“ANCA associated vasculitis”
主に初期診断までの流れをまとめた短編。
要約
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腎・肺・耳・鼻・喉・眼・末梢神経症状の慢性的/機能的症状及びその兆候のある患者に対してANCA関連血管炎を鑑別に入れる
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血管炎患者は多彩な機能的疾患を持ちうるため、血管炎疑う症状があった場合は尿検査をする
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同時期に喀血+何かしらの血管炎症状のある患者は肺胞出血の有無を評価する必要がある。
1.ANCA関連血管炎を考えるとき
以下の症状のうち、一つでもあれば考慮すべきだが、複数ある場合は強く疑う
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臨床的特徴を伴う血管炎皮疹(<20%)
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臨床的特徴(発熱・インフルエンザ様症状・尿検査異常など)を伴う紫斑
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臨床的特徴のない皮疹単独症例・紫斑が目立つ所見は、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)を疑う
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例)爪周囲紫斑、splinter hemorrhage
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呼吸器症状(~45%)
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眼球症状(<20%)
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眼痛・眼球発赤(強膜炎)
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眼球突出に伴う複視
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神経症状(~30%)
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多発性単ニューロパチー知覚異常/低下
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糖尿病・VitB12欠乏等の除外が必要
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一部下垂手・下垂足あり
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腎症状(~65%)
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血尿・蛋白尿を伴う腎機能障害
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早期の場合、無症候でeGFR正常のことあり
2.血管炎発症リスク
血管炎発症リスクは、80代中盤まで加齢とともに上昇していく。このため、70歳以上の人口での1年当たりのANCA関連血管炎発症率は100万人当たり80−90人で、糸球体腎炎の発症原因の1位となっている。ただ、どの年代でも起こりうるので注意が必要。男女差はない。環境因子はほぼないが、薬剤(コカイン・ヒドララジン・プロピルチオウラシル)だけは注意。
3.誤診の原因
ANCA関連血管炎の診断はかなり困難で、誤診も多い。
よくあるケースとしては
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原因不明の副鼻腔炎・喘息・強膜炎…EGPAは息切れ・wheezeで発症することがあり、喘息と誤診されうる
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筋痛症状で、PMRと誤診される→この場合、PSL減量で再燃・他の症状出現することでわかることあり
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肺空洞陰影を伴う血管炎性肉芽種病変が肺癌と誤診される など
また、他の臓器病変を無視して単一臓器病変をその臓器専門家が診察した結果、診断が遅れるケースが多い、という点に注意
4.診断遅延の問題点
→診断によって生存率は大幅に上昇する
5.診断方法
基本は慢性炎症+2つ以上の臓器障害
ただ、診断困難パターンが2つ存在する
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肺胞出血
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診断は難しく、致死的となる
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喀血がないのに肺胞出血を起こすケースが半数ほどいる
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肺胞出血を起こしているのに、軽度の呼吸困難・咳嗽があるのみで、肺の身体所見がほぼ正常の患者もいる
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喀血+血管炎を疑う症状→肺胞出血の否定・血算で貧血確認を!
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CT:びまん性肺胞出血
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臓器限局的な症状(全身症状なし)
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糸球体腎炎のみで症状がない→炎症反応なくても、血尿・蛋白尿があれば血管炎を鑑別に入れる
ANCA関連血管炎の鑑別は、悪性腫瘍、慢性感染症(特に細菌性心内膜炎)、他の自己免疫性疾患である。
6.検査
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尿検査:尿潜血/蛋白→異常な場合は尿タンパク量定量を
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血球…慢性炎症による正球性貧血、血小板増多症、好酸球増多、軽度の肺胞出血・腸病変による小球性貧血、急性肺胞出血による急性貧血
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BUN、Cre、電解質(腎機能障害)
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CRP・ESR(血沈)
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肝機能検査、カルシウム(血管炎では通常は正常。異常なら感染・癌を鑑別に入れる)
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ANCA力価(専門医が実施)
特に重要なのが尿検査。無症候性の時期で見つけられうる。尿検査異常単独の場合、血管炎の可能性は2%以下だが、肺病変・副鼻腔病変合併があれば85%となる。
ANCA力価は検査前確率の高い患者にのみ実施し、プライマリケアの場では、通常実施しないほうがいい。
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小血管炎患者の10%がANCA陰性
他、肺・腎生検を場合によっては施行する。
7.治療
専門医がステロイド等で治療する。
(感想)
血管炎の初期診療のまとめ。
高齢化に伴い、どんどんANCA関連血管炎は増えている。
肺胞出血が多量に起こっても、喀血がない、というのは時たま見る。自験例でも、抗菌薬不応の肺炎+急性腎障害+急激な貧血→BALで肺胞出血判明、ということがあった。相当に恐ろしい。
COVID-19の存在が肺疾患の診断をさらに困難なものにさせてくることは目に見えているので、そういう意味でも早期収束してほしい…