膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

全身性強皮症とANCA関連血管炎の合併

“ANCA in systemic sclerosis, when vasculitis overlaps with vasculopathy: a devastating combination of pathologies” Rheumatology (Oxford). 2021;keab278.
 
  • 全身性強皮症(SSc)は、基本的には皮膚を始めとした臓器の「線維化」を起こす疾患であるが、時々他のリウマチ性疾患との合併例が見られる
  • 特にSScとの合併で危険なのがANCA関連血管炎(AAV)→SSc−AAV
    • 肺・腎臓への重度の障害を起こす
→SSc−AAVに関しての文献レビュー
 
Pubmedで1970年−2020年の50年間で224件の論文あり

①SScによる血管障害とAAVの病態

  • SScとAAVは共通点と相違点がそれぞれある
    • 血管損傷…SSc・AAVの両方で起こる
    • 血管炎症…AAVでは特徴的だが、SScではほぼ見られない
  • SSc…内皮細胞へのダメージ→毛細血管密度低下・太い血管での線維増殖性内膜病変
    • 内皮細胞障害がスタートする機序は現状不明
  • AAV
    • MPA・GPA…TNF-α等によって刺激された好中球が、ANCAによって更に活性化し、血管内皮に作用する
    • EGPA…好酸球による血管傷害
 

②SScにおけるANCAの疫学

  • SScのp/c-ANCA陽性率は0-12%と報告あり(27-29)
    • 報告によってかなりまちまちだが、おそらくは稀?
  • 比較的p-ANCA, MPO-ANCA陽性例が多い
    • c-ANCA, PR3-ANCAはかなり稀
 

③SSc−AAVの疫学

  • SScにANCA陽性でもAAV発症は稀→偶発的陽性が多い
     
    • 2200人中血管炎を起こしたのはわずか1.6%(35)
    • ただ、びまん皮膚硬化型(dcSSc)・限局皮膚硬化型(lcSSc)両方でAAV発症例報告あり注意
  • SSc−AAVが多い群
    • 女性
    • 抗Scl-70抗体陽性例
      • U1RNP, U3RNPでも報告あり
    • 他の膠原病を合併したSSc(SSc-CTD
 

④SSc−AAVの症状

  • 重篤な症状を起こす
    • ただ、GPAのような肉芽腫性炎症を伴う上気道症状は稀
    • 逆に顕微鏡的多発血管炎(MPA)・腎限局性血管炎の臨床的症状を必ず示す
症状比較一覧
 
 
SSc
SSc-AAV
強皮症腎クリーゼ
正常血圧のものあり(〜10%)
pauci-immune型糸球体腎炎
/急速進行性糸球体腎炎
肺高血圧症
間質性肺疾患(ILD)
間質性肺疾患(ILD)
肺血管炎→肺胞出血
末梢血管
指尖部潰瘍
末梢壊死
指尖部潰瘍
末梢壊死
壊死性血管炎→四肢壊死
皮膚
皮膚硬化
毛細血管拡張
皮下石灰沈着
血管炎性皮疹
神経
初期のdcSScによる手根管症候群
多発単ニューロパチー
末梢神経障害
まれ:孤立性脳血管炎、くも膜下出血
 
④-1 腎症状
  • SSc−AAV患者の75-80%で腎症状あり(34)
  • 典型的腎病理所見…半月体形成を伴うpauci-immune型糸球体腎炎/急速進行性糸球体腎炎
    • →典型的な強皮症腎ではないため、容易に鑑別できる
    • →腎症状がSScかAAVかわからない場合は腎生検が有用
  • 病態…SScによる血管障害がANCAと内皮の相互作用を悪化させる→腎障害?
 
④-2 肺症状
  • SSc−AAV患者の1/3に肺胞出血が起こる(34)
  • SSc−AAV患者の〜80%に間質性肺疾患が見られる(35)
 
④-3 末梢血管・皮膚病変
  • SSc-AAV患者の約10%に、壊死性血管炎による四肢壊死(13%)・血管炎性皮疹(10%)が起こる(34)
 
④-4 中枢神経症
  • ケースシリーズではSSc-AAV患者の15.7%に神経症状の報告あり
  • まれに孤立性脳血管炎・くも膜下出血の報告あり
 

⑤診断と治療

  • 「SSc患者にAAVを発症することがある」ということを意識することが重要
    • 典型例:SSc患者に急性腎不全が起こっているが強皮症腎クリーゼの臨床像と異なる、肺胞出血が起こる→AAV合併を疑う
  • 以下の”Red-flag”を参考に疑うと良い
SSc-AAVを疑う”Red-flag"
  • 肺胞出血
  • 尿検査の顕著な異常…大量蛋白尿/血尿
  • ANCA高力価、MPO/PR3ANCA高力価
  • 炎症マーカー(ESR/CRP)が異常高値
  • 血管炎性皮疹
  • 臨床的特徴からの鑑別も有用
    • 特に強皮症腎クリーゼは発症5年以内が多いとされる→長期罹病している患者に急性腎不全が起こった場合はAAV等の他の原因を疑う
 
強皮症腎クリーゼ
SSc−AAV
Subtype
通常びまん皮膚硬化型(dcSSc)で起こる
dcSSc/lcSScどちらでも起こる
血圧
悪性高血圧
(<10%は血圧正常)
正常血圧〜軽度高血圧
尿所見
軽度蛋白尿(<1g/day)
重度の蛋白尿
赤血球円柱を伴う血尿
→腎炎になる可能性あり
抗体
通常抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性
通常MPO-ANCA/p−ANCA陽性
臨床像
急激な腎不全の発症と重度高血圧
亜急性で進行する腎不全
降圧
ACE阻害薬が第一選択
ACE阻害薬に反応しない
ステロイド(≧15mg/day)は主要リスクの一つ
ステロイド治療に反応する
腎生検
糸球体虚血を伴う細動脈の半月状'onion skin' 狭窄による増殖性閉塞性血管障害
巣状分節壊死性病変、半月体形成、炎症性浸潤、免疫グロブリン沈着は乏しい
  • 強皮症腎クリーゼとSSc−AAVは全く治療が異なる→早期鑑別が重要
  • 検査
    • 尿所見…強皮症腎クリーゼではタンパク尿軽度、SSc−AAVでは尿所見激しい
    • 血圧…強皮症腎クリーゼでは悪性高血圧多い
    • TMA血栓性微小血管障害症)所見(溶血性貧血など)…強皮症腎クリーゼでは50%に認められる(44)
    • 腎生検…古典的腎クリーゼを呈している患者以外には必須!
    • 肺CT…ILD/胸水と肺胞出血を鑑別することが重要
  • 治療…SSc-AAVは集中治療が必要!治療はAAV治療をに準じる
    • 大量PSL+シクロホスファミド→維持療法 と言う報告が多い
    • 難治例には血漿交換・リツキシマブが多い

⑥まとめ

  • SScにAAVが合併することは稀だが、非常に重篤かつ同定が難しい
    • →”red flag”を意識することで早期同定することが重要!
  • 治療はデータがないので、通常のAAV治療を行うことが多い
    • ただ、強皮症腎クリーゼでは逆に大量ステロイドが悪化リスクであることに注意!
  • 今後の症例蓄積が必要
 

⑦感想

  • SSc患者の腎機能障害といえば
    1. 強皮症腎クリーゼ
    2. AAVとの合併(SSc−AAV) があるが、どれも重症かつ治療が全く異なるので、かなり難しい
  • 「典型的クリーゼではない強皮症の腎障害」は全例生検考慮+AAVを示唆する手がかりの収集→早期治療というのが現実的だが、相当きつい
    • 自験例でも、腎生検しようとしたらSpO2低下→肺胞出血みたいな事があった…
  • ともかく強皮症の急性腎障害には細心の注意をあたってあたることが重要だろう