膠原病・リウマチ一人抄読会

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腱付着部炎レビュー

Enthesitis: from pathophysiology to treatment. Nat Rev Rheumatol. 2017;13(12):731-741.
Review: Enthesitis: New Insights Into Pathogenesis, Diagnostic Modalities, and Treatment. Arthritis Rheumatol. 2016;68(2):312-322.
 
腱付着部炎は乾癬性関節炎(PsA)等の脊椎関節炎(SpA)で多い症候である。
 
Key Point】
  • Entheses(腱付着部)は乾癬性関節炎(PsA)・脊椎関節炎(SpA)で炎症のフォーカスとなる関節外の構造である
  • 腱付着部には特有の免疫微小環境がある
  • 腱付着部炎はプロスタグランジンE2とIL-23~IL-17軸の活性化から生じ、自然免疫細胞の流入・炎症惹起をお越し、間葉組織反応・骨形成を起こす
  • 腱付着部炎の検出・フォローに役立つ臨床所見・画像機器がある
  • 腱付着部炎の解消にIL-17,IL-23,TNFの阻害が役立つ

【総論】

  • 腱付着部は腱鞘・靱帯の骨表面への接合部を指し、全身の100ヶ所以上ある
  • 付着部は関節内・関節外付着部に分かれる
      • a. 関節内の付着部:腱付着部炎によって続発性滑膜炎を起こす
      • b. 関節外の付着部
        • 例)アキレス腱、足底筋膜、肘上顆、椎骨端前縦靭帯付着部
 

【病態生理】

  • 健康な人でも繰り返す機械的負荷から腱付着部炎を起こすことがある…例)テニス肘、ゴルフ肘
  • PsA・SpAでの腱付着部炎が機械的負荷による腱付着部炎とことなるという症候はないが、機械的負荷がなくても付着部炎が起こることはある
    • 乾癬のKöebner現象同様に、付着部が「こすれる」ことによって付着部炎になっている可能性はある
  • 遺伝子異常と上皮バリア障害が関係している?
    • 乾癬による皮膚障害、腸炎による腸管上皮障害→微生物暴露増加→免疫反応長期化が仮説
  • 腱付着部炎は主には自然免疫反応で起こり、主には機械的ストレスが原因となる
◎機能モデル
    • a. 機械的ストレス・感染・上皮バリア障害によってPGE2・IL-23活性化→血管拡張、ILC3b・γδT細胞の活性化が起こる
    • b. ILC3b・γδT細胞からIL-17,TNF放出→好中球等の免疫細胞が流出
    • c. IL-17,IL-22によって間葉系幹細胞の活性化・増殖が起こる
    • d. 間葉系幹細胞(MSC)からのヘッジホッグシグナル・副甲状腺関連ペプチド(PTHrP)・骨形成タンパク(BMP)・Wntタンパクによって、骨芽細胞の分化・骨形成が起こる
  • このなかで特に重要なのがIL-23→IL-17の経路
    • IL-23…付着部炎の発現に重要
    • IL-17…付着部炎の増強に重要
 

【検出と評価】

  • 腱付着部炎がPsA・SpAの初期症状である場合がある
  • 腱付着部炎リスク…高体重、関節症状が高度、若年
  • PsA患者800人における腱付着部炎有病率は35%(Arthritis Care Res. (Hoboken) 69, 1685–1691 (2016).)
    • 多い部位はアキレス腱・足底筋膜・肘外顆
  • ただ、腱付着部炎の有病率は過小評価されている可能性がある…理由は2つ
    1. 腱付着部はかなり広い→腱付着部炎による関節炎を滑膜炎と誤認する
    2. 関節触診ではなく画像診断を行うと有病率が高い…画像診断ではPsAの約70%に腱付着部炎あり( Ann. Rheum. Dis. 69, 580 (2010).)
 
表:腱付着部炎と滑膜炎の鑑別
 
特徴
腱付着部炎(SpA・PsA)
滑膜炎(RA)
解剖学的局在
関節外
関節内
組織
線維軟骨
滑膜
機械的トリガー
+++
+
病因
危険応答
自己免疫
常在免疫細胞
γδT細胞、3型自然リンパ球
組織内マクロファージ
常在非免疫細胞
骨膜・線維軟骨の間葉系幹細胞
線維芽細胞様滑膜細胞
免疫活性化の種類
先天性(主に多形核好中球)
混合性
遺伝関連
MHC classⅠ遺伝子、IL23R
MHC classⅡ遺伝子
臨床症状
疼痛
疼痛・腫脹
前臨床段階
無症候性腱付着部炎
自己抗体、腱鞘炎
骨髄の関与
+++
+
骨新生
+++
-
PGE2依存性
+++
+
メトトレキサートの臨床的有用性
-
++
IL-17−IL-23依存性
+++
+
IL-6依存性
-
+++
TNF依存性
+++
+++
関連臓器
腸、皮膚
 
・臨床評価
  • 付着部部位の圧痛を確認することが臨床的には唯一の方法
    • ただ圧痛が常に炎症を示しているわけではなく、圧痛がないから付着部炎がないというわけではない
    • 付着部炎の場合、基本的には腫脹はない(時折見られる骨膜肥大は除く)
    • →圧痛が痛覚過敏だけに関係しているのか、炎症に関係しているのかはよくわかっていない
  • 付着部炎圧痛にはスコアがいくつかある
    • SPARCC、LEI、MASESなど
      • LEI…両側肘外顆・大腿骨内顆・アキレス腱付着部(J Rheumatol. 2017;44(5):599-608. )
・画像検査
    • 骨膜炎…STIR、脂肪抑制造影T1強調画像で軟部組織浮腫として骨膜に隣接する骨髄に現れる
        • STIR:踵骨後部のアキレス腱付着部の異常信号
        • 脂肪抑制T1強調画像:長腓骨筋・短腓骨筋・後脛骨筋・長趾屈筋・総指伸筋腱の広範な腱付着部炎・滑膜炎・腱鞘炎…腱鞘内・腱鞘周辺の浮腫・高信号
          • 矢印:中足部の足底面にある広範な浮腫・増強→付着部炎
      • 腱付着部の機械的ストレス→皮質横断微小血管(TCV)活性化→骨髄の炎症反応(骨炎)・免疫細胞の骨接合部への流出
  • 超音波検査
    • 無症候性の付着部炎を含めて検出に有用で、身体所見よりも感度が高い(Ann Rheum Dis. 2012;71(4):498-503.)
    • 腱付着部骨の血管新生・パワードップラー陽性が多い
      • 特に付着部の骨びらんが特に特徴的
        • A)肘上顆エコー…石灰化及びパワードップラー
 

【治療】

  • 腱付着部炎に対する治療に関する知識は限られている…付着部炎を対象とした臨床試験が殆どないため
  • 観察研究からの治療効果に対する結果…病態生理と一致している
  • 軟骨の炎症を止めて症状を緩和することが目的
  • NSIADs…PGE2の抑制→付着部炎の発症抑制
  • 経口DMARDs
    • MTX・レフルノミド・サラゾスルファピリジンも付着部炎には無効
    • アプレミラスト(PDE4阻害薬)は逆に有効…IL-17A、IL-23、TNF等の付着部炎に関与するサイトカインの産生を阻害
      • PsA患者へのアプレミラスト投与で約半数で付着部炎消退(J Rheumatol. 2015;42(3):479-488.
  • bDMARDs
    • TNF阻害薬…それぞれ効果が示されている(インフリキシマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、セルトリズマブ)
    • IL-12/23共通のp40サブユニット抗体…ウステキヌマブ
    • IL-17阻害薬…セクキヌマブ、イクセキズマブなど