膠原病・リウマチ一人抄読会

膠原病内科の勉強・アウトプットのため、読んだ論文等を投稿していく予定です。間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。個別症例相談には応じられませんのでご了承ください。

成人IgA血管炎での腹痛

Gastrointestinal Involvement in Adult IgA Vasculitis (Henoch-Schönlein Purpura): Updated Picture From a French Multicentre and Retrospective Series of 260 Cases
Rheumatology(Oxford) 2020 Mar 24;keaa104
 
IgA血管炎は、皮膚紫斑に関節痛/消化器症状/腎障害を伴うことが特徴的な急性血管炎の一種で、その原因はアレルギー性の機序と考えられている。
主には小児の疾患ではあるが、約10%が成人で発生する。その場合、消化器症状の合併が多いことが知られている。
 
キーポイント
  • 成人のIgA血管炎では消化管症状はよくある
  • 多いのは「腹痛」
  • IgA血管炎による死亡率は低く、消化管病変の影響はあまりない
  • 免疫抑制剤による治療は最初からやるべきではない

 

 
目的: 成人のIgA血管炎(IgAV)における消化管症状の関与の臨床像、治療法、予後を調べる
方法:フランスでの多施設研究。IgA血管炎患者260人を分析。消化管症状の有無での差を調べた。
結果:137人(53%)の患者はGIの関与があった。
  • 初期症状…腹痛が99%、腸出血が31%、下痢が26%、急性外科的腹部がわずか4%
  • 腹部画像検査…腸壁の肥厚が61%、87%に内視鏡検査異常あり、大半が粘膜潰瘍
  • GI +対GI-患者は若かった(46±18対54±18歳; P = 0.0004)
  • 多くの体質性症状(43%vs 23%; P = 0.0005)
  • 関節炎も多い(72 vs 50%; P = 0.0002)
  • CRPも高い(3.7 vs 1.9 mg / dl; P = 0.001)
  • 臨床反応と再発率はグループ間で同等であり
  • 死亡率(2対4%)・IgAVに関連した死亡率(1%対2%)も同等
  • 消化管関連の死亡は、腸の穿孔と腸間膜虚血によるもの
結論:成人のIgA血管炎には消化管症状合併が多い
 
フランスの多施設での後方視点研究。1990年−2015年にIgA血管炎と診断された18歳以上の患者(260例)が対象
260例中137例(53%)に消化器症状あり。内訳は以下の通り。
    • だいたい全員腹痛があり、次いで出血と下痢が多い。いわゆる外科的急性腹症は少ない
    • 90%にCT実施され、多いのは腸管壁肥厚。
          • 典型的な腸管壁肥厚(A)・粘膜紫斑(B)
    • 約半数にGForCF実施されている。多いのは潰瘍、紅斑、紫斑の順
    • あまり生検は実施されていないが、多いのは炎症細胞浸潤
腹部症状有無での比較
    • 消化器病変のある患者のほうが若く、(発熱等の)全身症状が多く、関節痛が多く、CRPが高い
    • 腎病変は有意差なし、皮膚の紫斑に関しては差がないが、腹部の紫斑は消化器病変患者のほうが多い
  • 治療
    • 消化管病変患者のほうがステロイドパルス・ステロイド・IVCY投与が多かった
      • コルヒチン使用は少ない
      • RTXに関しては言及なし
    • 消化管病変を持つ137人中の19人は特に何の治療も受けていなかった
死亡率
    • 両群でほぼ同様(GI+群3例、GI-群5例)
      • うちIgA血管炎に関連した死亡はGI+群2例、GI-群3例
        • GI+群での死亡例
          • 62歳女性腸管虚血⇨穿孔・敗血症
          • 45歳女性…急性腎障害・腸間膜虚血
        • 両方とも腎不全・関節痛あり
    • 6ヶ月生存率は97%、1年生存率は97%
    • 死亡した患者はCRP>5で、ベースラインのCRPが高いことと死亡は有意に相関していた
Outcome
  • 1年後の再発率はmajor relapse/minor relapse共に変わりなし
  • 腎機能障害・死亡率は特に変わりなし
 
考察
  • 成人のIgA血管炎には53%に消化器症状あり→大体先行研究と同様
    • 腹痛症状が主である。
  • 消化器症状患者では、全身症状・腹部紫斑・関節痛等の症状が消化器症状のない患者と比較してよく見られた
  • 腹部症状があるから死亡率が高くなる、ということは特にない
    • 一方AAV・PAN患者で腹部症状をきたす場合、34%に外科的腹膜炎を起こして、 15%に消化管閃光を起こした→IgAVの腹部症状(外科的腹膜炎はたった4%)と同列には考えにくい
  • IgA血管炎に対しての最適治療というものはよくわかっていない
    • 非重症者は勝手に改善する
    • 腸管出血や穿孔といった重篤な消化管合併症の予防的な治療に関しては結論出ていない。リツキシマブに期待されている。
 
フランスでの研究であり、日本人にそのまま生かせるかに関しては別として、成人IgA血管炎では関節痛/消化器症状/腎障害の合併が多いことは確か。
その消化器症状患者の特徴として
  • 消化器症状がある場合は他の全身症状合併が多い(特に発熱・腹部紫斑・関節痛)
  • 消化器症状は比較的若年に多い
  • 消化器症状は別に死亡率とは関係していない といったところは信用していいような気はする。
また、IgA血管炎は腹部症状に限らず確立した治療はないので、ANCA関連血管炎・クリオグロブリン血症といった鑑別と比較して腹部症状が致死的なことが少ない、というのは重要に思う。