう。